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3 幼馴染と部活と厨二と転校生。②

「う、わ。人すっご」


 それが昇降口を出た朝霧の第一声だった。

 昇降口を出た俺達を待ち受けていたのは、驚くほどの人の数だった。

 人の波とまではいかないが、それでも十分すぎることには変わりない。

 まるで仮装パーティーのように色んな衣装に身を包む生徒達。

 ビラを配って声を出す者もいれば、そのクラブが何をするのか実演してみせる者、長テーブルの上で資料片手にアピールする者など三者三様だ。

 去年経験したことのある俺だけど、改めてその凄さを実感する。ここはこんなにも活気に満ち溢れている。


 茅ヶ崎も朝霧もこの光景に目を丸く――もとい、目を丸くしてるのは朝霧だけで、茅ヶ崎は何か言おうと口を開き、すぐに閉じた。何だ?


「クックック」


 まぶたを閉じ、不適な笑みを浮かべる朝霧。熱気にあてられてついに気でも触れたのか。


有象無象(うぞうむぞう)だが闇の力を蒐集(しゅうしゅう)するにはお(あつら)え向きだな。心の奥底から力が(みなぎ)るようだ」


 そう言って目には見えないものを取り込むように教祖よろしく両手を広げる。


「……かっこいい」

「冗談だろ?」


 何だか頭が痛くなってきた。


「ねえ君可愛いね。新入生でしょ?」


 横を見ると、ナンパの常套句(じょうとうく)みたいなことを言うイケメンに朝霧が絡まれていた。


「その格好何? オカルト研究部にでも入るつもり? いいねえ、いいよ。でも僕のいる映画研究部はもっといいところだからよかったら来てね」

「はぁ……」


 愛想笑いを浮かべながら朝霧がビラを受け取る。それを機にまるでハイエナのように朝霧の周りに生徒が群がる。ここがいいよ。いや私のところが。こっちだって。と。

 あれよあれよという間に朝霧の手にはビラの束。その他にもお菓子の入った袋の数々。


「せせせんぱぁ~い」


 文字通り朝霧が目を回していた。俺に寄り掛かり助けを乞う。

 いい香りがする。じゃなくて、ここはある意味戦場だ。早々に戦線離脱する必要がある。

 ふらつく朝霧と共にこの場からエスケープした俺達は自転車置き場までやってきた。ここまで来ればもう安心だろう。


「うへぇ……」


 二日酔いのあとのようにその場にへたりこむ朝霧。そのままだとスカート汚れるぞ。


「……強引極まりない」


 手にしたビラを見ながら、茅ヶ崎がのっぺりとした表情で物言う。


「ま、確かにな。でもあんなもんだぞ。去年の時のがもっと凄かった覚えあるし」


 茅ヶ崎に倣い俺もわら半紙のビラに目を遣る。色で判別できるだろうに、誰かれなしに平気でビラを渡してくるのは中々に図太い神経をしてると思う。その積極性だけは買ってやってもいいが当然入る気なんざ微塵(みじん)もない。朝霧の件は別だけどな。やむない異例措置ってやつだ。


「でもみんなすっごいクオリティ高い」


 いつの間に復活したのか、座ったままの状態で朝霧がビラを見ていた。確かに漫研でもないのに凝ったイラストが描かれている。こういうの見てると俺もやる気になるね。なるだけだけど。

 鞄からクリアファイルを取り出しビラを一枚づつ丁寧に入れる朝霧。変なとこで律儀だよな、こいつ。


「よし」


 掛け声と同時にすっくと立ち上がると、


「先輩。私達も部活作って早くメンバー集めに励みましょう」


 切り替えが早いというか何というか。


「部活作りって言ってもそんなに生易しいもんじゃないぞ。お前部活作りの工程をしっかり理解してるのか?」

「人数を集めるだけですよね?」

「それ本気で言ってるのか?」

「え? 違うんですか?」


 どんぐり(まなこ)を向ける朝霧。自分の言うことを信じて疑わないといった様子だ。実におめでたい頭の構造をしていやがる。

 呆れて声も出ない俺だが、頭上の辺りをポリポリと掻いてから、


「いいかよく聞け。部活作りといってもいきなり部活が作れるわけじゃない。初めに同好会、次に研究会。それを経てようやく部として認められるんだ。認められるといっても同好会の段階で結果を出さなきゃならんし、そもそもクラブとしての認可が降りなければそれこそ意味がない」


 ふむふむとメモ帳片手にペンを走らせる朝霧と無表情ながらうんうんと首を縦に振る茅ヶ崎。

 そういう真面目に取り組もうという姿勢は正直嫌いじゃない。


「同好会を作るには最低四人の人間を集める必要がある。その次に同好会の顧問、部室を確保したのち、職員会議にかけられようやく発足するに至るんだ。一朝一夕で作れるほど楽な道のりじゃないことだけは確かだな、ってこの辺の説明はさっきもしたか」

「それじゃあやっぱり作れないのかな、漆黒ノ輔翼部」

「作れないことはないだろうが今のままじゃ難しいだろうな。こういう名前のクラブはいくつかあるし、部の内容さえしっかりすれば職員会議くらいなら通せるだろうけど」

「とにかく、あと一人いれば同好会として成立するんですよね」

「まぁ一応な」

「ならあと一人同好会に入ってくれる人を探しましょう! 今すぐに!」

「待った」


 手を前に出し、掣肘(せいちゅう)を加える。


「とりあえず先に工事現場に置き忘れたラノベを取りに行かせてくれ」


誤字脱字、感想等あればお気軽にどうぞ!

次回11月27日に投稿予定。

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