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解説:幻想博物誌  作者: 邨野節枯
ミニュ編
6/11

酒場と宿

 旅人の宿は、とても重要な問題です。

 現代でこそ専業で、宿泊サービスを行っているホテル等沢山ありますが、かつては旅人等とても珍しい者で、わざわざその人達のために宿泊所を用意する程のことはないか、珍しい事だった様です。


 中世ヨーロッパには既に、街道沿いや都市等には「居酒屋」があったと言われます。タバーンとかタベルナとか言われる場所ですね。ただ、今日の居酒屋とは概念が異なります。中世も近世も「居酒屋」というのは、余り宜しくない場所とされていて、聖職者は立入りを禁止されるか、旅をしている時は仕方が無いけれども細心の注意を払って、または、代理人に物を購入させて別の宿で受け取らねばならない等あったようです。

 実はこの規定は二十世紀初めにでたカトリック教会の教会法典にも依然として残っていました。60年代まで当然とされ、80年代に正式に廃止されるに至ったわけで、少し時代が変われば感覚にも大きな違いがあることがよく分かります。

 中世を舞台としたゲーム等で、よく仲間は酒場でと言うのが有りますが、考えて見ると不思議な話です。誰でも酒場に居るはずが無いですからね。


 農村等では、伝があればその人のところ、その地域の住人の家、領主や有力者の所有する家屋等が宿泊先になったようです。

 商業活動が活発になると、地域に物資をもたらすだけではなく、商人が帰りに地域の物産を持ち帰ることもあったわけで、相互に利益が上がる訳です。その事に気付いた封建領主の中には、商人を保護したりすることもあったようです。関税を課すだけでは無かったんですね。

 保護権というのは、それで制約も生じる為、善し悪しありますが、通行許可だけではなく、積荷の保障、宿等の提供、街道の整備とうまで及びますから、商人にとっても都合の良いことでした。


 巡礼路等の安全を保護する聖ヨハネ騎士団、つまり、ホスピタル騎士修道会の様に、宿や食事を提供した場合もありました。

 今でもラテン系の言語や英語等で使われる単語に当時の痕跡を見る事が出来ます。ホテル、ホスピタル、ホスピス、ホスピタリティ、ホスト、オスピテなど、語源は同じですね。なお、おもてなしを表すホスピタリティですが、イタリア語ではオスピタリタといいますけども、主人側だけでなく客側にも関係する、相互的な概念です。オスピテも主人と客の双方を意味し得ます。ただ、英語の影響でどんどん客側だけとか、主人側だけという意味に偏って行きつつあるようですが。

 ともかく、それらは旅人なり病気の人なり、地域に生活基盤がある訳でない身寄りのない人を保護する福祉事業的側面があったようです。馬に乗っていると財産がある事が明白なので、旅人への施しが受けられないと言った事もあったようです。

 また、場合によっては、彼等のような騎士修道会が警護や護送の様な通常領主の行う事を代行するのみならず、銀行や預り所の様な機能を持って為替を行った事もあるようです。

 いくつかの騎士団は今でも存続し、修道会としての側面はだいぶ失われてはいますが、国際的な支援活動や、福祉事業等を行っている場合が有ります。


 その他、有力商人の商会なり、商人ギルドなり、特定の地域を代表しうる商館なりが、宿泊場所を提供するということもあったようです。


 さらに、木材交易等になると河川を利用しなければほぼ不可能ですから、小領主の領地を超えてしまい、手に余る規模になります。その様な場合、各領主は実際に木材交易に従事する商人に許可なり委託なりを出し、伐採・発送・輸送等の設備や経由地の設備等を準備させることもあったそうです。

 大航海時代に船舶の規模は拡大の一途を辿りますが、全て木造艦ですから、その為の木材資源は大変重要です。その頃、特にこういった河川を用いた木材の輸送は大規模になり、ヨーロッパの森林伐採が加速したそうです。


 ともかく、旅人の為、商人の為の宿というものが、現代の様にたくさん整備されているわけではなかったということです。

 そして、宿泊するには、通常は伝を辿るか、地域の住人の家か有力者の家等に頼み込む、というのが基本だったということです。


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