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影の主役

作者: チビスケ

  炎天下の中、2時間におよぶ戦いが間もなく終わりを迎えようとしている。

  打席には泥で少し汚れたバットを携え、敵へと向ける俺がいる。相手はこれまで何回か勝負した相手だ。


  奴も俺もこの戦いを最初から戦い抜いている。お互いに疲労はピークだろう。だがここで負けるわけには行かない。俺で終わるわけにはいかない!


  黒服の男が高らかに叫ぶ。それを合図にグラウンドに緊張感が張り詰める。

  奴は茶色く汚れた球を握りしめて、こちらを見つめ頷く。俺はそれを合図にバットを構えた。


  奴がボールをミットに収まる。運命の一球になるかもしれない。奴は何で来るんだ。

  ストレートか......いや、まずは変化球で様子見か......まて、奴にはもう体力は残っていない。ここはストレートだ!


  奴が振りかぶり、勢いよく腕を振り切る。奴から放たれたボールは綺麗な弧を描き、こちらに向かってくる。

  しまった......俺の読みは外れ、バットは空を切った。ボールは気持ちのいい音を上げ、キャッチャーのミットへと収まる。

  黒服の男が手を高らかに開け叫ぶ。ワンストライクだ。


  焦るんじゃない。まだワンストライクだ。それに奴の変化球は今までよりキレがない。やはり俺の見立ては間違っていない。奴の体力は限界なんだ!


  続いて第2球目の準備を始める。俺はここであえて待つことを選んだ。もちろんストライクの可能性が高い。無駄玉を投げる余裕は奴にはないだろう。しかし、先程の裏をかく戦法......奴は俺みたいな凡人とは訳が違う。


  俺は奴の放った第2球を見送った。まっすぐ襲いかかるボールは急に地面へと吸い込まれ、こちらに届くかギリギリのところで地面にぶつかった。

 やはりフォークか!俺にボール球を振らせる気だったのだろう。今度は相手の出方を読み切った俺の勝ちだ。


  俺は心の中で次で決めると誓った。俺の仕事は次に繋ぐことだ。俺の力は俺自身が十分わかっている。試合の勝敗を俺が決めるんじゃない、俺が決めるのは最高の舞台を仲間に作ることだ!


  奴がこちらを睨みつけている。小手先の技が俺に通用しないと思ったのだろう。奴は渾身の力を腕へと込めている。ストレートだ。


  俺はストレート一択に絞り込み、バットを力強く握りしめた。今までの仲間たちとの思い出、俺自身の努力、この想いをこの一振りに込める!


  奴が大きく振りかぶり、今まで見た中で最大の腕の振りを見せた。放たれた球は周囲の空間を切り裂きながらこちらは向かってくる。


  恐れるな! 振り抜け!

  俺は勢いよくバットを振り切った。バットはボールの上半分を捉えた。跳ね返ったボールは勢いよく地面へと叩きつけられ空へと舞いあがった。


  俺はすでにバットを捨て、全力で走り出していた。不恰好ながら全力で一塁を目指す。ボールは奴のミットへと収まり、こちらはと投げ込まれる。

 ボールが先か、俺が先か勝負は五分五分だ......いや違う! これは意地の戦いだ。俺は奴なんかに負けない!


  勢いよく一塁へと飛び込む。砂煙が舞い上がり俺は祈る。待っていた黒服は腕を横に伸ばして叫ぶ。セーフだ!

 俺は勝ったのだ!


  俺は打席に立つバッターへと頷く。仲間は力強く頷き返し奴と対峙した。


  奴が放った第1球を仲間は軽々とスタンドへと運んだ。その瞬間、スタジオの誰もがボールの行方にめを奪われた。ホームランだ!


  俺は颯爽とグラウンドを周り、ホームへと帰る。そこには仲間達が待っている。だけど俺は主役じゃない。本当の主役は俺の後ろをゆっくりと走っている。

  俺はホームへと帰るとすぐに主役を迎える準備をする。主役が帰るとみんなで褒め称えた。もちろん俺も心から褒め称えた。


  すると監督がそっと俺の肩を叩き呟いた。


「よくやったな」


  俺は空を見上げた。綺麗な青空がにじんで見えていた。

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