チェンジミーdeヘンシン「ブスになる」編
お日さまがいい感じのサンデー、きょうは遊ぶぞーと言いたくなる午前10時。
変身屋さん「メイクアップミー」の○○店がオープン。女性店員は準備完了。イスにすわって窓の外を見た。店の前にやけにリッチっぽい車が止まったんじゃないだろうか。スーッとおごそかに現れた黒い金持ちカー。
ガチャっと音。ザッツオープンなトビラ。そこから色白でムッチリっぽい足が下りる。推定年齢15歳くらい。ふわっと漂うブラウンヘアー、大人シックなショートボブ。気品と無邪気と萌えを備えた少女が参上。
「ふぅ……」
かるーく首をうごかす少女。車の中から顔を出している黒いスーツの男に言った。これから新しい世界を楽しむんだから、ついて来なくてもいいわと。
「何かあったらご連絡を」
「了解、じゃーね」
少女が歩きだす。メイクアップミーの扉を押し開け中に入った。
「いらっしゃいませ」
待ちかまえていた店員が一礼。
迎えたは人形みたいな少女。ネイビーボーダーのTシャツを着ているが、持っているバストの豊かさをいい感じに演出。やわらかそうに揺れるのがミソと言っているよう。上にはおるネイビージャケットとのハモりにしたたかな計算があるのかもしれない。
「どうぞ」
店員はちょい左手をうごかし、お座りくださいと促す。
「ヘンシンするわ」
やる気マンマンな切り出し。出された湯のみを両手にあふれる笑顔。
「ヘンシンですか?」
店員はフシギそうな顔。少女は神さまに愛されている。顔も体も雰囲気も一級品。これ以上なにを望むというだろう。
「ダウングレードよ」
「ダ、ダウングレード?」
両目を丸くした店員を気にせず少女は説明。そこそこ仲の良い存在がいて、言っちゃ悪いがちょいブス。気にしなくてもいいのにと思っているが、あんまりにもネガティブなので神秘に見えてきた。
「理解したいのよ、ブスのキモチっていうのを」
「そ、そうですか」
「わたしみたいな女、身をもってブスるしか手がないじゃん」
「はぁ……」
説教したいなぁと思いながら、店員は申込書を差し出す。名前と年齢、申込みコースをお書きくださいと言って。
少女の名前は桐山かれん、年齢は15歳。彫刻の神に愛されし女の子。右手にもつボールペンは12時間コースを選択してチェック。今から夜の11時ごろまでブスに成り下がって人生をベンキョーするつもりらしい。
「ねぇ、ホントに戻れるのよね?」
「12時間コースは12時間で元にもどります」
「戻れなかったらタダじゃすまないわよ?」
ややビクビクしているかれん。そういう姿はかわいいのになぁと思う店員は、お金は大丈夫ですか? と確認。12時間コースは安い方ではあるが、それでも8万円。15歳の少女のおこづかいにはきついはず。
「8万ね」
かれんが立派すぎるサイフを取りだした。ワニとかクロコダイルがよぎる代物。ぶ厚い札束からうすぺっらい8枚が抜かれる。8万を8千円と思っているような手つきが印象的。
「ではこちらに」
スキャン室。桐山かれんの顔やからだ、各々パーツにある特徴などが取り込まれる。それからまた受付。かれんはデカいディスプレイを見て茶をすすり。店員は画面見ながらマウス操作。
「どんなブスになさいますか?」
「そうねぇ……」
かれんは宙を見てかんがえる。それから手を合わせ語った。生まれたときから終わっているようなブスでありながら、もし神さまが味方していたら助かっただろうになぁって凝ったブスにしてと。
「生まれた瞬間に人生終わっててさ、がんばれば……って期待するけどやっぱりダメで、スイカ割りされて死ぬしかないって感じに仕上げて」
店員は聞いていて腹が立つをとおりこした。少女は地球以外からやってきたんだろうなと思って作業する。
だんだん画面の顔はぶさいくに。
「では、メイキング室に」
「まだよ」
「まだ?」
「バストもちょっと変えないと」
「えぇ……」
かれんは得意気にうで組み。やわらかい弾力を腕にあてながら、たかだかEカップと前置きしてから続ける。
「胸にめぐまれないのも負け犬っぽいじゃない?」
「はぁ……」
「とことん絶望になってみたいのよ」
「バストまでダウングレードするなんて」
「どうせ12時間後には女神にもどれるんだし」
クスっと天真瀾漫な笑み。Bカップくらいにしてとか、ややカタチを悪くしてとかダウングレードへの要望はいっぱい。
しばしメイキング室。
ハラハラドキドキの桐山かれん。からだの感覚は変わらないと思って外に出た。でも店員がもってきたスタンドミラーを見てこうちょく。南極にほうりだされたようにガチガチ。
「な、な、な……」
「いかがですか?」
「よくも人をブスにしたわね!」
「いや、あなたが依頼されたんですよ?」
クッ! と恥辱の赤い顔。追い討ちという感じで気づいた。豊満でやわらかくカタチよいふくらみもダウングレードで格下げになっていると。
「こ、こんな……」
「おつかれさまでした」
「戻して、いますぐエンジェルなわたしに戻して!」
「それはムリです」
店員キッパリ。12時間コースなら12時間、元にもどれません。いさぎよく自分をたのしむのが女としてあるべき姿ですよと。
かれん舌打ち。12時間後にこのままだったら、そのときはあの世に逝ってもらうわよと恐ろしい事をこぼす。ともかく新生少女、ブスっと店の外に出た。健康なひざしとぬくもり。しかし店のウインドーに映るは似て非なる自分。
「おちつのよ、たった12時間の試練なんだから」
歩きだした。胸のドキドキハンパない。気になる、ひたすら気になる。あいつもこいつも私を見てるんじゃないか、心の中でブスとあざ笑っているんじゃないかと疑心暗鬼が止まない。
「なんていうか……」
少女の胸は煮えたぎっていた。ちょっと目が合うだけで、見知らぬ人間を攻撃したくなる。何か言われたわけじゃないのに言いたくなる。
―ブスで悪かったわねー
と。生まれ変わって20分。早くもイヤになっている。あと11時間と40分もあると思ったら、自殺したいキモチ。
「やってらんないわ」
自販機でジュース一本。乙女フルーティーという名のドリンクを、いつも通りのポーズでグビグビ。そんな少女を見ながら通りすぎた男が2人。ひそひそやっている声がかれんの耳に届く。
「おいあれ」
「エラそうに飲みやがるなぁ」
「美人ならまだしも、ブスであれはない」
「必殺のブス飲み! ってか?」
「ギャハハハハハ」
かれん、冷たい缶をにぎってブルブル。バリバリと音を鳴らし、グニュっとにぎりつぶしてゴミ箱へねじ込む。
「あいつらぁ!」
怒りのスイッチを押したくなってもガマン。これ社会ベンキョー。理解と思いやりをゲットするためには、胸に痛みを感じてこそ。ふたたび歩きだす。
ネガティブVS世の中。そんな感じだった。行き交う他人のすべてを信じられない。自分のことを悪く言ってるんだと疑う。同性の女、異性の男、はてはお年寄りから子どもまでにくたらしい。
「人が多い繁華街で修行してみようかしら」
罰ゲームみたいと思いながら地下鉄に乗る。着席すると感情は灼熱モード。まったくもって熱く休まらない胸のうち。
(わたしのことブスだと思ってバカにしてるんでしょう?)
とか
(自分の方がかわいいとか優越感にひたってるんでしょう?)
などなど、いったい誰と戦っているのやら。
下車したら疲れていた。首をうごかせばゴキゴキ鳴る。ブスは早く老けるんだなぁとつぶやきエスカレーターへ。
エスカレーターに乗ったらトラブル発生!
わかい男性が、30代中盤だろう中年女性に絡まれた。スマホいじるフリして盗撮しただろうっていうのが女性の言い分。でもかれんは、男性がそういう事をしていないと見ていた。冤罪ってやつだ。
「白状しなさい」
「あほか、なんでババアを盗撮しなきゃいけねぇんだ」
「ば、ババアですって? まだ女の子のわたしに向かって」
「おぇぇ……」
「キィ! ゆるせない!」
中年女性は男性をケーサツに連行しようとした。周囲はしらんぷり。世間はつめたいモノと風が吹いたところでかれんが割って入る。この人は変な事なんかしていませんでしたよと訴えた。
とつぜんの援護者におどろきながらもうれしい男性。女性の方はおもしろくない。彼女は新参ブスに吐き捨てた。
「なんで男の味方するの?」
「わたし正義の味方」
「プ、本音を言いなさいって」
「本音?」
「ブスは男の味方しないと生きていけないって」
ひどいセリフ。かれんは手をにぎり、ゴジラのように暴れてやろうかと思った。口から炎をだし焼き殺してやろうかと。でも警官がやってきたので一歩引く。分の悪い中年の女性も引いた。
でも女性の方はかれんに向かって吐く。
「死ねブス、地獄におちやがれ」
と。聞いていた男性は舌打ち。あんなオバさんは放っておくしかないよとかれんに伝える。お礼の言を述べるだけじゃなく、すぐそこの喫茶店でお茶のひとつもと誘う。少女が、ブスでもいいんですか? と言えば、気にしないよとスマイル。
男性は香田好也とかいうそうだ。年齢は23歳らしい。目の前にいる少女と、いい感じで会話。
「きみいくつ?」
「15」
「女子高生?」
「乙女の吐息女学院に通ってます」
「お、乙女の吐息女学院? 名門じゃないか」
「いえそんな」
香田好也、いい感じのやつだったのに悪魔に耳たぶをかじられ出来心。目の前にいるブスによからぬ意識を抱いてしまう。君のような女の子は好きだと言い出し、つき合って欲しいと続ける。
「わたしブスですけど?」
「おれ、ブスな女の子って好きだなぁ」
なんか残念な匂いがすると、かれんは相手にためいき。いい感じのやつだと思ったのに、しょせんはナンパな野郎にすぎないのかぁ? と。
「わたしね、いまはブスだけど後で美人にもどるから」
「サイコーだよ美人な女の子って」
「ブスが好きって言ったじゃん?」
「いや、ブスでも美人でも魅力的ならどっちでも」
「ふ~ん」
シラケてしまった。つき合ってくださいと言われたらノー。このあといっしょに遊びに行かない? とか言われてもノー。ノーノ―尽くし。
するとどうだろう。香田好也の態度がバッドになってきた。かれんに突っかかる、ブスのくせにお高く止まるなよと。あぁ残念、ホントに。
「助けなきゃよかった」
かれんもだんだん腹が立ってきた。こういう男は昔からキライで、遠い世界に逝って欲しいと願ってしまう。
「ブスがあんまり調子に……」
言いかけたとき、ビシャって音。
「あら、ごめんなさいオホホ」
かれんが水をぶっかけていた。退散しようとしたら、逃がすかと男も立ち上がる。すかさず必殺の回し蹴り。
「必殺! 電撃クラッシュ!」
股間に一撃。ストライク。きのどくな男がうずまくるも、周囲は痴話ゲンカと冷めた目。ひそひそやったり笑ったりする。
退散。かれんは地上に上がり、こうなったらブスを楽しもうとアグレッシブに出向いた。服を買うとき、店員に同情な目で見られても気にしない。ブスになって見えるモノを満喫していたからだ。
笑顔や思いやりの下にひそむ蔑みやあざけり。恵まれた少女ではフィルターがかかって気づかなかったが、ブスだと生々しいほど伝わる。これが人の世。しょせん表情はエセ。そんな大切なことを学びながら買い物を済ませた。
帰り。ちょっと歩いてみたが、ナンパされることはなかった。それがとってもリラックス。女は守るべきが多いけど気がラク。注目されないマイペース音頭。かたくるしい美人から解放された軽さ。
「たまにはブスになるのもいいものね」
いま、かれんの心はとっても陽性。
***
翌日。
ヘーボンにしてゆううつな代名詞たる月曜日。
乙女の吐息女学院に向かって歩く女子高生たち。パーッとエレガントな雰囲気が周囲にひろがる。女の子だけが成せる広がりを世間にプレゼント。
「じゃぁ行ってくるわ」
黒い高級車からかれん出現。学校からちょい離れたところで下車。あとは歩いて到着するようにしていた。
そうして歩きだしておよそ20秒後。
「待て!」
男の声。数人いるかもしれない。
「なにか?」
かれんがふり返ると、20代前半くらいだろう男が3人。すべて知らない顔。かれらは少女がふり向くとドキッとして後ずさり。まばゆい、美形にして萌え、しかも巨乳だろう胸のふくらみぐあい。女神のよう。
「お、おい……話ではブスだと言ってたよな?」
ひとりが仲間に小声。
「似て非なるだよ、ぜったいこの子じゃない」
男3人は謝った。フン! と素っ気なく歩き出した少女。が、そこへやってきたのが昨日の男、香田好也。
かれは協力してもらっている友人から、ターゲットだと思ったけが違ったよと聞かされた。前を歩く少女の後ろ姿を見る。
思い出す。きのう、たしかブスは言っていた。あとで美人に戻るんだよと。あの髪型、フォルム、浮かび上がるオーラ。まちがいなくターゲット。
「あいつだ、まちがいない」
好也が日本刀を取りだした。男に恥をかかせた罪は死に値するとつぶやく。あの女のクビを刎ね校門にかざってやるとか怖いことも。
「うぉぉぉ!」
絶叫ダッシュ。日本刀が吠えんとする。かれん危うし! と思ったとき、ひとつの音。
バキューン!
フツーは耳慣れない音。それは日本刀をへし折った。かれんがふり返ると、数人の部下に捕獲されている男。あぁ、昨日のやつかと鼻でわらう。根にもったところでシアワセになれるはずないのにと肩をすくめる。
「お嬢さま、この者たちいかがいたしますか?」
男たちの声。好也は青ざめ汗を。昨日のブスと美人が同じ人間なら、許してくれるんじゃないかと期待しながらドキドキ。
「そうねぇ……」
かれん、右ひとさし指で頬をかいてからニッコリ。
「海に沈めちゃって」
「かしこまりました」
叫ぶ好也および仲間が車に押し込まれる。なにやら散々わめいていたが、このあと、連中を見た者はいない。
恋の四つ巴交響曲
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とかもよろしく(* ̄m ̄)ノ
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