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第一章 七つの大罪と罰の集い

一体何故、世界から【魔物】が消えたのか、誰も知らない。古代時代の資料からは【魔物】は人間を苦しめる怪物で怪力を持ち、残酷で、とてもじゃないが人間に太刀打ち出来ない存在と説明されている。しかし、何故【魔物】が世界から消えたのか。その資料は未だに見つかっていない。


それにもう一つ、世界から消えた物がある。それは古代時代にのみ存在していた【聖なる技】。しかし、それは異端であり禍々しかったため【聖なる技】を使う人々はみんな殺されてしまった。


そんな【禍々しい存在】が消えた世界では人間は国を作り、軍隊を作り、人間による【人間のための世界】を築いていった。






◆◇◆






一人の人間が広大に広がる砂漠の真中を歩いていた。茶色で所々穴が開いている大きな布を体全体を隠すように羽織り、太陽が照りつける砂漠の中を歩いていた。布の隙間から見える銀色の短剣が歩くたびにキラキラと輝いていた。



「・・・・」



遠く広がる砂漠の向こうに大きな城が見えた。土色の外壁の近くには、沢山の馬車が並びその近くには暑いなか、タキシード姿で次々馬車から降りる【貴族】のような出で立ちの人々が様々なドレスを身に付けて城の中に入って行た。



「・・・・」



遠く眺めていたその人間は無言のまま砂漠の中を歩いていた。









【ドゥニウス王国】は最初は小さな村だった。砂漠の地下に広がる【カレーズ】を飲み水として引き、近くにある海から魚を取り、生活していた。それが、今では城が建ち、王様が誕生し、法律が作られ、商業、工業が発達した大国になった。何故、小さな村から大国になったかと言うと【交通】が鍵を握っていた。この世界では【船】が交通の中で最も重要性されていた。【ドゥニウス王国】が誕生したお陰で、船での移動が数倍も楽になったのだ。小さな村から大国に成長するのに必要なのは、【此所に国を作れば何が変わるのか】という【発想力】が大事なのだ。【俺】はそう思う。



「教授!此所にいたんですか!」



「なんだ・・・君か」


「なんだ・・じゃないですよ!勝手に部屋を出ていかないで下さいよ・・・・さぁ、部屋に戻って下さい。」



「うるさいな・・・君に指図されなくとも戻るよ。」


一人の男が【ドゥニウス王国図書館】から出て来た。長身で茶色のズボンに橙色のポロシャツを着て、首に銀色の剣状のアクセサリーを身に付け、青色で坊主並に短い髪の男は腰に拳銃を付けていた。【教授】とは正反対な風貌を醸し出していた。男は一度大きな背伸びをすると、民衆が集まっている【ドゥニウス城】を見つめた。



「それにしても、此所にいる奴等は皆馬鹿ばっかりな面構えだな・・・・」



「・・・その性格、直した方がいいですよ?皆、教授の事が嫌いらしいですよ・・・僕もですが。」


「無理だね。それに、お前らが嫌いだろうがそんなの関係ない・・・・それに本当の事だろう?此所にいる奴等は馬鹿ばかりなんだ。」



男はそう言い放つと、民衆の中に消えて行った。











【ドゥニウス王国】の商業区と工業区の間には飲食店が並んでいた。人々の賑わう声が聞える中、一軒の店の前に沢山の人が店を囲んでいた。皆、何かを応援していて隣りでは、人々がお金を出して何かを賭けていた。


「おい!早く食えよ!」



「うぐ・・・もうキツい・・」



「馬鹿!俺はあんたに給料三か月分賭けてんだぞ!ほら、ガツガツ行けよ!相手みたいに・・・」



店の中には、二人の男がテーブルの上に皿を何枚も重ねながらドゥニウス王国の主食【カレー】を食べていた。一人の男はぶっくりと太っているが、顔色を真っ赤にして汗を垂れ流しながら必死になって食べていた。



「・・・なんて奴なんだ・・顔色一つも変えずに食べてやがる・・・・」



もう一人の男は真っ黒なマントと、灰色で所々汚れている鎧を身に付け黒髪を整えた、切り傷が右目から斜めに付けられている男だった。長身でがっちりとした【熟練戦士】のような男が、一つも顔色を変えずに黙々と【カレー】を食べていた。



「うぅ・・・ぐぅ・・も、もう駄目・・・」


太っている男がスプーンを床に落とすと、まだ残っている【カレー】に頭から倒れた。横にいた若い男は、激しく揺らして激怒したが、ピクリと動かなかった。後ろにいる観衆は雄叫びを上げ喜んだり、嘆いたりしていた。


「店長!おかわり!」


「え!・・・勝負はもう済んだんじゃ・・・・」



「それはこいつらが、勝手にやったことだ。俺には関係ない・・・それより、おかわり!」



「は、はい!」



男の隣りには、かなり大きな赤一色の大剣がかけられていた。









【ドゥニウス】とは、【ドゥニウス王国】の初代国王【ドゥニュ―ス・ハルベルトン】の名前から取られた。そして、王国の中心に位置するこの公園の大きな噴水の上に【ドゥニュース・ハルベルト】像が剣をかざした姿で建っていた。公園には子供達がボールを蹴って遊んでいたり、老夫婦が微笑ましく子供達を眺めていたり、王国に住む住民にとっての憩いの場になっていた。


「あぁ〜・・・怠いぃ・・・」



その公園のベンチに、薄緑色の短髪で膝くらいのデニムのショートパンツで青色と赤色の刺繍を施したTシャツを着た少年が怠そうに座りながら空を眺めていた。耳に付いているピアスには初代国王が好んで付けていた【太陽を象った獅子】の形と一緒だった。



「あぁ・・・雲はいいよなぁぁ〜・・あんなにゆったりと動けるし・・・」



「全く・・いいご身分だな?」



「ん?」



少年の目の前には、銀色の鎧を身に付け、真っ赤な髪を腰まで伸した女性が少年を軽蔑するような目で見ていた。そして、その鎧にも【太陽を象った獅子】のマークが付いていた。



「・・・暑くないの?」



「体中汗でビショビショだ。全く、何故私がお前みたいな身分の者を探さなくちゃならないんだ?・・・お陰で、体中汗臭いし。」



「まぁまぁ、そぅ超遠回しに妬まなくてもいいんじゃない?それにほら、今日はこんなにいい天気じゃないか。」



「それが、どうした?お前はいつもそうだ・・・超が付くくらいの面倒くさがり屋なのに、あんな豪華な服も着れるし・・」



「・・・そんなに妬むと【妬みババァ】になっちゃうよ?」



「あんた本当むかつくわね。それよりも、早く戻らないと私はあの【クソ大臣】にねちねちと文句を言われる。戻りますよ?」



「えぇ〜・・もっとこうしていたいよぉ・・・・わかったよ、戻りますよ。だからそんな怖い顔で睨まないで・・・」



急に殺意を醸し出した女性に怖じ気付いたのか少年はゆっくりと立ち上がった。



「・・・それじゃ行きますよ?【怠け王子】。」



「はいはい、行きますよ【妬み兵士補佐長様】。」











国の栄光と繁栄の裏には必ず【悪】が存在する。

【ドゥニウス王国】の商業区。民衆が暮らす家が並ぶ中、裏路地は薄暗く、そこだけ涼しかった。そこは不良の溜り場でそこで殺されたり、喧嘩をして負傷したり、逮捕された人々は数えきれない程いる。そして、今日も裏路地では三人程の男が道を阻むように座っていた。辺りは薄暗く、三人の他に人はいなかった。



「なぁ、暇じゃね?」


黒いジーパンをはいた男が隣りにいる眼帯を付けた金髪の男に聞いた。



「暇だな・・・なんか面白い事ないか?」



「今日は・・・あれだろ?だけど、俺達には関係ないね。つまんねぇし、堅苦しいし・・・」



「だけど【歌姫】出るだろ?・・・あの子可愛くね?」



「マジな!あの子はめっちゃ可愛いよな!・・・・はぁ、俺達にもあんな可愛い子出来ねぇかな?なぁ!」



二人はもう一人の男にも聞いてみた。男は煙草を加えていたが、何故か呆然と前を見ていた。灰がいまにも落ちそうだった。



「おい、どうした?」


「あれ・・・見て見ろよ。」



男が喋るのと同時に落ちそうな灰が崩れ、服の上に落ちた。二人は男の言う通り前を見た。



「・・・あ」



目の前にいたのは、真っ黒でスマートなドレスを着ている女性の後ろ姿だった。髪も黒く軽くウエーブがかっていた。



「いつの間に・・・いたんだ?」



「さぁな・・・だけど、後ろ姿のスタイルが堪らないな・・・・」


眼帯の男は立ち上がると、前を歩いている女性に近付いて行った。眼帯の男がやろうとしている事を二人も気付いたのかお互い顔を見ると立ち上がり女性に近付いて行った。そして、最初に声をかけた眼帯の男は女性の白い肌をした肩に触れた。



「ねぇ、お姉さん?暇してる?」



そこにいた女性は、一言で言うと【完璧】な女性だった。【完璧】に調った顔のパーツに豊満な肉体、ドレスをぎりぎりまで下ろしていたので胸元は男を誘惑する武器となっていた。


「お姉さん、もし暇なら俺達と遊ばない?」


眼帯の男は、口元をニヤニヤさせて女性を誘った。後ろの二人も笑っていた。すると女性は三人の男を見るや赤い唇をつり上げ微笑んだ。


「丁度よかった・・・私、お腹が空いてたの。」



「そうなの!なら、今から飯食いに行かねぇ?俺達、旨い店知ってるぜ?な!」



男は、後ろにいる二人の方に目線を向けた。しかし、そこに二人の姿はなかった。



「あれ?・・・あいつら何処に・・」



「あら、もうやっちゃったの?もぅ・・食い意地はっちゃって・・・」



「え・・・」



男はもう一度女性の方を振り向いた。女性の漆黒の瞳は徐々に赤く燃え上がるような色に変わり、瞳全体が血のような色になった。目の中心には小さい黒い点が浮かび、そして、口の隙間からは鋭い歯が見えていた。



「ひ、ひぃぃ!ば、化け物だ!」


男は後ろを振り返り逃げ出した。そして、路地の曲がり角を曲がった所である物が目に入った。



「な、なんだよこれ・・・・」



薄暗い路地に広がるのは、一面真っ赤な世界だった。そして、そこには二人の男【だった物】がいた。肉が裂け、臓器が外に散らばっている中、大きめの二匹の猫がその肉を食べていた。“ビチャビチャ”と音を発てていた猫は男の声に気付くと、ゆっくりと振り返った。鋭い目付きに口には血が大量に付いていた。



「ひぃぃ!」



男は後ろに下がろうとした時、柔らかい物が当たった。男は恐る恐る振り替えると、あの女性がいた。女性は怪しく笑うと口を大きく開けた。鋭く尖った歯が覗かしていた。



「う、うわぁぁぁぁぁ!」



男の声が裏路地に響いて消えた。






◆◇◆






砂漠の王国【ドゥニウス王国】の城門前には、沢山の人がいた。露店を開く者もいれば、ピエロの格好をした曲芸師がお客を楽しませていた。その中に、茶色い布を体全体を隠すように羽織った男が沢山いる人々を避けながら黙々と歩いていた。露店からの美味しそうな匂いにも、曲芸師の陽気で楽しい曲芸にも、まるで関心がないのか只、一点を見つめて歩いていた。



「あの、すいません。」



そんな男に話しかける者がいた。男が下を見ると、茶色の髪に小麦色の肌、小さな刺繍を施したタンクトップの上から白い服を着ている少年だった。少年はおどおどしながら男を見上げていた。



「し、商業区にはどうしたら行けますか?・・道に迷ってしまって・・・」


男は黙って少年を見つめていた。少年も何も言わない男に困ってしまったのか、辺りをキョロキョロと忙しなく見ていた。


「あ、あのぉ・・」



「・・・・・・・・付いて来い・・・・教えてやる。」



「え!は、はい!有り難うございます!」



また黙々と歩き始めた男の後ろを少年は嬉しそうに付いて行った。所々穴が開いている布の隙間から見える銀色の短剣に少年は気付かなかった。

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