そうだ、遠くへ行こう
「あのさ。えっと。こうやって改まってってなんか緊張するんだけど・・・。」
高鳴る心臓の音に緊張がマックスになって、楠城奏太は顔が熱くなって俯いた。
「俺と付き合って下さい。」
そう言って手を伸ばす。が。
「ごめん。ソウちゃんのことは嫌いじゃないけど、そういう対象としてはみれないや。」
バッサリ断られて、奏太は思わず何で?と叫んでいた。
「俺達けっこう良い感じじゃなかったっけ?」
「良い感じって何?わたし、全然ソウちゃんとそんな感じになった記憶ないんだけど。わたし、ソウちゃんのこと友達としか思ってないし。男として意識したことないし。ってか、男として意識してたらソウちゃんの前であんなにあけすけに色々できないから。ソウちゃんは良い奴だって思うけど、彼氏候補として見たことないから。そういうつもりこっちには全くないから。ムリ。諦めて。」
そうハッキリバッサリ切り捨てられて奏太はそんなーと撃沈した。
「俺ってそんな絶対彼氏にしたくないほどムリなの?マジで?」
「いや。そこまでは言ってないけど。っていうか、うちらももう受験生になるし。今はそういうのに現抜かしてる時期じゃ無いって言うかさ。ソウちゃんもこんな事してないで勉強したら?」
そう言われて、奏太はうっと息を詰まらせた。そう言われるとそうなんだけど。でも、だからこそさ。付き合えたら一緒の高校目指そうと受験勉強に励めそうとかさ、そういう思いもあったりなかったり。そりゃ、受験勉強を口実に一緒にいられるかなとか下心も多分にあったけど。でも、俺だってちゃんと本気で受験勉強する気はあるし、そこまで浮かれてたわけでは・・・。
「じゃあさ、受験が終わったら改めてって、ダメかな?」
「しつこい。ってか、わたし好きな人いるの知ってるでしょ?なんでそれでそんな調子で告白とかしてくるのか全然意味分かんないし。わたしが脈なしで諦めたのかと思ったんだったら、勘違いだから。わたしは、受験終わったら卒業前に告白しようって前から考えてただけだから。ソウちゃんにそんな気でいられても迷惑。もう、ここまで言わせないでよ。」
「え?嘘?」
「嘘じゃありません。」
「ってか、好きな奴いたの?」
「そこから?ってか、それ本気で言ってる?わたし、ソウちゃんにも色々相談したし、ソウちゃんもプレゼント渡したりとか協力してくれてたよね?今までのそれ、どういうつもりだったの?」
「え?俺、そんなことしてたっけ?え?全然わかんない。ってか、好きな奴って誰?」
そう本気できき返して、心底軽蔑したような視線を向けられる。
「何それ。今までわたしの話しに適当に合わせてただけで、全然わたしのこと考えてくれてなかったって事?バカ。」
「うっ。すみません。」
本気で苛ついた彼女の様子に言葉に詰まって、反射的に謝って、奏太は溜め息を吐かれて一気に気落ちした。
「あのさ。もしよかったら、その相手が誰か教えてくんない?」
そう呟いて、彼女の口から恆君と自分の友達の名前が告げられて、奏太はまたあいつか・・・と更に気落ちした。どいつもこいつも恆、恆って。なんであいつばっかモテるんだ。確かに顔が良いのは認めるけどさ。でも、恆だって小学生の頃はチビで引っ込み思案で、そんなにパッとする方じゃなかったのに。中学上がってから急に、急に・・・。なんか色々、俺、メチャクチャ差をつけられてる気がする。なんでこうも差つけられたんだ。本当、中学上がってからあいつ急激にぐんぐん身長伸びて、俺、あっという間に身長追いつかれて追い越されてさ。恆の奴、中一の初めは整列するとき前から二、三番目が定位置だった癖に、今じゃ後ろから一、二番目まででかくなりやがって。生徒会に入ったりとか運動部に入って大会出たりとかそういう目立つような活動はしてないけど、成績は常に学年トップで、毎年運動会では大活躍で。昔は俺の方がなんだってできたのに。くっそ。ただの人見知りの癖に、その他人に対しての無愛想がクールで格好いいとか言われてさ。なんだよ、あいつ。そりゃ、今の恆と比べたら俺なんて霞んで見えて当然というか。ってか俺と恆どっちが良いってきかれたら、十人中十人とも恆がい良いっていうの当然だと思うけど。でもさ、今回はイケると思ったのに。けっこう一緒にいること多かったし、くだらない話しして放課後も一緒に遊んだりもしてさ。まぁ、だいたい恆も一緒だったけど。でも、俺が他の子にフラれた時とかいつも慰めてくれてさ。俺の良いところとか言ってくれたり、色々励ましてくれて。恆のことが好きとか初耳だよ。俺が相談乗ったりとか、協力って、いったいいつしたの?本当、全然知らないんだけど。勘違いじゃね?ん?あれ?そういえば思い出してみると、二年になった頃くらいから会話の内容、恆の話題が多くなってた気がするな。あ、そういえば、誕生日とかバレンタインとか俺経由で渡しといてってプレゼント預かったりもしてたな。いや、恆は女の子からの手紙とかプレゼントとか受け取らないから俺経由でって、今までだって散々あったけどさ。でも、近江は他の子と違って俺にもくれてたし。なんていうの?モテる恆に渡すついで装って俺のが本命かななんて、なんか色々言いながら渡してくるのも照れ隠しだと思って、そういうの、かわいいなとか思ったりしてたけど・・・。うわっ。これ、逆だ。照れ隠しは照れ隠しでも、俺がついでで恆が本命だっただけだ。って、うわっ。なんでこれで俺、勘違いできたんだろ。勘違いで浮かれて、告って、フラれて。マジ、俺死にたい。
「奏太。いつまでそうしてる気?」
何もする気力が湧かなくて、放課後の教室で机に突っ伏していると、そう友達の森田恆に声を掛けられて、奏太は俯いたまま視線だけ上げた。そこにいつも通りの無愛想な表情で自分を見下ろす恆の整った顔があって、大きな溜め息を吐く。
「人の顔見て溜め息吐くなよ。感じ悪いな。」
「だってさ。嫌みなくらいイケメンが俺のこと見下ろしてんだもん。本当さ、なんでこれで勘違いできたんだろ、俺。お前と俺が一緒にいて俺の方選ぶ奴なんているわけないじゃん。マジ、死にたい。」
そう言ってまた突っ伏して、頭上から恆のそれくらいで死ぬなよという投げやりな声がふってきて、奏太はモテる奴には俺の気持ちなんてわかんねーんだよと心の中で毒づいた。ちらっと横目で恆を眺める。キリッとした眉に切れ長の目、筋の通った鼻筋、薄い唇、全体的にシュッとしてて、少し冷たさを感じさせる様なでもバランスのとれた顔立ち。男の俺から見てもマジでイケメン。これで長身、ハイスペックって、モテない要素がないだろ。それに比べて俺ときたら、小学生の頃はでかい部類だったけど、中学あがってからどんどん自分よりチビだった奴等に身長越されて、今じゃずっかりチビの部類だし。勉強も運動もまぁ普通の範疇ないだと思う。どっちも平均よりはできるほうだし、この公立の中学校の中じゃ優秀な方だけど、でも、自慢できるほど良いわけじゃない。狭い枠内ならともかく、全国区で考えたら俺なんて大したことないレベルだし。顔も別にそこまで格好いいわけじゃない。格好悪いとも思ったことないけど。それになんと言っても近くに比較にならないイケメンがいるせいで、自分がイケてるとか思えない。本当、俺とこいつが並んでたら、なにをとっても俺に勝ち目があるわけないじゃん。天は二物を与えずって言うけど、それ嘘だよね。恆は二物も三物も持ってるじゃん。なのに、俺なんてさ。うわっ。マジ理不尽。そのスペック、少しぐらい俺によこせよ。そう心の中で嘆いて、奏太はマジでやってられねーと思った。
「ほら。いいかげん帰らないと、塾遅れるぞ。」
そう言われて、奏太は渋々起き上がった。
「まぁ、そう落ち込むなよ。ここで彼女できなくても、そのうち絶対、奏太も子孫は残せるんだからさ。」
そう言われて、何それと思う。そのうち彼女できるよとか、将来結婚はできんじゃないとかそういうのじゃなくて、子孫は残せるって。彼女はできないかもしれないし結婚はできないかもしれないけど、やることはやれるってこと?そう考えて、ふと、子孫は残せるって、別に女の子とそういう関係にならなくても、精子バンクとかに俺の精子提供すれば俺の知らない所で俺の子供はできるじゃん。慰めてる調子で話しながらこいつ、回りくどい言い方して全く慰めてすらいねー。ってか、この言い回しわざとだ。絶対わざとだ。そう考えが至って奏太は恆を睨み付けた。そうするとクスクス笑われて、奏太はモヤモヤした。
二人で帰路を歩きながら、奏太は、なんでこいつは俺とずっと一緒にいるんだろと思ってモヤモヤしていた。恆との出会いは小学六年生の春、転校生として恆が自分の教室にやって来て、一番後ろの席で隣が空いていたのが自分の横しかなくて、そこに机と椅子が用意され席が隣同士になったのが始まり。チビなのに一番後ろになって、前の奴は図体でかいし、黒板とか見えにくそうだなとか思って、俺のノート見る?とか声掛けて。あの時恆の奴、スゲー嬉しそうに笑いやがってさ。アレで懐かれたのか?なんかよくわかんないけど、それからずっと恆は俺にべったりだった。人見知りで引っ込み思案で、一々俺が色々間に入ってやって。今はもうそんなんじゃないけど。ってか昔は何でもかんでも俺が面倒見てた感じだったのに、今はもう何もかも追い抜かされて俺が面倒見るなんてこと全く必要ないけど。でも、それでもずっと、今も一緒にいるのが当たり前みたいになってんだよな。本当、不思議なくらい一緒にいるのが当たり前に・・・。って、考えてみたら俺、恆と一緒にいすぎじゃない?なんかいつも気が付くと当たり前のように一緒にいるけど、そういやお前、クラス違うよね?なんか周りからセット扱いされるくらいいつも一緒にいるけど、お前、もしかして俺以外に友達いないの?素が人見知りなの知ってるけど、作れよ友達。俺以外に。最低でも自分のクラスに一人ぐらいさ。まぁ学校の行き帰りは小学生の頃からの習慣だとしてもさ。塾なんか、恆の方が勉強できるんだから、俺と同じとこ行く必要ないでしょ。なんでお前俺と同じ塾通ってんだよ。塾行くなら、お前は難関校狙いのとこだろ。なんで当たり前のように俺と同じとこ通ってんの?
「ふと思ったんだけど、お前塾行く意味あるの?」
「別に。ないかも。」
「じゃあさ、なんで恆、塾行ってんの?」
「暇だから。」
「あっそ。」
暇だからってなんだよ。塾通いもお前にとったら遊びみたいなもんなの?暇だからって行く必要も無い塾に通うってマジで意味分かんねーよ。ってか、それ親からしたら金の無駄遣いじゃね?よくそんなことお前の親許してるな。そう考えて、奏太は思わず、お前の親進学のこととか何か言わないの?どうせなら難関校狙いの進学塾とか行けって言われないの?ときいていた。
「別に。うちの親学歴とか興味ないし。俺も興味ないけど。受験戦争勝ち抜いて難関校狙うとか面倒くさいし、そういうがっつりしたとこには俺、行きたくない。塾決めるときも、奏太がそこ行くって言ってるから俺も行きたいって言ったら、普通にOKだったよ。」
そうしれっと答えられて、奏太はまたあっそと呟いた。成績良い癖に、やる気がないって。それ放置してるって恆の親も大概だよな。目指そうと思えば、絶対かなり良いとこいけるのに。まぁ、うちの親も放任主義だし、学歴とか興味なさそうだから、人の親のことどうこう言えないけど。ってか、何事においてもいつだって好きなようにすればって感じで、両親からあーしろこーしろ言われたことないから、もしかすると、うちの親、俺に高校くらい出て欲しいとすら思ってない気もしないでもないかも。むしろ、進学しないとか言っても許してくれそう。ただ、進学しないなんて言ったら、うちの母親は普通になんで?って首を傾げてきて、適当に勉強より興味あることがあってさとでも言おうもんなら、目をキラキラさせて、進学するよりやりたいことがあるの?どういうことしたいの?教えて、なんて詰め寄ってきそうで、凄く面倒臭そうだけど。で、凄く適当に何か言ったとしても母さんなら本気にして、そのこと嬉しそうに父さんに報告してさ。父さんからも勉強よりやりたい夢があるって良いなとか、そんなこと普通に笑顔で言われそうで嫌だ。絶対、あいつら、俺が進学したくないからそんなこと言ってるとか、嘘ついてるとか疑いもしないで鵜呑みにして信じ込んで本気で応援とかしてくるもん。マジで嫌だ。そんなことされたらこっちの罪悪感ばっか膨れるし。まぁ、進学しない気なんてさらさらないけど。普通に高校進学するつもりだけどさ。なんでうちの両親って、あんななの?そんなことを考えて、ふわふわした両親の脳天気な笑顔が頭に浮かんで、奏太は心の中で溜め息を吐いた。ってかさ、うちの両親、頭の中お花畑すぎだよね。少しは子供の将来とか心配にならないの?子供の将来に少しは希望とか要望とかないの?何でもかんでも本人任せで本当にいいの?ってか、俺が真剣に悩んでたって、だいたいいつもヘラヘラ笑って大丈夫何とかなるよって、父さんも母さんも似たようなことしか言わないし。それでちょっと苛ついて暫く口きかなかったり、部屋籠もって飯の時間に出ていかなかったりしたときも、俺のこと心配するどころか、奏太が反抗期だとか言って、目キラキラさせてなんか嬉しそうにしてたし、うちの母親。反抗期って、大人になる準備段階なんだよね。わたしもあったな、反抗期。奏太も大人になるんだね。なんて言って、赤飯炊きやがったからな、うちの母親。なんのお祝いだよ。反抗期をお祝いするとかきいたことねーよ。そんなことを思い出しているうちに家に前について、また後でと挨拶を交わし、奏太は恆と一旦別れ家の中に入った。
おかえりなさいと母に笑顔で出迎えられて、あぁと応える。
「そこはあぁじゃなくてただいまだよ。挨拶はちゃんとしないとダメだよ。」
そうたしなめられて、はいはいただいまと適当に返す。そしてキッチンにお茶セットが出されているのが目に入り、奏太はお客さん?ときいた。
「柚月のお友達がきてるの。奏太、手洗ったら、自分のお部屋行くついでに柚月のお部屋に持ってってあげてくれる?」
「えー。ねーちゃんの友達来てるのに、ねーちゃんの部屋とか行きたくないんだけど。」
「なんで?」
そう純粋に疑問に思っている瞳で母に見つめられて、奏太はだって・・・と言葉を濁した。ねーちゃんの友達とか絶対会いたくない。だいたいねーちゃん、ずっと公立通ってる俺と違って、幼稚園から大学付属の私立行っててさ。ねーちゃんの友達なんて秀才かお嬢様かで、姉弟なのに、ねーちゃんと俺じゃ全然住む世界違うじゃん。それに、ねーちゃんと俺、全然似てないし。そう思って奏太は気が塞いだ。俺が恆くらい格好良くて優秀な奴だったなら。そしたら、堂々とねーちゃんの友達の前にだって出て、弟と名乗って、いつも姉がお世話になってますとでも言えるのに。自分なんかが美人で優秀な姉の弟じゃ恥ずかしくて、とてもそんなことできない。そんなことを考えていると、母にほっぺを両手でパチンと挟まれて、奏太はハッとした。
「奏太。今、何か変なこと考えてる?変な顔してるよ。」
「別に。」
そう呟いて、真っ直ぐ自分を見つめてくる母の視線が居心地が悪くて、奏太はそれから目を逸らした。すると、自分のほっぺから手を離した母に優しく頭を撫でられて、奏太はモヤモヤした。
「嫌ならお母さんが持ってくから良いよ。」
そう優しい母の声が耳に入って、奏太は胸が苦しくなった。持っていくのが嫌なわけじゃない。手伝いが嫌なわけでも。でも、できるだけ姉の知り合いには会いたくないし、自分みたいなのが弟だなんて知られたくない。姉と比べられたくない。見比べられて、何か言われたくない。普段は友達の家に行くくせに、なんで今日は家に友達連れてきてんだよ。ねーちゃんが友達なんか連れてこなけりゃこんな思いしないですむのに。そんなことを考えて、奏太はまた気が塞いだ。
「今日はマフィン焼いたから、良かったら塾に持っていってね。頭使うと糖分欲しくなるでしょ?恆君の分もあるから、渡してあげてね。」
そうニコニコしながら母が可愛らしくラッピングされた小袋を二つ台の上に置いて、奏太は嫌だよ恥ずかしいと呟いた。
「え?いらないの?絶対、後で甘い物ほしくなるよ?」
「そうだけど。でも、なんでそんな女子みたいなもの持ってかなきゃいけないの。そんな凝ったラッピングとかいらないし。せめて普通の袋に入れてよ。」
「いやー。お買い物行ったら、かわいいラッピングセットがあったからつい。」
「ねーちゃんに持たせるならともかく、俺に持たせるのにそれやめて。前も本見てたらのってたからちょっと作ってみちゃったとか言って、俺の弁当ムダにファンシーなキャラ弁にしてきた事あるけどさ。そういうの本当いらないから。マジでやめてほしいから。俺は普通のが良いの。そんな凝ったり拘ったりしない感じのが良いの。男がそんなの持ってくとか恥ずかしいだろ。」
「そう?男の子だって、かわいいの好きでも良いと思うけどな。」
「そう言う問題じゃなくて。ってか、俺は別にかわいいのとか好きでもないし。俺が嫌だって言ってるんだから。本当、俺の気持ち解ってよ。」
「うん。ごめんね。今度から気をつけるね。」
そう言っていつも通りのふわふわした笑顔を浮かべている母は解ってないと思う。そんなこと言って、どうせまたなんかすんだろ。いい年して落ち着きがないというか、好奇心旺盛で、なにか目新しい物目にするとすぐチャレンジしたくなるんだから。まだ、昨日テレビでやってたこのおかず美味しそうだったから作ってみたとかそれくらいならいいけど。本当、何でもかんでも手広げすぎで。弁当もそうだし、学校行事で必要なアレやコレとか色々とまだまだ手がかかる俺は、母さんに趣味の発揮場を提供してるようなもので。普通の親がする以上の物を仕上げられても、ムダに目立つし話題にされるし、恥ずかしいから本当やめてほしい。あー。マジやってらんねー。俺自身はごく普通の中学生男子なはずなのに、うちの家族も一番近くにいる友達も普通よりかなり高いスペックを当たり前のように持ち合わせていて。まだ恆はいいよ。血繋がってないし。でも、ねーちゃんはさ。血の繋がった姉弟だし。容姿端麗、頭脳明晰、おまけに運動神経もいいと、両親の良いところを寄せ集めてできたような姉と、容姿も頭脳も運動神経もまあ人並みで、そして運悪く小柄な両親に似たのかチビな俺。同じ両親から生まれてこの差。つまり俺なんて、親からねーちゃんに譲られたあとの残りっかす寄せて集めてできたようなもんだろ。本当、やってらんない。俺がこんな嫌な気持ちになるのも全部、俺の周りが優秀すぎるせいだ。普通の中に入ったら、俺だってそれなりにできる方なはずなのに。俺の周りを俺よりはるかに何でもできる奴等が固めてるせいで、俺はこんなに惨めなんだ。こんな環境から抜け出したい。俺の境遇なんか誰も知らない遠い所に行きたい。そんなことを考えて奏太は、志望校とかちゃんと考えた事ないけど、とりあえず、できるだけ遠い所にしようと思った。できれば家も出たい。自分の家族の近くにすらいたくない。誰かと比べられて、がっかりされたくない。バカにされたくない。残念なものを見るような目で見られたくない。こんな俺でも、隣にいてくれる特別な誰かができたら少しは価値のある人間に思える気がしたのに。結局、失恋記録更新して余計に惨めになっただけだもんな。人の好意だってより優れた方に流れてく。だからここにいたら俺は誰にも選ばれない。特別にはなれない。そう思ってしまうこんな場所にいたくない。だから、遠くへ行こう。高校はできるだけ遠くに。知り合いが誰もいないような所に。漠然とそんなことを考えて、何で俺、ここまで卑屈になってんだろう、バカみたいなんて思って、奏太は大きな溜め息を吐いた。