あいさつ
わたしが うまれたとき。
おめでとう と こんにちは のあいさつにかこまれて わたしは ねていた。
わたしの いしきがうまれたとき。
おかあさんに「こんにちはをいえ」といわれて、
とりあえず「こんにちは」とあいさつした。
わたしが ようちえんに はいったとき。
せんせいに「おはようございます」と「さようなら」を いうのをわすれて、
おかあさんに しかられた。
わたしが しょうがくせいに なったとき、
にゅうがくしきで
「しょうがっこうにいるひとはみんなともだちだから、あうひとぜんいんにあいさつしよう」
と、こうちょうせんせいがいった。
わたしは まいにちあうひと ぜんいんに あいさつした。
あさは「おはよう」
かえりは「さよなら」
おとなにも、こどもにも、せんせいにも、ようむいんさんにも、みんなにあいさつした。
わたしが ちゅうがくせいに なったとき。
わたしが「おはよう」といったら、なんにんかはあいさつをせずに、くすくすとわらった。
わたしはそれから、かぞくと、ともだちのいちぶだけに あいさつすることにした。
わたしが こうこうせいに なったとき。
だいすきだったあのひとに、さいごまであいさつできなかった。
わたしがおみせのてんいんになったとき。
えがおでおきゃくさまにあいさつができるように、みんなでむかいあってあいさつのくんれんをした。
くんれんでできるようになったえがおのあいさつに、
いったいなんのいみがあるのだろう。
わたしがけっこんしてこのまちにやってきたとき。
まいあさあいさつをするのは おっとだけになっていた。
ほかのだれとも あいさつするきっかけなどなかったよ。
そのとき、もっとだれかとあいさつしたいと
おもっているじぶんがいることに きがついたんだ。
わたしが こどもをうんだとき。
わたしはこどもに「こんにちは」といった。
たくさんの「こんにちは」と「おめでとう」にかこまれて、おまえはしあわせだろうか。
わたしはおまえをしあわせにできるのだろうか。
わたしが しぬとき。
きっとさよならをいうよ。
ちからをふりしぼったさよならをいうよ。
だからそれまでげんきでいてね。
そうねがってきみをそだてているわたしや
きみをたよりにしているともだちがいることを、
ずっとずっとわすれないでほしい。
わたしはきめた。
そうだ、しあわせになるためにきみにあいさつをおしえよう。
あいさつするひとがいるというのが、このよでいちばんしあわせなことなんだ と、
いっしょうかけて きみにおしえたい。
いってらっしゃい。
おかえりなさい。
いってきます。
ただいま。