一撃目
その日はとても寒い日だった。ファミレスに入ると暖房の熱気がこもっていて、厚着だった僕はうっすら汗をかいた。店内を見渡すと、ミユキは一番奥の席に座っていた。
「ごめん、待ったよね。」ミユキは黙っている。ミユキが口を開いたのは、僕が室内の暑さのあまり着ていたダウンジャケットを脱いだ直後だった。
ねぇ、私達もう別れない?
え?どういうことだよ?
私ね、ワガママだとは思ってるんだけど、キミ以外に好きな人ができたの。
…えっ?
本当にゴメン。
なっ、何だよ、それ。
キミには本当に申し訳ないと思うの。だけど、お願い。私と別れて。
…どんな人?
えっ?
ミユキが好きになった人。どんな人?
ミユキは黙っている。僕はすかさず言う。
ねぇ、ミユキ。黙っていても何も変わらないよ。
まだミユキは黙っている。
ねぇ、ミユキ。
…ゴメン。
えっ?
実はね、キミより好きな人なんて居ないの。でもね、キミの自分に都合が悪いとすぐカッとなっちゃう所とか、割り勘に厳しい所とか、優柔不断な所とか、一度ジャンプを買って読み出すと2時間は構ってくれない所とか、あんまりデートや遊びにも連れて行ってくれない所とか、そういう小さな所が積み重なって、私にはもう限界だったの。
…ごめん。
こっちこそゴメンね。きれいにサッパリ別れようと思ったのに色々言っちゃって。
ミユキは涙をぬぐい、バッグから財布を取り出す。そして千円札二枚をテーブルの上に置くと、その場を立ち去った。出口へ向かうミユキの後ろ姿を見ているうちに、涙がこぼれてテーブルの上に落ちていった。ホール係が空いている皿を取ろうと僕がいる席に近づいてくる。僕は泣いていることに気付かれぬよう、ややうつむいて紙ナプキンでテーブルを拭く。
僕は意識を取り戻す。止まらない寒気に僕は震える。マスターは心配そうに僕を見つめ、着ているジャケットを脱いで僕に渡す。僕はすかさずそれを羽織る。しかし僕の寒気は止まらない。記憶がまだ僕に牙を剥いて襲いかかる。僕の意識は現実世界からまた離れてしまう。