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なぜこうなった?

 学校が終わった放課後。

 俺は校舎の屋上にいた。

 夕日が地上線から消えかけ、あたりが薄暗くなっていく中で、そよ風に髪をなびかせながら不敵な笑みを見せる美少女が目の前にいる。


「ち、ちょっと待て! それってつまり……」


 何もかもがいきなり過ぎて、理解するのがやっとなレベル。

 そんな俺を見つめているその美少女は、なびく髪を片手で押さえながらこう言い放った。


“私と付き合ってくれない?”




 俺、谷山一馬たにやまかずまは自分でも言うのもなんだが、地元の高校に通うごく平凡な高校二年生だ。

 部活や特技などはなく、成績は中の上というそこそこな程度。

容姿は……まぁ、自称ではあるが、普通だと思っている。

 そんなどこにでもいる高校生をしている俺ではあるが、唯一違うとすれば……友人が少ないという点だけだろう。その点はおいおい話すとして、時は遡り、今朝のこと。


「何だこれ?」


 学校に登校して、上履きに履き替えようとした時、一枚の手紙らしきものがひらひらと地面に落ちた。

 俺はその手紙を手に取り、おもて面を見る。


「俺宛……?」


 友人もいないほぼぼっち状態の俺に手紙? 誰からだろうと裏面を確認するが、名前が記されていない。

 とりあえず中身を見るか。

 ピンク色の封筒を開け、中身の紙を取り出して広げる。


“一馬くんへ

 今日の放課後、屋上に来てもらえませんか? あなたに伝えたいことがあります。“



「……へ?」


 手紙を読んだと同時に思わず間抜けな声が出てしまった。

 これって要するにあれだよな? そういうことだよな?

 なぜ俺になんだろうか、疑問しか湧かない。

 ほぼぼっちみたいな俺に好意を抱いている奴がいる……。どう考えてもおかしくないか?

 これは新手のイタズラか……それともガチのものか。

 ここで考えたところで答えが出るはずもなく、俺は誰にも見られないようすかさずポケットの中に例の手紙を仕舞い込む。


「あ、やばっ! 遅刻する!」


 考えることは後からでもできる。

 俺は上履きに履き替えたところですぐに教室へと走って行った。



「ふーん……それでその手紙には送り主の名前が書かれてなかったんだね」


 昼休み。

 俺は自分の席にて、唯一の友人であり、親友の佐藤楓さとうかえでと一緒に昼食の弁当をつついていた。

 楓とは高校からの付き合いで、俺がぼっちでいるところを話しかけてくれたことがきっかけで仲良くなった。

 外見からでも分かる通り、ショートカットのボブに端正な顔立ち。性格も優しくて、人懐っこい。

 最初話しかけられた時は男子だとは思わず、女子だとばかり思って、緊張したことを覚えている。


「ああ、この手紙……楓的にはどう思うか?」


 二人でいつものように弁当を食べている中で俺は今朝の手紙について楓に相談をしていた。

 楓は、困り顔で考える仕草をとったりしているが……


「僕的には、一概にイタズラとは言えない、かな」


「そうだよなぁ」


 俺と楓の意見が一致した。

 よくよく考えてみれば……というか、考えなくとも俺は普通の高校生であり、周りより友人が少ない。

 別にクラスから嫌われているというわけでもない上にいじられキャラとか、そういうものでもない俺にイタズラ目的でこの手紙を靴箱に入れるだろうか?


「それにこの字よく見たら気づくと思うけど、女子が書いた字だと思うよ?」


「たしかに……丸文字っぽいもんな」


 女子との交流もある楓が言うのだから、間違いないだろう。

 女子が書いたと思しき例の手紙。これはラブレターとして扱っていいのだろうか……そこも気になるところだが、


「なんかいつもすまんな。楓にはたくさん相談に乗ってもらってばかりで」


「ううん、いいよ。僕にできることなら何でもするよ。だって、僕たち親友でしょ?」


 楓が天使なんじゃないかと錯覚してしまうほどの微笑みを俺に向けた。

 他に友人と呼べる存在がいない俺ではあるが、唯一の友人が楓で本当によかった。

 そう思うこの頃だった。



 そして放課後がやって来た。

 俺は緊迫した面持ちで教室を出た後、少し廊下を歩いて屋上に続く階段を上る。

 ――もう手紙の送り主はいるのだろうか? どんな子か? イタズラじゃないのか?

 いろいろな疑問や不安が頭を過る。

 やがて階段を登りきると、屋上に出る扉の前まで進む。

 このドアノブを捻って、開ければその向こう側に送り主がいるはずだ。

 高鳴る鼓動がさらに緊張感を増し、呼吸が次第に荒くなる。

 そんな自分を必死に抑えながら、俺はドアを開けた。


「って、誰もいない……?」


 ドアの先にはただただ柵越しから見える橙色に染まった空と山が見えるのみ。

 左右を見渡すが、人影すら見当たらない。


「イタズラ、だったのか……?」


 そう思ったが、まだ来ていないだけかもしれない。

 俺は近くにあったベンチに座ることにした。


 それからどれくらい時間が過ぎただろうか……。



「やっぱりイタズラだったのか」


 もう夕日は沈みかけている。

 完全に暗くならないうちに帰ろう。

 ベンチから腰を上げ、随分と長い時間座っていたということもあり、伸びをして固くなった体をほぐす。

 完全にほぐれたところで帰ろうとした時だった。

 ドアがいきなり開いたかと思いきや、そこに現れたのは……


「ふ、冬華……?!」


 俺の幼なじみである青島冬華あおしまふゆかだった。

 冬華は、家が隣同士ということもあってか、小さい頃はよく遊んだり、一緒に学校へ登校したりしていた。

 だが、いつからだろうか。気がつけば、一緒に遊ぶこともなければ、学校へ登下校することもなくなっていた。

 俺とは完全に疎遠状態になっていた冬華がなぜ屋上に……?


「よかった。まだいてくれてたのね」


「は?」


 意味が分からない。

 何を言ってるんだ? そう思った。


「靴箱に入ってたでしょ? 手紙」


「……え?」


 まさか…………


「何呆けた顔してるのよ。あれは私が入れたのよ」


「はああああああああああああああああああああああああああ?!」


 俺の雄叫びのような驚愕な声が薄暗くなってきた空に響き渡った。


「ち、ちょっと待て! それってつまり……」


 春だというのに日が落ちると少し肌寒い。

 そよ風になびいた黒くて美しい長い髪を片手で押さえながら、冬華は不敵な笑みを浮かべながらこう言った。


「私と付き合ってくれない?」


「…………は?」


 呆けた声が思わず出てしまった。

 何かの冗談なのか? それすら疑ってしまう。

 なにせ、冬華は学校一の美少女だ。

 ロングストレートの綺麗な髪に黄金比率と言っていいほどにどのパーツも完璧に整った顔。見た目は清楚系だが、それとは裏腹に冷めている性格をしていることから、氷の女王というあだ名までついている。

 そんな冬華がなぜ俺に?


「って、いきなり言っても意味が分からないよね。いいわ。この後、私の家に来れる?」


「あ、ああ……」


 そう答えるなり、冬華は部屋の片付けがあるからとか言いだして、先に屋上を出て言った。


「どうなってるんだ……?」


 一人取り残された俺は、しばらくの間屋上から動くことができなかった。


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