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魔術少女と呪われた魔獣 ~愛なんて曖昧なモノより、信頼できる魔術で王子様の呪いを解こうと思います!!~  作者: 朝霧 陽月
嵐の出会い編 《一日目》

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01 嵐は突然に 1

2026/04/07に大幅改稿(実質書き直)しました。

 私は流離(さすら)いの魔術師リア……いや、やっぱり旅の魔術師の方が分かりやすいかな?

 カッコよさを考えると流離いも捨てがたいんだけどね……って今は、そんなどうでもいいことを考えて現実逃避してる場合じゃないんだよな……!!


「ああ、もうっ!!」


 吹き荒れる雨と風に苛立ち、私は森の中を走りながら、それらを緩和するための魔術を無詠唱で放つ。お陰で私の周囲のみで激しい雨風が止まる。が、それは当然長く続くことはなく、あっという間に元通りのガンガン風と雨に吹き付けられる状態に戻った。

 いや、そうですよねー!?


 一瞬威力を散らして弱めるだけならともかく、天候操作なんて大掛かりで面倒な魔術は、今のように走りながら片手間で使うことなんて不可能だ。というか、優秀な魔術師であってもちゃんとした事前の準備をして、使用するべき魔術なのだ。こんな旅先の森の中で、軽々しく使っていいものではない。

 だから私は焼け石に水だとは分かっていても、こうしてたまに片手間の簡単な魔術で雨風を緩和しつつ、森の中を移動していた。


「はぁ、失敗したな……」


 走りながら手に持った杖にぎゅっと力を込めて、私はこの森に入る直前のことを思い返す。


『あ、ここからの道って森を突っ切るか、迂回して遠回りするかで別れているのか……うん、ここで森を突っ切る近道をすれば、距離的に早めに街に着いて野宿が避けられそうだね。自分でいうのもなんだけど私って強いし、多少無理しても大丈夫でしょ、行っちゃおっと』


 そんなことを考えつつ、もうそろそろ陽が落ちそうな森に入ったわけなんだけども——

 それでは問題です。今は何時でしょうか?


 正解は、ね…………ハッキリとは分からないけど、森に入ってから何時間かは経過しているし、周囲も真っ暗なので確実に夜中でしたー。ヤダー!!


 それだけ悲しいのに、なんと更に残念なことがありましてね……私迷ってるんですよ。近道するために入った森で……なんだろうね?


 でもそれは私が決して方向音痴だからとかじゃなくてね。

 まず、この森に住む危険な存在が襲いかかって来たんですよ。魔獣というか魔物というか、そういう感じのあれがね。

 当然、撃退するじゃないですか。あまり強くないからすぐに捌けるんだけど、それがポンポン出てくるもんだからさ……ちょっと調子に乗っちゃった、てへっ。

 仕方ないじゃない、普段はここまで派手な魔術を、バンバン気持ちよく使える環境じゃないんだからさ!!


 調子に乗ってそうこうしている内に、すっかり陽も落ちて、元々鬱蒼としてうっすら明るい程度だった森は、真っ暗闇に吞まれていた。それだけでも十分なのに、極めつけのトドメとばかりに猛烈な雨と風が吹き荒ぶ素敵な天候、いわゆる嵐というものにも見舞われてしまったのだった。

 もしかして私の日頃の行いが悪かったりしたかな……そんなことないと思うんだけどなぁ。


 唯一よかったのは嵐になってからは、先程のように魔獣が襲いかかってくることは無くなったことかな。ただ代わりに雨と風にドンドンと体温を奪われていってるんですけどね!

 雨だけでなく、風が吹いているところが特にツラい。しかも強風、お陰でぶつかってくる雨水が痛い。繰り返し魔術で散らしてもキリがない。


「何処かに雨風がしのげる場所はないかな……」


 嵐になる前から魔獣に追いつかれないようにと、小走りで森の移動を続けてきたこと。加えて魔術の連続使用と、この酷い天候のせいもあり、私の疲労は最早頂点に達していた。


 どうしよう、なんとなくテキトーに進み続けているけど、今まで一切見てなかった地図を見た方がいいかな……。

 でもあのボロい地図を今から取り出すと、雨風で私より先に力尽きる気がするんだよね……おやっ?


 そんなことを考えながら足を進めていたところ、突然木々の少ない開けた土地に出た。


「おおっ……?」


 その様子に思わず立ち止まり辺りを見回した。

 アレ、雨風を遮る木々がなくなった割に、雨も風も勢いがあまり変わらない……というかむしろ少し弱い気が……。ってそんなこと今はどうでもよくて!!

 雨のせいであまりハッキリとは見えないけど、ここから少し先に大きな建物の影がっ!?


 あそこだ、あそこしかない!!


 思うが早いか、残った力を絞り全力で駆けだした。

 どうか屋根がありますように……!! 祈るような気持ちで駆け寄った建物は、古びた様子だけどかなり立派なものだった。どうやら堅牢(けんろう)城壁(じょうへき)を持つ城のようで、もちろん建物には屋根もある。

 幸いなことに跳ね橋や城壁についている門は、開いていたため難なく城壁内に入れた。


 よし、なかなか運がいいぞ。森で迷ったり、嵐に遭わなきゃもっとよかったけどもね……!!


 夢中になって城の玄関扉の前まで辿り着き、そこでふと思った。

 あれれ、よく考えてなかったけど、ここって人はいるのかな……?


 無人なら早い話で勝手に上がり込んで、嵐が過ぎるまで待てば良い。しかし人がいる城の場合、勝手に上がり込むのはマズいかもしれない……。


 最悪、侵入者として追い出されて、私はまた嵐の中を彷徨う危険性が!!


 最悪の事態は回避したいので、一旦人がいる前提で行こう。強化されたローブを着ているとは言え、暴力的に体を叩きつけてくる雨水と吹きすさぶ風で、体温が下がっている。是非とも建物には入れて頂きたい。


「そうだ、この正体隠しの魔術は解いておこうかな……」


 正体隠しの魔術。私の得意な術でもあるこれは、文字通り正体を隠すことに特化した魔術である。効果は術者の技量(ぎりょう)次第(しだい)で効果に幅を持たせることが出来るもので、今回の私の場合は他人からの認識を曖昧(あいまい)したうえで、個人の判別はもちろん、性別の判断すら難しくなるよう設定していた。要するにそこに誰かしらいることは認識できて会話なんかもできるけど、誰かは分からなくてその場では違和感も感じない状態な訳です。

 まぁ女子の一人旅は危険だからね、悪用とかはしてないよ!! 今回はね。

 あっ……今更、気付いたんだけどこの術を応用するとそもそも魔獣に認識されないようにすることも出来た気が……いや、違う私はあえて魔獣程度には使わなかったんだ。そういうことにしよう、うん。


 そのように利便性の高い術であるが、他人に頼み事をするときに正体を隠しているというのは誠意がなくてよろしくないだろう。そもそもこの術は、正体を分からなくしても心証を良くする効果などはない。むしろ事実との齟齬により、ちょっぴり悪い可能性まである。

 でもそれでは困る。今の私には雨風をしのげる屋根が必要なのだから。


 そんな訳で術を解いた私は一呼吸置いて、錆び付いたドアノッカーに手を掛けた。


 コンコンッ


 扉を叩き、しばらくジッと様子を見る。ノックの音が響いた以外、扉の向こうは静まり返っているように思える。外があまりにも雨音と風の音がうるさくて若干自信はないけども。


 もう夜とはいえ、流石に寝るには少し早い時間の筈だ……たぶん。

 もしかしたら無人なのかも知れない……!! そう思いつつ、一応念の為もう一度だけ確認しようとドアノッカーに手を掛けた。その時ゆっくりと扉が開いた。

 あ……人がいらっしゃったんですね!?

 いや、でも大丈夫、この程度は予想してましたとも。


 私はサッと居住まいを正し、失礼にならないように注意しつつ扉を開いた人物に目を向けた。その人物は随分とガタイがよく高身長のようで、ぐっと顔を上げてようやく目が合う。


 その目は鮮やかな緑色なのだけど、瞳孔が猫科の獣のそれのような特徴を持っていて……んんん? いや、獣のようというか全身が深い金色に覆われてて、その姿も獣そのものでは?

 いわゆる獣の獅子に、羊の角を付けたような存在。それが人のように二本足で立ちながら服を着て、開いた扉の向こうからコチラを見つめていた。


 待って……人が居たとして人間じゃないのは予想外だよ!?


 そうしてそんな私の驚きに重なるように背後では雷が落ち、轟音と共にその視界が一瞬で白く染まったのだった。

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