4 復讐の炎に病まれ止まない雨。②
放課後、掃除当番を終えた俺が指定した場所に行くと、とうに雁首を揃えて待っていた。意外とみんな真面目なんだな。
今日は新歓期間二日目。
校舎を隔てた中庭にまでその賑やかな喧騒が聞こえてくる。この蝉騒も今日を過ぎれば学祭までお預けと思うと少し物寂しいものがある。
茅ヶ崎と朝霧がベンチに腰掛け、俺と露乃は立ったまま話をする。面識のないやつもいるだろうからと俺が促し軽い自己紹介が始まる。
俺、朝霧、茅ヶ崎ときて最後に露乃が紹介を終えるや、早速朝霧が露乃に絡みにいった。
「クックック、貴様のその無駄に膨張した胸部には憎悪を孕んだ悪意が潜んでいる!」
「……この子、頭大丈夫?」
中二状態の朝霧を指差しながら、朝霧にも聞こえているだろうに露乃が俺に問いかける。
安心していい。表立った害はないから。それよりも今回は中二病というより個人的な妬み嫉みが前に出ているような……。
「膨張……胸……ああ、そういうこと」
露乃は一人納得すると、何を思ったのか胸の下で腕を組み、その豊満な胸をさらに強調させた。するとなんということでしょう。匠の手とは関係なしに完璧な悩殺スタイルの完成だ。俺の息子にも効果覿面っ。
「あたしのは偽乳なんかじゃなくて完全な純正そのものよ。そんなに気になるんなら触ってみる? あたしは別に気にしないわよ」
「だっ誰がそんな提案なんぞに乗るものか! …………まぁ、そこまで言うのであればちょっとだけ」
触るのか羨ましい。
やおら露乃に近付く朝霧はおっかなびっくり二つの山に触れた。なんとも険しい山と険しい顔した朝霧の対比を見つつ、全然力を入れてなさそうなのに沈みゆく指。
「……」
双丘から手を離し無言のまま自分の胸に触れ項垂れる。自滅してるようにしか思えない。
「……元気出して」
あまりの惨たらしさを見兼ねてか、茅ヶ崎が朝霧の肩にぽんと手を置く。それ以上は止めておけと声を掛けてやるべきか。事ここに至っても優柔不断な俺。
「先輩……」
感動を露にする朝霧だが、ふと目線が下の膨らみに落ちる。そこにあるのも、露乃には多少劣るもののたわわに成長した見事なボイン。
間もなくして、いや間もなくしなくても朝霧がくずおれた。それに伴いカンカンカンと試合終了のゴングが聞こえた気がした。多分俺の幻聴だろうけど。
「私より胸の大きい人間とは話したくない......」
未だに俺の傍らで倒れ込む朝霧がまるで呪詛のように呟いた。
それだと全人類と会話できなくなるがよろしいか?
「ハァ」
誰ともなしに俺は溜め息を吐く。
一年の頃は意味もなく溜め息ばかり吐いていた俺だが最近のは自然と漏れるから困る。疲れてる証拠だ。癒しがほしいぜ全く。
「首なんか押さえてどうしたのよ」
露乃に言われてハッとする。気付かないうちに首に触れていたらしい。うっかり首痛い系主人公の癖が出ちまった。
俺は咳払いを一つ。
「おい朝霧。部活作るんだろ。お前がそんなんでどうする」
「そうだった」とむくり起き上がる。ぞんがい切り替え早いのな。
「部員の頭数は揃ったから次なる問題は顧問だ。誰か顧問を引き受けてくれる人に心当たりはないか?」
「確かここって顧問の掛け持ちはオーケーだったわよね。訊いて回ればどこかしらにはいるんじゃないの」
「いやまぁそうなんだろうけど、教員の多いここでローラー作戦は効率が悪いだろ。あとできれば顧問じゃない先生に頼みたいなって。第二夫人よりも第一夫人的なさ」
「変なとこ拘るわねあんた。それよかその微妙な例えはどーなの」
露乃が目を瞑り考えるも、すぐに結論に思い至ったようだ。
「もういないんじゃない?」
「面倒になったからって適当に返すんじゃないよ。……茅ヶ崎と朝霧はどうだ? 何か心当たりとか、」
「ないですね」「……ない」
即答からの否定。朝霧に至っては食い気味だ。
まぁ茅ヶ崎は転校生だし朝霧は入学して間もないし、露乃は陸上部だったからそんな詳しくないだろうし必然的に俺が答えなければならないようだ。回ってきたお鉢を全力で割りたいけど、言いだしっぺでもあるからここは割り切って考える。
この学校で顧問になってくれそうな先生、先生……あ。
意外とあっさり思い至る。
「俺に心当たりがある。今からその先生のところにいこう」
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次回一週間後くらいの予定。