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新しい出会い

 ある休日、出先で奏太(そうた)は青い鳥を見た。その鮮やかな色に目が奪われて、アレって、(ゆずる)の鳥じゃね?なんて思って、奏太は思わずそれを追いかけていた。追いかけて、追いかけて、鳥が誰かの指先に降り立つのを見て、奏太は立ち止まって膝に手をついて、上がった息を整えた。

 顔を上げて、そこにいた人物と目が合う。うわっかわいい。髪の毛ふわっふわで、目がくりっとしてて、猫みたい。何この子。ヤバい。かわいい。触りたい。メチャクチャその頭モフモフしたい。目の前にいた自分と同い年ぐらいの女の子を見てそんなことを考えて。奏太はハッとして、これじゃ俺変態みたいじゃんなんて、自分で自分に心の中で突っ込んだ。

 「どうかしました?」

 そう声を掛けられて、思わず挙動不審になる。

 「あ。いや。あの。綺麗な青い鳥追いかけてて。さっき君の手にとまった気がするんだけど・・・。」

 なんて言いながら、どこにも鳥なんていないことに気が付いて。え?あれ?鳥どこ行った?なんて思って。アレが俺の見間違いなら、本当に俺ただの変な人じゃんなんて思って、奏太は焦った。

 「それなら、もうどこかに飛んで行ってしまいましたよ。人の指にとまるなんて、人懐っこい鳥ですね。誰かに飼われていたんでしょうか?」

 そう首を傾げて、女の子がハッとする。

 「追いかけてたって。もしかして、さっきの、あなたのペットですか?ごめんなさい。逃がしてしまいました。見失っちゃったし、どうしよう。」

 そうあわあわしはじめた女の子に、奏太はそうじゃないから大丈夫、落ち着いてと声を掛けた。

 「友達のとこの鳥に似てたから、思わず追いかけちゃっただけ。本当に同じのか分かんないし。ってか、その友達がさ。青い鳥は幸せを運ぶから、見かけたら追いかけてみろとか言うから。つい?ノリみたいな?別に逃げ出したの追ってたわけじゃないから。追っかけた先で君みたいな可愛い子に会えてラッキーみたいな。本当にさっきの幸せの青い鳥だったりして。なんちゃって。えっと。俺、楠城(くすのき)奏太(そうた)って言うんだけど。君は?」

 「(あかり)です。宮守(みやもり)(あかり)。」

 「灯ちゃんか、可愛い名前だね。」

 そう言って笑って、灯が恥ずかしそうに俯くのを見て、奏太は、あれ?これ、俺、ナンパしてるみたいじゃない?なんて思って一気に恥ずかしくなって、顔が熱くなった。

 「ごめん。あの。別にナンパとかじゃないから。女の子に可愛いって言うのとか、これは挨拶みたいなもんだから。深い意味はないから。本当、気にしないで。今のなし。なしでお願いします。」

 そんなことを慌てて早口で捲し立てて、それを聞いた灯が、まだ恥ずかしげに緊張した様子で少し顔を上げ上目遣いに自分を見上げてきて、奏太は胸が痛いほどバクバク鳴った。何この反応。普段、何言ってんのとか言われて笑い飛ばされるのがおちで、こんな反応されたことないから。まじ、はずいんだけど。ってか、本当、何?こんなんで恥ずかしがられると、本当、俺。どうして良いか分かんないんだけど。そんなことを考えて頭の中が大混乱する。

 「あの。わたし・・・。」

 うるさい自分の心臓の音の合間に、少し強張った灯のか細い声が入ってくる。

 「その。ナンパでも、良いですよ?」

 そう言って、灯がかーっと赤くなった顔を両手で押えて俯く。それを見て奏太は完全に固まって動けなくなった。

 え?今、俺、なんて言われたの?突然のことに現実が頭の中に入ってこない。なに?何が起きてるの?これ。え?今、ナンパでも良いって言った?ってことは、え?俺と付き合っても良いってこと?マジで?嘘?マジで?ってか、なんで?俺の聞き間違い?いや、聞き間違いだったらこの子が目の前でこんななってる意味が解らないし。何コレ?マジで何コレ?ごめん。俺にはちょっと現状がキャパオーバーすぎて付いてけない。



 「で?結局、とりあえずお友達からでよろしくお願いしますって答えたんだ。へー。さすが、奏太って感じだね。予想外の所からのアプローチに弱いというか。軽い調子で色々言う癖に、いざ相手にそういう反応されると、キャパオーバー起こして固まって。そのままのノリでいっちゃえば良いのに、何故か自分から退いてチャンスを逃す。思い返してみると今までもそれで何回かチャンス逃してる気がするんだけど。」

 そう淡々と恆に言われて、奏太は頭を抱え、心の準備なしにいきなりなんて俺には対応できないんだよと嘆いた。

 「最初からさ、ナンパとか、口説いてるつもりで言ってるならアレなんだけどさ。軽口とか、挨拶的なノリで言ってるのにマジの反応返されると、混乱するんだよ。そんなつもりじゃないとか言ったら相手に恥かかせるし、だからって心の準備もできてないのにじゃあ付き合おうかとか言ってもその先どうすれば良いか分かんないし。」

 「あっそ。でも、そうやって相手が乗ってきたの拒否る時点で十分相手に恥かかせてると思うんだけど。」

 そうさらっと突っ込まれて、奏太はうっと言葉を詰まらせた。

 「さすが、四分の一イタリア人。日本人のシャイさに、微妙にイタリア人の軟派さとレディーファースト精神をアクセントに加えた、超中途半端な男。」

 「あのさ、それ。悪口だよね?ってか、俺がクオーターなのコンプレックスなこと解ってて言ってるよな、それ。嫌がらせ?嫌がらせなの?」

 「いや。いいかげん開き直れば良いのになって思って。実際そうじゃん。」

 そうしれっと返されて、奏太は言い返せなくて言葉を詰まらせた。

 「いくら否定したくたってさ、お前がクオーターだけど、日本生まれ日本育ちで全然イタリア語できないこととか。ハーフである父親似だけどそもそもその父親が日本人顔な上に、色素は母親譲りで黒髪黒目だから奏太はどっからどう見ても完全に日本人な見た目してる事実は変わんないんだしさ。しかも、純血日本人の母親似の姉の方が、金髪だし目の色も薄いし、お前の両親小柄な癖に隔世遺伝なのかなんなのか背も高くて、どう見ても外国の血が混ざった見た目してることとか。それと、父親が海外で仕事してるせいでほぼ不在だから、姉と母親の見た目と父親がハーフって情報だけで、バカな連中が勝手に本来の父親と似ても似つかない父親の姿を想像して、お前が両親に似てないって決めつけてくることとか。そういう事実も変わらないわけで。嫌な思いしてきたのは知ってるけど、隠したって結局どっかからバレるもんだし。父親がハーフだって知られたくないとか、自分がクオーターだって知られたくないとか。そういうの無意味じゃないの?一々面倒くさいから、いいかげん開き直って、逆に主張してみれば?そうすりゃ、案外その軽いノリも逆に受け入れられるかもよ。」

 そう言った恆が酷く静かな瞳で見つめてきて、奏太はなんだか居心地が悪くなった。

 「奏太。コンプレックスなんて誰でも持ってるもんだし、そんなに気にするなよ。お前はお前だよ。自分が何者で、自分がどう在るのか。それを決めるのはお前自身だろ。自分を否定するなよ。価値観とか色々、自分の事をさ、他人に判断を委ねるな。それだけは絶対ダメだから。絶対。それだけはしちゃいけないからな。特にお前は。」

 そう言う恆の声が酷く悲観的に聞こえる。なんだよそれ。今、そんな深刻な話ししてたっけ?なんでこんな話しになってんの、意味分かんない。ってか、そういうお前はどうなんだよ。お前だって、自分が自分の父親の息子だって事否定したいんじゃないのかよ。自分だって、色々自分自身を否定したいくせに。そんな悪態を心の中で吐いて、奏太は恆から視線を逸らした。

 「意味分かんねーし。ってか、恆。お前、何か変だぞ。」

 「だな。自分でも解ってる。」

 そう言って恆が俯く。

 「なんだよ。なんか、悩みでもあんの?前言ってた父親の事とかそう言う話し?」

 「まぁ、そんなとこかな。」

 そう言って、恆がどこか困ったような顔でなぁ奏太と言ってくる。

 「俺、今、悩んでるんだ。父親の後を継ぐかどうか。あいつのことは大っ嫌いだけど、後を継げば俺も、色々向き合える気がしてさ。後さえ継いじゃえばば、今俺が抱えてる色々が解決されて、もう悩まなくてよくなる気がして。でも、後を継げば、俺はもう奏太と友達でいられない。だから悩んでる。俺はずっと、奏太は友達が良いから・・・。」

 そう言う恆の声がなんだか泣きそうに聞こえて、それが妙に癇に障って奏太は少し苛ついて、なんだよそれと呟いた。

 「何?後継ぐとお前、どっか遠くに引っ越さなきゃいけないってこと?それでもって、もう会えなくなるとかそういう感じな訳?なんかしきたりがどうとかこうとか言ってたし、そういうので友人関係とかも制限されるとか、そう言う系?」

 その問いに恆が何も返してこないことにまた苛々する。

 「バカじゃないの。会えなくなったってさ。立場がどう変わったって。他の誰がなんて言ったってさ。自分が友達だと思ってれば、友達なんじゃないの?俺とずっと友達でいたいなら、ずっと勝手に友達だと思ってろよ。それでいいだろ。お前が俺のこと友達だと思ってるなら、その間はずっと俺達友達だよ。それでいいじゃん。ったく。恆は。図体でかくなってモテるようになっても、チビで引っ込み思案で俺の後ついて回ってた頃と全然変わんねーな。ってか、前もお前と高校違うとこ行こうと画策しただけで、俺がお前と絶交しようとしてる的な扱いされたけどさ。そんなに俺信用ないの?そんなに俺、お前の事どうでもいい奴扱いしてると思われてるわけ?前も言ったけど、俺はお前の事友達だと思ってるから。離れたくらいで縁切れるとか思ってねーから。あー。何かムカつく。腹が立つ。」

 そう吐き出して、奏太は自分の苛々の原因がなんなのか解った気がした。寂しいんだ。俺は、恆に俺達の間に友情なんてないと言われてる気がして、本当にちょっとしたことで友達関係なんて崩れてなくなるんだって言われてる気がして。

 「本当、お前のそういうとこ、俺好き。」

 そう言って恆が笑う。何だよそれと思って、奏太はふて腐れた。意味分かんない。まぁ、俺にはそういう親の後継ぐとか、家のしきたりがどうとか全く縁のない話しだしさ。俺には解んない事情もあるだろうし。俺にも言い辛いことあるんだろうけど。でも、そんな色々抱えてそうな雰囲気だけ出しといて、核心は何も吐き出さないとかありかよ。しかも、俺が怒るとそんな嬉しそうに笑いやがって。本当、意味分かんない。

 「とりあえずさ。そのお友達からの彼女とまた会うんだろ?また、良い雰囲気になったところでヘタレて、やっぱお友達以上はなしでってならないと良いな。」

 そうからかうように恆に言われ、奏太はムッとした。

 「まぁ、でも。実際の所、初めましての奴といきなり付き合い出すとかなくて良かったと思うよ。もし相手が変な奴でも、奏太、やっぱムリとか言って別れられなそうだし。やっぱ、付き合うならある程度どんな奴か知ってからの方が安心なんじゃない?お前みたいな奴は。」

 そう案外真面目な様子で付け加えられて、奏太はそうだよなと思った。恆の言うとおり俺は中途半端だし、自分に自信がないせいで、ダメが当たり前って考えててそうじゃない時どうしたら良いのか解らなくなる。だから、相手に全部決めて欲しいとか。自分自身は逃げ腰になって、後は流れで流れる方に。まぁ、そうすると結局ダメなんだけど。自分自身で何か決断したら、自分自身で何か行動を起こしたら、何か変わるのかな。でも、そうやって行動した結果が良い方に転ぶとは限らないって、誰かを想ってした行動でその誰かを追い込むことがあるんだって知ってるから。怖い。やっぱ。自分はどうせダメなんだって思って逃げてたほうが楽なんて思うのは、でもそれはそれで苦しくてしかたがないのは、ワガママなのかな。俺。自分が何したいのかとかよく解んないや。実際の所、あの子とこれから先、友達以上の関係になりたいのかどうかも全然。正直、全然解らない。いや、それ以上になれたらなとは思うけど。かわいかったし、まぁドキドキとかしたりもして、なんていうの?やっぱり色々考えちゃったりはするわけで。でも、一度友達に落ち着いてしまったら。そのままで良い気もする。でも、向こうがその気になって好きとか言ってきてくれたらとかって・・・。俺、格好悪いな。向こうが勇気出してナンパでも良いって言ってくれたの、友達からって言っといて、いざ仲良くなったとしても自分からその先を言い出せないなら、可能性なんてないだろ。こんな俺なんて好きになってもらえるわけない。そんなことを考えて奏太は心の中で溜め息を吐いた。

 「そういや、もうすぐ春休みだけど、お前春休みはどうするの?そのお友達からの彼女とデートでもすんの?」

 「あー、うん。同い年みたいだし、一緒に受験勉強しようって約束はしてる。」

 「で、何も進展なくて、ひたすら受験勉強して終わる春休みとか、お前ならやりそうだよな。」

 「あのさ。それ、スゲー想像つくけど、そうやって言葉にするのやめて。」

 そう呟いて、奏太はからかうように自分を見下ろす恆を睨み付けて、本当に溜め息を吐いた。


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