豚姫のご褒美
長らく開けました。ごめんなさい
小鬼、小鬼、と少し考えるが思い当たることがない。しかし、その1の覚悟が決まったような顔を見ると「どういうこと?小鬼って何?」なんて聞くのもどうかと思う。
ここは誤魔化してあとでその2あたりにコッソリ聞いておこう、それがいい。
「ああ、小鬼どもも運が悪い。まさかこのリィンパフ様と戦うはめにあうとはな」
にやりと笑って様子を伺うと、少年たちが一層喜んではしゃぎまわっている。この受け答えで正解だったようだ。
無邪気な喜びに包まれた空気が、急速に張り詰めていく。
「ええ、姫様。我らオークの本懐を果たしましょう」
その1はあくまで静かに。
対照的に、他の子らは可愛らしい容貌のままに狂ったかのように声をあげる。
「たたかい!」「われらのいきざま!!」「オークがかつ!たとえだれがしんでも!」
なんだ、戦争か。助かった、それなら話が早い。
生まれたばかりの私だが、この空気は生まれる前から知っていた。
死んでも受け入れられそうにないが、私も少年たちもやはりオークであることは変えられないらしい。
魂に、戦いが刻まれている。
戦略も戦術もなく、ただ突っ込んで滅ぼす。
滅ぼせなければ、死ぬ。
そんな戦いがたまらなく待ち遠しい。
「遍く神々よ、ご照覧あれ。偉大なるオーク・プリンセスとその眷属たちが、その名と栄誉にふさわしい狂乱をお届けしましょう」
その1の言葉は真摯な祈りであり、オーク・ビショップとしての魔術でもあった。
わずかに能力が底上げされたことを感じる。どうやら今すぐ攻め込む予定らしい。
見苦しい豚どもの戦いにはまったく興味がなかったが、予定が変わった。
私の眷属となった子らは可愛い。この子たちを従えた戦場は、私の初陣にふさわしい劇場となろう。
これは、楽しい遊びになる。
「豚が死のうが興味なかったけど、あなたたちは私の望みを叶えて美しくなった」
私が声をあげると、賑やかだった少年たちはぴたりと静かになった。
それでも、目だけが爛々と燃える。
「そんなあなたたちにご褒美をあげる。最高の戦いを。私の眷属として侍る幸せの次くらいには、贅沢なご褒美よ」
際限なく沸き立つ興奮に私自身も身を委ねると、私の体が光を放つ。
光の中で生まれつき身に纏っていた豪奢なドレスが音を立てて溶けていく。
全ての布が溶けきると、溶けた布かどろりと体にまとわりつき、形を変えて固まっていく。
私が生まれた時と同じ、この光が私の力だ。
光が収まり完全に固まったとき、私は血のように赤い煌びやかな鎧を身につけていた。
少年たちの惚けたような顔が愉快でならない。
魔力で編まれた鎧が体に馴染むことを確認して、声を張り上げた。
「さぁ、案内しなさい。最高に美しいものを見せてあげる」