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一摘の塩

作者: テル

時間を返せというご要望には対応しかねますのであらかじめご了承ください

 8月の上旬。太陽に殺されそうな夏の日。母が他界したのもこんな炎天下の日だった

「買い物に行ってくるね」と言って家を出た母は帰り道で事故に遭い、そのまま帰らぬ人となった

 もう10年も前の事だが、未だに受け入れられない自分がいる。生まれつき病弱でいじめられっ子だった私に唯一味方してくれた母。今でも人ごみに行くと、ふとあるあはずもないその影を探してしまう

 家庭もとても貧乏で、その場凌ぎの食材を手に入れては塩を振って腹を誤魔化してきた。母曰く

「塩振れば大体美味しくなる」のだとか

 そんな生活の中でも私は幸せだった。学校でどんなに辛い思いをしても、母と食卓につくとすべて消し飛んでしまった


 その幸せが終わったのはあまりに早かった。小学四年生、10歳の時の夏休みだった。セミの鳴き声の中で夏休みの宿題を解いていると、隣で母が言った。「宿題が全部終わったらスイカ食べよっか」「いいの!?」「塩振ると美味しくなるのよ」

 母が無理をしていたのは幼心にも何となくわかった。だが私は世間一般で言う"夏の風物詩"を経験してみたくて、遠慮の言葉を腹の奥底へ仕舞い込んでしまった。もしあの時ハッキリ断っていれば、母が買い物に出かけることもなかったのに


 会ったこともない親戚に引き取られてからというものの、生きてるのか死んでるのかわからない人生だった。目的も意欲もないまま何となくすごしてきて、いつの間にか成人して、本当の本当に独り身になってしまった

 母の遺影を飾っても心にはいつも大きな穴が空いていて、何となくネットで知った観葉植物を部屋に置いてみることにした。どうせ犬猫を飼っても私に世話なんかできっこないし、趣味の一つあったほうがマシになるだろうと踏んだのだ

 もう四ヶ月になるが、枯れずに元気でいてくれている。観葉植物が友達なんて言ったらそれこそまさにお笑い草だが、もう既に唯一無二の存在である

 あくせくと働くフリーター生活だが、狭い部屋で迎えてくれるこの子は名実ともにオアシスだった

 この子を見て私は思い出した。「塩振れば大体美味しくなる」と母は言っていた。母とは二度とあの幸せを共有できないから、せめてこの子にと共有しよう

 そう思って塩水を与えたが最後。シオシオに萎れてしまった

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