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01 王子様の拾い物

乙ゲーの攻略対象である王子は何度も何度も婚約者と離れては、人生をループしている。なぜなら悪役令嬢のバッドエンドがエンディングだから。


そしてまた始まってしまったニューゲーム!

だけど今回はちょっと違う!?


※数話で終わる予定です。



何度も、何度も、何度も見た彼女の末路どれ一つ忘れたことなど無い。ある時は泣きじゃくり、絶望のあまり気が狂ってしまった事もある、またある時は他国へ亡命し、そして自ら命を絶ったことも……。どんなに想っても彼女と結ばれない人生を、生まれてから学園卒業までを繰り返して繰り返して、もう何回目かは覚えているわけがない!今世こそ……今世こそ俺は……!シルヴィエと結婚するんだ!!


「殿下、お顔が大変だらしなく崩れております」

「セス!今世の結婚はお前にかかっている……ッ!」

「やめてください、荷が重すぎます」

「お前の記憶だと……その、フラグイベントとやらは入学から始まるんだな?」

「はい。《トキメキ☆きゅん×2 マジカルラブ♡ 〜愛されちゃって世界平和!〜》の冒頭ムービーは、主人公が貴族の学園へ入学するシーンからでした」

「何度聞いても頭の痛い文字列だな……」

「長いので”トキマブ”と呼ばれています」


眉間に皺を寄せてため息を吐き、窓辺で黄昏る金髪碧眼の少年はネルトリウス国第一王子、エヴァン•アイゼア•ネルトリウスであり、その傍に立っている燕尾服の青年は王子の専属執事セスである。彼の黒髪黒眼はこの国ではとても稀で、というものセスは異世界からやって来たからなのである。


魔導という力があるこの世界では、緑、火、水、土の魔力の他に、古より神に愛されし巫女が授かるといわれる光、そしてその神と対に生まれたが疎まれて葬られた闇の魔力が存在する。


ちなみにセスは異世界補正故の”チート”なのか、緑、火、水の三属性を持つ。







二人の出会いは五年前……、街へ遊びに行ったエヴァンは、お忍びで変装をして馬車に乗っていた。そんな時、道端に飛び出した子供を庇い、危うく馬に蹴られかけたのがセスである。怪我はないかと心配になったエヴァンは馬車から飛び降り、道端に伏している少年に声を掛けた。子供の無事を確認した後、少年の方へ向くと彼の口から出た言葉は……


「エヴァン王子!?やべぇ、まさかこのシーンは本来ならヒロインとの出会いだったんじゃ…!?」


というわけの分からないものだった。が、しかしエヴァンには大きな問題だ。変装が見破られたことではない。エヴァンが動揺したのは、今までのどの人生でもこの男に”会ったことがない”からだ。


「お、お前……名は何という」

「名前?えーと……えー……、カタセスズヤです」

「カタ、セス……ズ?」

「あー……発音が難しいならセスで結構です」

「……先程言っていたこと、詳しくは城で聞かせてもらおう。おい、衛兵!この男に礼がしたい。城に連れて帰るぞ」


突然幼い王子が、見るからに平民である男をもてなすと訳の分からないことを言い出し、護衛たちは困惑していた。


「殿下!こんな素性も分からぬ者、しかもこんな奇妙な髪色の……」

「馬車での事故を防いでくれた。国民と僕の名誉を守った男を無下にしろと?」

「そう仰るのであれば……、殿下の仰せのままに!」

「え?ちょ……?えぇ!?」


王子に睨まれては逆らえない護衛兵はその男を保護すると後方にもう一台いる護衛兵の馬車へと詰め込んだ。


かくして、セスはエヴァンに問い詰められ、事故に遭って目覚めたらこの世界に来たこと、帰る方法は不明、そしてこの世界はセスの世界ではRPG戦闘の乙女ゲームであり、エヴァンは攻略対象だということを洗いざらい話した。


「ならセスはこの先に何が起こるか知っていると……?」

「あー……まぁ一部は」

「シルヴィエのことも?」

「シルヴィエって……悪役令嬢シルヴィエ•アルバニアですか?エレノアに嫌がらせしたり攻略ルートで邪魔したりしてくる……」

「シルヴィエはそんな女ではない!」

「えっ?殿下はシルヴィエのこと嫌いなんじゃないですか!?」

「嫌いなわけがあるか!大好きだ!!もう何百年も何度人生を繰り返しても彼女だけを愛してる!!!!」

「しゅ、周回プレイ!?ゲームのキャラが自分の人生を……?」


セスは笑いすぎてのたうち回ったが、イラついたエヴァンに首根っこを掴まれてソファに無理やり座らされると、そのまま長々とエヴァンの今での話を聞かされてたのである。







「はー……つまり、エヴァン殿下はずっとシルヴィエ様が好きなのに毎回上手くいかず、シルヴィエ様は悲惨な末路を辿ると……」

「あぁ……」

「そりゃ仕方ないですよ、この世界は”ゲーム”なんですから。シナリオでどのルートでもシルヴィエはそうなる運命なんです」

「だが、お前が現れたのは今世が初めてだ。何か変化が起こる可能性は?」

「ある、かもしれないですが……あまり期待はしないでくださいよ?シナリオの強制力がどれ程なのか見当もつかないんです」


エレノアの行動が全ての原因だと知ったエヴァンは、自分と攻略対象である自分の側近をエレノアに近づけなければシルヴィエと上手くいくのではないかと考えた。


苦笑いを浮かべるセスに、エヴァンは自分の専属執事となって側にいろと命じた。身元不明で珍しい黒髪黒眼のセスは街にいるとどんな目に遭うか分かったものではない。セスにとってもゲームの攻略対象と一緒にいれば自分の目でイベントを見られるかもしれないという好奇心で引き受けた。セスは生前……ゲームオタクで、RPG要素が面白いということで乙女ゲームでも気にせずにプレイしていたのだ。勿論全ルート攻略済みというやりこみっぷりである。







「セス、入学式で起こるイベントは?」

「五年前に道に飛び出した子供を庇ったエレノアは、その時に馬車から降りてきて『怪我はなかったか?』と優しく声を掛けてくれた少年と再会、王子と知って身分の違いに落胆する、です」

「毎度飛び出してきたあの女がエレノアだったのか……」

「まぁそれは俺がやっちゃったんですけども。しかもその時のエレノアはまだ平民です」

「ノラン男爵家の子だとは知らなかったのか?」

「彼女の母親は、義母に追い出されたんですよ。そして身分を捨てて平民として街で暮らしてたんです。だけどもう男爵も爺さんで、息子も中年、その次に家を継ぐヤツもいなくなってしまったので……」

「それでエレノアが家へ戻されたのか」


プロローグで語られる生い立ちの後のエレノアの台詞は「貴族社会でも負けずに頑張るぞ!素敵な男性と出会えたらいいな♡」なとど意気込んでおり、そして後にあらゆる男を陥落させてきたのだ。


「今世では彼女とは一度も会っていない」

「なら殿下とのフラグはまだ立っていませんね」

「そのフラグとやらはよく分からないが……まぁいい。馬車から降りたら執事として振る舞え」

「は、仰せのままに」


エヴァンと二人きりの時は砕けた雰囲気のセスだが、みっちり仕込まれ立派な執事となった今では見事な切り替えができる。

王家の紋付きの馬車を降りると、女生徒からの黄色い声が上がった。


「エヴァン殿下よ……!」

「殿下と同じ学園だなんて夢のようだわ……」

「はぁ……なんて麗しい……」


うっとりとする女生徒達に亀裂ができ、その道から一人の少女が歩いてきた。きらめく赤毛は大きくくるりと見事な縦ロール、ぱっちりとした琥珀色の目に、少しつり上がった目尻、凹凸見事なボディラインで上品に制服を着こなすその人こそ、エヴァンの本命であるシルヴィエ•アルバニア公爵令嬢である。


「おはようシルヴィエ」

「おはようございます、エヴァン殿下。正直に申し上げて殿下がそこへずっといらしては後がつっかえて馬車が進みませんわ」

「す、すまない……」

「殿下、馬車と荷物はわたくしにお任せ下さい」

「頼んだぞセス。さ、行こうかシルヴィエ」


エヴァンがエスコートの礼をとると、シルヴィエは当然とばかりにその手を取った。二人の為に道は開かれ優雅に歩き出す王子とその婚約者……を邪魔する者が一人。


「広すぎて説明会場が分かんないよ〜!きゃあっ!荷物が〜〜!!」


空気も読まず二人の行く先を邪魔した挙句、さらには目の前に鞄の中身をぶちまけるという無礼さ。不敬極まりない行いに周囲の生徒はドン引きしている。愛らしい顔つきに翠の眼をうるませ、長く伸びた桃色の髪の少女にエヴァンは顔を引きつらせた。


(出たな……!エレノア•ノラン……!)


エヴァンは不快さをなるべく隠してエレノアを睨んだのだが、その眼差しはエレノアにとって熱い視線として受け取られてしまったことを彼は知らない……。


一方で、「まさかこんな形でフラグが立つとは……ヒロイン恐るべし」とセスは感心していたのであった。



連載している方の箸休めに書いてみました。

そちらも読んでいただけると嬉しいです。

ブクマ、評価はやる気に直結しています!感謝!

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