1日目
「ホットコーヒー1つ。」
僕は注文する。それに対してモモカが
「え?まだ9月だよ。しかも日差しの強いオープンカフェ。」と言う。
「うん。知ってるよ。」
「ホットの季節じゃないじゃん。」
「別にいいだろ。さっさと選べよ。」
僕はそう言う。
「もう、冷たいよ。まあ、いつものことなんだけどさ。」
「うるせえよ。で、何にすんの?店員も待ってっから」
「うーん。じゃあ、アイスカフェオレとケーキで」
「ケーキなんて今さっきも食ったばっかじゃねぇかよ。」
「もぅ、別にいいじゃん、1ヶ月ぶりのデートなんだから。」
「はいはい。じゃ、それでお願いします。」
「はい、かしこまりました。」
ウェイターがその場を立ち去ると、僕は数秒もしないうちに、スマホの画面に目を戻す。そしてLINE、ツイッターというデートの神が見たらおそらく「非行だ!」と非難する行動へ走るのであった。
目が覚める。夢を見ていた。身体は末端から冷えていた。僕はあの瞬間を思い出す。
イライラしていた。
G-SHOCKの針は7時15分を指している。
ふと道路の向こうを見るとモモカがいる。
僕は不機嫌そうな顔をモモカに向ける。
モモカはそれを見て焦りの表情になる。
そして信号が青になる。
モモカは横断歩道の上を走る。
そして僕に駆け寄ってくる。
「ごめん。遅れちゃった。」
「遅えよ。15分の遅刻だぞ。電車だったら大問題だぞ。」
「ごめん、ごめん。」
そうなるはずだった。
トラックがモモカに近付いていた。
しかし、モモカは動けなかった。
ピンヒールの先がマンホールの穴に刺さっていたのだ。
モモカは必死に脚を抜こうとする。
しかし焦っているのかなかなか抜けない。
トラックの方も徐々に減速していく。
間に合わなかった。
枕は涙で濡れている。
あの時不機嫌な顔をしなかったらモモカはまだ生きていたのだろうか。僕の少しの忍耐で生命が、そう考えると自分が許せなくなる。寒さに震える身体を動かし、戸棚から睡眠薬の瓶を、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。
僕は睡眠薬の瓶を開け、大量の錠剤を取り出し、ミネラルウォーターと一緒に口に含む。
貴様、覚悟はあるのか?
あの声が聞こえる。
え?
だから、覚悟はあるのか?
は?
死ぬ覚悟だよ。
僕は我に返り睡眠薬の錠剤と水を吐き出す。水に溶けた糖衣の甘さに吐き気を催す。あの声はまだ続く。
貴様に30日やろう。30日経ったら貴様は寒さに震えて死ぬ。しかし、30日以内にあるものを見つければお前の生命は助かるかもしれない。さあ、貴様はどうする?喪に服して死んでいくか、はたまた生き延びるか…
あの声は消える。(つづく)