九幕「私の名前は」
『はいっ、狂世界の皆さんこんにちは!
嫌われ者の化け者のフォルムチェンジ版【帝音ハジケ】です!』
客席からワーワーワーと歓声があがり、化け者―――
いや、帝憑+弾ける音で生まれた帝音ハジケはにっこりと微笑む。
――――どうやら、ライブをしているようだ。
『あ~、そうそう。今日歌う曲のことなんだけどね。俺はかいりきベアさんっていう人の曲が好きでさ、
よく聞くんだよね~。
ってことでね、今日はかいりきベアさんの曲を詠っちゃおうと思います!!』
またワーワーと客席から歓声が上がる。
『それじゃあ早速いってみよー★ 一曲目は 【マネマネサイコトロピック】★」
音楽が流れ始める――――とその時。
ブシュウウウウッ、とその場に煙が広がる。
誰もがライブの演出だと思った。
・・・だが、それは演出ではない。
―――来咲依月達だったのだ。
「・・・いたな、化け者―――」
周りがザワザワとし始める。
「・・・貴方、なんで? だって、システムは・・・なぜ? ・・・クロロ・リリエス――?」
「ええ、私がこの人間たちをお連れしました・・・」
「・・・ふふふふ、ふっふふふっふふふ・・・。・・・なーんだ、狂い者になりたかっただけ?
それなら強く願ってればよかったのにー。・・・あ、でも私が悪いか・・・ごめん」
依月が数秒黙ってから、口を開いた。
「そういうことじゃないんだ、化け者――――
・・・お前を、いや、お前たちを―――――説得しに来た」
「・・・ふふふふふっ、説得? 無理だってわかってるんでしょ?」
化け者がそう言った後、タナトはすぐさま口を開く。
「残念だったね、帝音ハジケ・・・
いや、嫌われ者の化け者。これは元凶様からの指令。」
「・・・ごめん、言ってることが分からない。なんなの? 元凶は私だけど」
少し飽きれたようにカイルは言う。
「あ、そうだ・・・化け者は分からないんだ。
話してあげてください、元凶のこと」
―――そして、依月達は元凶の全て、そして元凶の想いを明かした。
「・・・と、いうことなんです。皆さん、元凶様はこんなことにはしたくなかった。
皆さん、重い荷物があるなら、無理しないで、みんなで分け合えばいいじゃないですか。
破壊魔なんて元々いない。みんな同じ人間。
きっと、今からでも間に合います。さぁ、元の世界―――いや、新しい世界へと変えていきましょう」
周りからは歓迎の声が上がっている。
「元凶様は、そんな思いで――こんなことじゃなかったんだ。そっか」と納得する者や、
「みんなで新しい世界を創ろうじゃないか!」と叫ぶ者さえも居たのだ。
狂い者達は、依月達の意見に完全に同意しているようである。
「・・・ほら、化け者。みんなもそう言ってるだろ? 元凶だって、
化け者が自由に生きて華やかな未来を期待してるんだ。
使命なんてもういい―――元凶も、そう言ってたぞ」
―――化け者は、哀しそうな表情を見せ、にこりと嗤った。
「―――そっか。そっか―――私は自由―――
本当の元凶様も、ここから解放されて皆で新しい世界を築いていくことを願ってるんだ―――」
「ああ、そうだ。お前は、これからどうしたい?
元の世界に戻ったら―――」
「・・・ふふっ、そうだね―――
天罰能力は残る―――それに体は化け者だし―――
私は酷い人に天罰を与えるのを続けて、虐待されている子や苦しんでいる子を助けてあげたい。
―――それが私がしたいこと。それだけ」
「・・・いいんじゃねーか、化け者――
・・・いや、名前で呼んだがいいよな。
―――お前の、名前は?」
「・・・私は」
其の時化け者―――いや、たった今一人の素敵な人間なった者が、微笑んで言った。
「八魅陽純玲
―――私は、嫌われ者の化け者じゃないよ。
八魅陽純玲っていう・・・人間だから。」
風がふき、依月はにこりと笑った。
「・・・そうか。よろしくな。
・・・八魅陽、純玲。」