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宙の音色  作者: 冬ノ千
2/7

再開

 自宅からそう遠くないほどの距離に葵の家はある。


 昔はよく遊びに行っていたが、最近は通らなくなった道を歩くと、懐かしい一軒家が見えてくる。


「うわ、緊張してきた・・・」


 ぼそぼそ言いながら、覚悟を決めてインターホンを押す。


「はい・・・?」


 落ち着いた女性の声で尋ねてくる。葵の母親だろう、かなり懐かしい感じがした。


「あ、えっと、娘さんの葵深月さんと同じクラスのものです。あの、担任の長野先生に頼まれて、プリントを届けに来たんですけど・・・」



「あー、さっきの電話の。じゃあ、今取りに行くから、少し待っててもらえる?」


「あ、え、はい、わかりました、すみません。」


 インターホンからの音がなくなる。


 あー、やっぱり緊張するわ、めっちゃ挙動不審になってしまった・・・


 最後になぜか謝っちゃったし、謝るの癖になっちゃてるな・・・


 そんな自己嫌悪をしていると、少し離れたところでガチャ、ドアの開く音が聞こえ、足音がこちらに近づく。


「わざわざありがとうねー、って、陸翔君じゃない!お母さん元気?」


 葵の母親の葵澄玲(すみれ)さんが家から出てきてそう尋ねてくる。


 幼稚園から、俺と葵が同じで、家も近かったため、家族全体で交流はあり、母親同士では今でも時々ランチに行ったりしているようだった。


「あ、どうも、お久しぶりです。あと母も元気だと思います。」


「そう、最近会えてないから、それならよかったわー」


 ニコニコと笑顔ではなしている。昔から元気で、笑顔がよく似合う人だった。


「最近学校どう?楽しい?」


「あー、まあ、ぼちぼちってとこですかね。」


 苦笑しながらそう答える。


 実際、平和に過ごしている。それはとてもいいことだろう。


 だが、よくわからない虚無感に不意に襲われることがある。


 ()()()()でいいのか。


 何も目的もない、ただ、周りと同じように流されながら過ごしている日々。


 大きな不安感が全身を襲うことがある。


 変わろうと考えても、体が動かない、なんてよくある話だろう。


 不安だが、周りに流されながらの生活は苦も無く、とても()ではあった。


「そう・・・とにかく元気そうでよかったわ。深月も体調は良くなってきているから、病院の方から許可が出れば、そろそろ学校に行ける日も出てくるんじゃないかしら?」


「本当ですか、それは学校の娘さんの友達も喜ぶと思います」


 それは純粋に喜ばしいことだった。


「そうだ!陸翔君、よければ、深月と少し会ってあげてくれない?」


「え、いや、さすがにそr「ちょっと深月に声かけてくるわね!!」


「え、いや、ちょっと待って・・・・」


 言い終える前に駆け足で家に入ってしまう。なんかドタドタ音がした気がする。


 ・・・まあ、葵のほうも幼馴染とはいえ、何年もしっかりと話をする機会のない男と二人で会うのは嫌がるだろう。


 俺個人としては・・・まあ、女の子と二人で会うのは緊張はするが、嫌ではない。が、やはり今では関わりがない女の子と何を話せばいいのか、会話が早々になくなる自信しかないため、気まずい状態になるのが目に見えているので、会わないほうがいいだろう。


「コミュニケーション能力がもっとあれば・・・」


 コミュ力がないので、女子の友達はいないし、女の子と話すときはなぜか敬語が混じったりしてしまう。


 マジで女友達が多い男は女の子とどんな話して仲良くなんの?本当に謎だ。とにかく、俺にとって、女の子と仲良くなるのは相当難しいということだ。


 無意味なことに考えを巡らせていると、再びドアに開く音が聞こえる。 


「ごめんね、お待たせー。」


 軽く謝りながら戻ってくる。それに対して軽く返事を返す。


「それじゃ、入っちゃっていいよー。」


 何気ない風にそう言ってくる・・・・ん!?


「ん゛、え゛、えっえ!?」



 変な声出た。


「え、会うことになったんですか?」


 向こうは了承したのか?何故?どうして?WHY?


「もちろんよ!陸翔君部屋に入れるわねーって伝えたわよ。なんかすごい焦ってたけど、まあ大丈夫でしょ!」


 それは大丈夫じゃないのでは?と思いつつも、とりあえず、呼吸を整える。


 緊張してきた。何話せばいいんだよ・・・


「えっと、じゃあとりあえず、お邪魔します・・・」


「会ってくれるのね、よかった。」


「陸翔君がくるのは何年ぶりかしらね。」


「いつでしょうか、確か、小学校の低学年くらいまで遊びに来ていたので、大体十年前くらいじゃないですかね。」


「そんなに経ってるの、懐かしいわねー。」


 昔を懐かしむように目を伏せて、一瞬止まった後、家のドアを開ける。


「お邪魔します。」


「はい、いらっしゃい。あ、深月の部屋変わってないけど、覚えてる?」


「はい、たぶん覚えてます。」


「じゃあ、部屋行っちゃってー。私、お茶とか準備して持っていくから。」


「あ、はーい・・・」


 え、まじ?一人で戦場に行けというのか。


 とやかく言ってもしょうがないので、階段を上って右の突き当りにある葵の部屋の前に立つ。


 緊張しかない。何を話せばいいんだよほんと・・・怖いなぁ・・・でも、行くしかねえか・・・


 一度、深呼吸をする。もう一回、もう一回・・・もう一回したら行くぞ・・・!







 結局、数分経ってから、意を決してドアをノックする。


「あー、えと、五十嵐陸翔だけど、あー、おっ、同じクラスの!あの、入っても大丈夫ですか?」


 うわ、めっちゃ気持ち悪くなった・・・死にたい。


「あ、はい、どうぞ。」


 自己嫌悪に陥っていると、声が聞こえる。断りを入れながら、ゆっくりとドアを開ける。


「失礼します・・・」


 部屋に入ると、背もたれを少し上げてベッドに寝ている少女がいる。


「葵・・・さん?」


「あ、こんにちは。いや、こんばんはかな。」


 微笑みながらこっちに話しかけてくる。


「久しぶり、陸翔君。」


 





 


 


 


 








やっぱり楽しいけど、難しい・・・


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