2日目
突如僕は目を覚ます。
どうやら寝ていたようだ。
時計を見ると1時間も経っていなかった。
テーブルの上にある睡眠薬の瓶を開ける。
しかし中身は空である。
それに気付いた僕はゴミ箱に瓶を入れる。
ゴミ箱がいっぱいになっていることに気付く。
朝になったらゴミ出しに行こう。
そう思いながら僕は布団の中で眠くもないのにまぶたを閉じる。
朝が来た。快晴だった。自分と空のテンションの違いに僕は少しウンザリする。ゴミ袋を両手に持ち、昨日のあの言葉について考察する。
あるものって何だ?
おそらく見つけなければならないと悟られていた。
あの言葉に惹かれてしまった。
僕は想像する。
「貴様は何が欲しい?」
ゴミ出しを終え、部屋に戻ってからもその質問が僕の精神を現実世界にとどめさせる。気になることがあるというのは幸せな事だ。自分と向き合わずに済むからである。
「…優しさ?」確か夢の中ではそう言った。
「そんなわけねぇだろ。」
「えっ!?」
聞こえた。今確かに男の声が聞こえた。僕は慌てて部屋を見渡す。白いソファの上におじさんがいる。本人はまだ気付かれていないと思っているようだ。おじさんは調子に乗って喋り出す。
「あと、神だから。謎のおじさんとかじゃないから。」
「っていうか、居んの?」
「…いねえよ。」
「いや今の間何だよ。」
「…何でもねぇよ。」
「居んだろ。」
「いねえよ。」
「居んだろ。」
「いねえよ。」
「居んだろ。」
「いねえよ。」
「さっきからうっすら見えてんだよ!お前ソファーの上に居んだろ!」
「…いるよ。」
「もう…何だよ。っていうかどっから入ったの。」
「今朝ゴミ出し行ったでしょ。その時。」
「マジかよ…」
「鍵開いてたから入っちゃおうかな、って。」
「それは神が言うことじゃねぇよ。」
「あれ、いま平日の昼間じゃん。会社行かなくていいの?」
「…辞めた。」
「えっ?」
「あと30日の生命、僕は喪に服して死んでいくんだよ。」
「本当にその覚悟はあるのか?」
「えっ?」
「死が近付いてくるんだよ。怖いよ。寒いよ。」
「…それは僕だって怖いよ。」
「まぁいいや。夜になったら3丁目のBARに行かないか?」
「えっ?」
「…奢るから。」
電車で二駅ほど行った所にあるBARは黒い壁にピンクのネオンで「♪Alice♪」と描かれていた。
チャラチャラした名前だな。そう思いながら入った僕は、「おぉ」と驚くことになる。というのも、アンティーク調なカウンターや数席しかないヴィンテージものの椅子、大人な感じの照明などがいい雰囲気をかもし出していたからである。
そこまで悪くないな。そう思った。しかしカウンターの中は無人でそこだけぽっかりと穴が開いているかのようである。しかし僕とおじさん改め神は気にせず真ん中に座る。
「あんたが紹介してくれたココ、落ち着いた店だね。」
「でしょ。おれこういうトコ、見る目あるんだよね。」
「へぇ。まぁそれを知っても、別に僕は30日後には死ぬし、意味ねぇけどな。」
「ホントにそうかな?」
「えっ?」
「どうせあと30日を有意義に過ごそうとか思ってるんでしょ?」
図星だった。おじさん改め神は続ける。
「 昔、まだ若かった頃だよ。俺たちは研究所に勤めていたんだ。神といっても働かなきゃいけない。人間の生態を知ろう、そんなキャッチコピーに騙されたよ。そこで見たのは人間の恨み、つらみ、妬みとか嫌な面だったよ。そこで俺たちは実験をしたんだ。ある人生に絶望した男の前に現れ、こう告げる。あと30日したらお前を殺す。しかしあと30日は何をしてもいい。何でも思い通り、思うままに過ごせ。って。」そこで鐘の音が鳴る。僕は驚く。
「あっ、もう24時か。電車とか大丈夫?」おじさん改め神が聞いてくる。(つづく)