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4 復讐の炎に病まれ止まない雨。①


 上履きに履き替え昇降口を越えた先の廊下。


 麗らかな春の日差しを浴びながら登校した俺を待ち受けていたのは、例によって中二病の朝霧だった。

 おはようすら言わず開口一番の台詞がこれ。


「クックック。手薬煉(てぐすね)を引いて待っていたぞ、極限零度(インフィニティフラッド)よ」

「……」


 なんか来て早々気が滅入るな。

 黙って横を通り過ぎようとする俺をしかし朝霧が呼び止めた。


「まだ全部言い終えてない」


 なんだかデジャヴを感じさせる展開だ。

 聞く耳持たずの俺は再度すたすたと歩を進め――思いっきり手を握られた。しかも両手で。

 いきなりのことに吃驚するが、なんとか声を押し殺す。


「無視しないでくださいよお」


 無視されるようなことをするな。

 涙声で訴える朝霧に心を打たれたわけじゃないが、俺は溜め息を一つ吐いてから、


「魔力切れで視認することがかなわなかった。(ゆる)せ」


 中二っぽく返してやるも朝霧は無言だ。いくらなんでも棒読みすぎたか?

 俺がそう思っていたのも束の間、俺から手を離した朝霧はお決まりの笑い声を上げるなり流し目をくれた。


「ならば致し方あるまい」


 こいつちょろい。けどめんどくさい。はっきり言って、俺の手に余る。


「つーか、なんで朝っぱらからお前に絡まれなきゃならないんだ」

「昨日いの一番に会いに行くと伝えただろう」


 そういえばそんなことを言ってたような。


「貴様には色々と任せきりだったからな。私も闇の担い手を増やす手立てを幾許(いくばく)熟慮(じゅくりょ)してやった。ありがたくその心に刻むがいい。まず一つ目は、」

「考えてきたとこ悪いけど部員ならもう揃ったぞ」

「……えーーーーっ!?」それがトリガーだったと言わんばかりに素に戻る朝霧。「どうして!? いくらなんでも早すぎますよ!!」

「え? わ、悪い」

「まったく」


 ……あれ? せっかく部員増やしたのになんで俺責められてんの?


「まぁそんなわけで、放課後中庭にでも集まってもらう予定だ」

「分かりました。中庭ですね」


 頷く朝霧はそういえばと真剣な表情を浮かべ、


「私思い出しました。犯人の顔」

「犯人の顔? それって一昨日のやつか?」

「はい」


 まるで推理ものに登場する探偵のように辺りを気にする朝霧は急に小声になると、


「やっぱり目撃者として警察に名乗り出た方がいいですよね。有力情報かもですし、今世間を騒がせてる通り魔だとしたらなおさら」


 殺されそうになった件だけど、犯人はその場から逃走したという設定にしてある。

 しまったな、無駄にディテールに凝らず犯人は捕まったよと素直に言うべきだったか。

 しかし今更訂正できるはずもなく俺の言葉を鵜呑(うの)みにしたままの朝霧は犯人の特徴をあげようとする。

 その間際、ああなんて間の悪さなんだ。昇降口から日下部の野郎が来きやがった。見た感じ元気そうで安心したが、懸念事項はまだ晴れない。運がいいのか悪いのか、日下部はこっちには気付いていないようだ。


「えーと確か、性別は男で高身長」


 合ってる。


「それから長髪、顔は好みじゃないけど整っていて、いかにも女ウケしそうな顔でした」


 ……合ってる。


「服装は黒っぽかったからよく分かりませんでしたけど、でも服の色も相俟ってホストにしか見えませんでしたね」


 …………。

 超速理解する。

 絶対に朝霧を日下部に会わせるわけにはいかない……!


「オッス藤咲ー」


 そう心に誓った矢先、日下部が俺に気付いて名前を呼ぶ。

 その声に反応し振り返ろうとする朝霧の顔を咄嗟に両手で挟み込み固定する。


「っ!?」


 突然のことに硬直する朝霧のことは歯牙にも掛けず、息がかかるくらいに顔を近付けてやる。超至近距離。日下部から見たらちょうどキスしてるように見えるはずだ。

 以下、それを目撃した日下部の反応。


「ふ、藤咲。お前、朝っぱらからなんて大胆なことしやが……いや、俺達はもう高校生だ。きっとプラトニックな愛なんだろうよ。TPOを弁えろとか野暮なことは言わねえ。負け犬の俺はおとなしく去るまでよ」


 案の定うまい具合に勘違いしてくれた。

 日下部が空気の読めるやつでよかった。あとで一昨夜について訊くついでに適当に誤魔化しておこう。それにしてもプラトニックな愛て。

 日下部がいなくなったのを確認してから朝霧から離れる。

 朝霧はなぜか顔を真っ赤にしていた。しかも耳まで。まるでゆでたこのようだ。

 一昨日顔を近付けた時は無反応だったのに、今更カマトトぶってんのか?


 顔を伏せわなわなと身を震わせる朝霧はバッと顔を上げるや俺を指差し、


「噂になったらどう責任とってくれるんですか!」


 そう言い残し勢いよく階段を駆け上がっていく。そんなに急いだらパンツ見えるぞ。まぁ余計なお世話か。

 少し衆目を集めていたようだ。俺はそろそろとこの場から立ち去る。

 日下部について、あれじゃ結局はその場しのぎに過ぎないもんな。早急に何かしらの対策を講じなければ。




 日下部とは空き時間に話をした。


 どうして俺を殺そうとした。

 なぜあんな力を使えたのか。

 その話をする前に昨晩の記憶がないと日下部から自己申告された。

 あいつ(いわ)く飯を食べて風呂に入って以降の記憶が全くないようだ。

 目が覚めたのもベッドの上で、そこで警察から事情聴取を受けたという。

 脳にはこれといった異常は見られず、外傷も額を少し切った以外にはなかったようだ。

 刃物といった証拠になるものも茅ヶ崎が処理してくれたみたいだし、他に明確な証拠もなく話を聞くだけに終わったのはよかった。


 しかし腑に落ちない点もある。

 まさかパンドラの言う通り何者かに操られていたとでもいうのか。図らずも疑問だけが残る形となったことに関してはやはりいかんともしがたい。

 とりあえずこの件は茅ヶ崎とパンドラに改めて報告しておくべきだろう。

誤字脱字、感想等あればお気軽にどうぞ!

次回一週間以内に投稿予定。

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