94 バチバチで、もふもふで、もやもや-別視点-
私は待った。
料理を作ってきてくれるというので、リアが笑顔で私の目の前に手料理を置いてくれるのを期待して。
そうして、ついにリアがこの部屋に戻ってきたのだが……。
「お待たせいたしました、殿下」
そう口にしながら私の目の前に料理を置いたのは、何かと癇に障る例の赤い髪の男カイアスだった。
ちなみにリアはその少し後ろに控えるように立っている。
はっ……なんで貴様が?
今度は一体どういう魂胆だ……。
そんな疑問を込めた視線を赤……カイアスに投げかけると、ソイツは何故か爽やかな笑顔を返してきた。
うっ、今まで散々挑発らしき態度を取っていたことを考えると、その笑顔はただただ不穏だ……。
「コチラはあり合わせの食材で簡単に作ったもののため、殿下のお口に合うか分かりませんがどうぞお召し上がり下さい」
そしてソイツは怪しげな笑顔のまま、改めて私の目の前に置いた料理を示してそう言った。
……いいから、食べろということだろうな。
正直、気に食わないがここにはリアも居る。だから、わざわざ揉めるようなことをするのはやめておくべきだろう……。
そう考えた私は、しぶしぶであるが目の前に置かれた料理に視線を落とした。
静かに湯気をたたえているその料理は、麺料理……いわゆるパスタと呼ばれるものであった。ここにパスタの麺はなかったから、間違いなく持ち込んだ品だろうな。
一体どこのものか分からない貝類が和えてあるそのパスタは、香ばしい香辛料の匂いと、綺麗に盛りつけられた見た目に、軽く振りかけられた緑色のパラパラとした乾燥ハーブがアクセントになっている……短時間で作ってきたはずなのに、非常に完成度が高い料理であった。
明らかに手慣れた者が作った料理と見え、確かに美味しそうである……が、しかし。
私は顔は動かさないままで、目だけでチラリとある人物の様子をうかがう。
そんな料理とは対照的に、私からやや離れた場所に控えているリアは、どこか浮かない顔をしている。
そもそも不自然なことに、この部屋に戻ってきてから彼女は一言も喋っていないのだ。
先程から話してるのも全部、赤……ではなくカイアスだし。
リアは一体どうしたのだろうか……やはり二人っきりの時にあやつに何かされたのか?
正直、それが気になって仕方なくて食事どころではないのだが!?
くっ、やはりここはリアから話を聞くべきだろう……。
そう決意し、私が口を開きかけたところ。
「あれ……まったく食べる気がなさそうですが、どういたしましたか殿下?」
「っ、いや……」
しかし、そこでタイミングの悪いことにまっ赤……カイアスにそう声を掛けられてしまった。
くっ、面倒だな。
「あ、もしかしてこういった料理はお嫌いでしたか?」
私が何か考えるより先に、そいつが続けてそう聞いてきたため私は「いや、そういうわけではなく」と言葉を濁すほかなかった。
なぜって、リアが作ってきた料理を嫌いだと言えるわけないだろう……!? それについては、少しの疑問でも抱かせるわけにはいかない……絶対にだ。
するとカイアスは、そこで少し考えるような仕草を見せた後「ああ」と何やら納得したように頷いた。
なぜだろうか、なにか嫌な予感がする……。
「分かりました、殿下はこちらの料理に何か不審なものが入っていないか心配されてるのですね?」
「はぁ!?」
カイアスは非常ににこやかにそう言うが、それを聞いた私の動揺は言い表せるものではなかった。
待て待て待て、なんでそんな結論になった!?
「そういうことであるなら仕方ありません、一度毒味をいたしましょう」
「いやいやいや!?」
「いえ、否定される必要はありませんよ。心配されるのもごもっともですからね」
「私はそんなことを考えていたわけではない……だから毒味も不要だ」
そもそもこの男だけならともかく、その場にはリアも居たのだからそんなことが起こる可能性はないだろう。
まぁこの男だけなら、確かにやったやも知れぬがなっ!!
「ほら、リアもちゃんと否定してくれて構わないのだぞ?」
ここに来ても、どこかぼんやりした様子のリアは私が声を掛けたことに対して、緩慢な動きでこちらを向いて、ゆっくりと口を開いた。
「はい、そうですね……私たちはそんなことはしませんよ」
「うむ、そうだろう」
やや様子がおかしい部分があるものの、リアの返答に満足した私はうんうんと頷いた。が、そこから更にリアが続けた言葉に思わず動きを止めた。
「でもアルフォンス様がどうしても心配だと仰るのであれば、それを証明する必要性もあるとは思います」
「だから、心配だとは言ってないからな!?」
なんで君まで、そちら側に付く……まさか、そんなにその男の方がいいのか?
いや、そんなわけではないだろう。たぶん彼女は気を使ってくれただけだ、きっとそうだ……だから、そんな必要はないときちんと説明しなくてはいけない。
「私は君が心配ないと言ってくれるだけで、それ以上は何も必要ないと言ってるんだ」
彼女に伝わるように、私は出来る限り心をこめて丁寧にそう言った。
「……そこまで仰って下さるのは嬉しい限りです」
するとリアは私に向けて笑顔を浮かべた。が、その笑顔は今までのそれに比べてどこか弱弱しい。
や、やはりリアの様子が明らかに不自然だ……!!
これは絶対に話を聞かなければ……。
「いやー、本当に殿下がそこまで信頼して下さって嬉しい限りですっ!!」
私がリアにどう話しかけようかと考えていたところ、それを遮るようにカイアスが大きな声でそう言う。
私が一切信頼できない奴が、一体何を言ってるんだ?
この男、本当に邪魔だな……前々から感じていたが、わざとリアと私が会話を出来ないように割り込むように喋ってる気がするし。
ああ、心底忌々しいっっ!!
「それでは、ぜひ冷めないうちにお召し上がり下さい」
こやつ、表面上は笑顔だが、腹の底では絶対ロクなことを考えてないであろうな……ああ、私には分かる!!
くっっ、思い通りにさせてたまるか。
とりあえず、ここはどうにかリアと一緒に食事でも食べながら会話を……ん、待て。
「ところでリアの食事はどこに……」
「彼女の食事ならさっき調理中に食べたので、もうありませんよ」
な、なんだと!? それでは一緒に食事が出来ないではないか。
っ!! あぁ、そこも含めてわざとだな……。
う、うぐぐぐぐっっ!!
くっ……し、しかし例え一緒に食事が出来ないとしても、どうにか少しでも話を振って会話を……!!
「リア、この料理についてだが……」
「あ、こちらの料理は貝を主とした海鮮類と、クセの少ない植物油を使って、アクセントに香辛料を加えてあるパスタ料理でして」
私が言い終わるより先に、例のごとくあの男が出て来て、勝手にそんなことを言った。
ぬぅ……。
「では、この貝はどこから……」
「その貝は、長期保存出来るように予め加工されたものです。その加工された貝を下味をつけて炒めたうえで、パスタと和えました」
……リアに聞いてるのであって、お前には聞いてないのだが?
そもそも私はリアと話したいのであって、貴様はお呼びではない……っ、あれ、待て。
そもそも、なんでコイツがそんなに詳しく料理のことを知ってるんだ……もはや嫌な予感しかしないのだが。
「あの、リアこの料理を作ったのは君だよな?」
またどうせあの男が勝手に答えるのではないかと思っていたものの、今回は彼女の名前を呼んだからか……特に邪魔が入らずリア自身がこう答えたのだった。
「いえ、こちらを作ったのはほとんど彼ですね。私は少し盛り付けの手伝いをしたくらいで……昔からこういうことが得意なんですよ、彼」
「……そ、そうか」
だ、騙されたぁ!? リアの手料理が食べられると思ったのにっっっ!!
ああ、そうかコイツ最初からそのつもりだったな!?
許さん……絶対に許さん!!
恨みを込めながら、あの男をにらみつけるてやると、それに気付いたそいつは余裕たっぷりの笑みを返してきた。
「はい、私が心を込めて作りました。喜んで頂けたら嬉しいです」
こ、この男ぉぉ!?
まず貴様がそこに込めた心は、邪念か悪意的なものだろうがっっ!!
い、今に見ておれ、その化けの皮を絶対に剥いでやるからな……!?
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くくっ、あのケモ王子……徹底的に馬鹿かと思ったが、今向けてきたあの目を見るに、流石に俺がもろもろのことを仕組んだと気付いたようだな。
まぁ、俺の遠回しの嫌がらせが一切通じていなかったら、それはそれで面白かったが……。
腐っても……いや、毛皮をかぶっても西大陸の覇権国家の王子と言ったところか?
さて、これで元々俺のことを嫌っていたケモ王子は、更に俺のことを目の敵にするだろうなぁ。
アイツにもプライドが残ってるのであれば尚更に。
まっ、やるなら何でもやればいい。そこまで含めて計算の内だからな。
確かにたまたま、うちのリアと出会えたところまでは幸運だったと言えるだろうが……。
ふっ、てめぇの運はどこまで残っているだろうな?




