肩こり
「おはようございます! 先輩! ……って今日はどうしたんですか? 」
挨拶しながら部屋に入ってきたのは僕の大学の後輩であず。何故かメンバーが僕一人しかいないサブカルチャー研究サークルに新しく入ってきた変わり者だ。容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、どこを取っても優秀で大学内でも大変人気なのだが浮ついた話は全く聞かないのでその点もまた彼女の人としてのレベルの高さがうかがえる。
「あぁ、あずか……おはよう。いや特にどうしたというわけではないよ。ただ、ちょっと体がだるくてね」
それに対して僕は日本史を覚えるのが嫌という理由で理系を選択し、センター試験で受かった私立大学になんとなく通っている普通の大学2年生。自分の容姿にあまり自信はなく運動も嫌いなのでインドア派だ。
「寝不足なんですか? どうせ遅くまでゲームしてたんですよね」
「いや、昨日は日付が変わると同時くらいに寝落ちしたよ」
「え……ということは先輩お風呂入ってないんですか」
「失礼な!ちゃんと5時に起きてお風呂入ってまた2度寝したよ!」
「良かったです、流石にお風呂に入らず大学に来たらドン引きでした」
「ま、まさかそんな人いるわけ無いじゃないかぁ」
ごめんなさい!!一度だけ寝落ちして起きられずに一限だけ受けてしまったことがあります!
僕は寝落ちをたまにしてしまう。外食したときや極度に疲れている時にベッドにダイブしたらもう終わりだ。即夢の世界へご案内。
「ちゃんと寝ていたはずなのに体がだるいって……疲れが取れていないんじゃないですか?ベッドで寝ました?」
「うん。ふかふか、とまでは言わないけどきちんとしたところで寝たよ」
「肩とか凝ってるんですかね、先輩姿勢もあまりよくありませんし」
「あぁ言われてみれば肩痛いかも、あず~ほぐしてくれ~」
「え~、先輩の肩を私がほぐすんですか。ちゃんとしたマッサージ師にやってもらった方がいいと思いますけど」
「僕はあずでいいなぁ、いや、あずにほぐして欲しいな」
「(私がいい……えへへ)仕方ない先輩ですね!私がしっかりとほぐしてあげます」
「ありがとう、あず」
そうして僕はうつぶせになった。それにしても言ってみるものだな、正直あずにほぐしてもらえるとは思ってなかった。あずの実力はわからないがきっとお父さんにやってあげたりしたことはあるだろうし不安はない。
「いやぁ、父をほぐすのは母が担当で一回も肩をほぐしたことないんですよね。先輩が初めての相手ですよ、なんちゃって」
「え??一回もないの?」
「はい、一回もありません!」
おう……まじか。まぁ誰もが最初からプロなわけじゃない、プロにだって初めてのときはあったのだ。運動神経の良いあずのことだ、力の入れ方も上手いだろう。
「そ、そっか……まぁお手柔らかに頼むよ」
「任せてください! 全力でやらせて頂きます!! 」
何故だろう……正直に言って不安しかない。僕には見える!30秒後痛みに悶えている僕の姿が!!
「あ、あぁ。自分の感覚を信じてやってくれ! 」
「じゃあまずは右からいきますね。直接ほぐすためにずらすのでちょっとTシャツ伸びちゃうかもしれませんが、まぁ許してください」
少し汗ばんだひんやりとした手が僕の肩に触れる。自分の手をあまりゴツゴツしてるとは思わないが、あずの手と比べたらその違いがはっきりとわかる。女の子の手はこんなにも柔らかかったのか……。ぷにぷにとは違う、しっとりと、もちもちと、この感触は実際に触れないと分からないだろう。
「先輩? 大丈夫ですか? まだ触れただけなのに変な顔してますけど……」
「大丈夫だ問題ない、そのまま続けてくれ! 」
「あ、はい。では力入れていきますね」
「あぁ気持ちいい゛い゛い゛た゛い゛痛い! 痛い!! 」
「えっ?気持ちいい?良かったです!かなり凝ってるみたいなのでもう少し力入れていきますね」
気持ちいいのは一瞬だった。柔らかい手の何処にそんな力があるのか、というくらいかなり怪力だった。女の子に怪力と言うのは失礼だということは分かっているが、そうとしか表現出来ないんだから仕方ないじゃないか!!
あずのマッサージはとにかく凄かった。指圧から始まり叩いてみたい、こねてみたり、つねってみたり……。あまりの痛みに僕の感覚はどこかに行ってしまったようでよく覚えていないがかなり効いたと思う。終わってみたら肩の痛みなんて感じなくなっていた。
「どうですか、先輩? だいぶほぐれたと思うのですが」
「う、うん。肩の痛みも消えたりかなり軽くなった……ありがとう」
「それは良かったですが……大丈夫ですか?すごい疲れた顔をしていますが」
「大丈夫、大丈夫。きっと凝りがほぐれてスッキリしたんだよ。それよりもあずは大丈夫か? かなり一生懸命やってくれたが疲れてないか?」
「元運動部を舐めないでください、これくらい余裕です」
「さすがだな、あず。僕と違って体力があって羨ましいよ」
ただ、流石のあずもちょっと頑張り過ぎたようで顔が多少火照っていてシャツにも汗が染みてしまっていて透けかけている。しかも息が微妙に切れているようで肩が上下している。まぁ率直に言ってえっちですね!
「ふー、軽くなった軽くなった〜。本当にありがとうな!」
「いえいえ、先輩が"元気"になってくれて良かったです」
そう言ったあずの顔はさっきよりも赤くなっていた。