3 幼馴染と部活と厨二と転校生。⑤
「ふぅ」
パタン、と俺は手にしていたラノベを閉じた。
期待に違わず今回も実にいい出来だった。未だに余韻が残ってるくらいだ。発売日に読めなかったのが何となく悔やまれるが、忘れてた俺にも原因があるから仕方ない。
「さて、風呂にでも入るか」
軽く伸びをし、オサケンを本棚にしまう。
さっき母さんが風呂空いたわよと階下から言っていた。てことは彩葉も先に風呂に入ったのだろう。
風呂に入る準備を済ましドアに向かおうとした矢先、ノックもせずに妹が入ってきた。
「ちょっ、ノックの一つくらいしろよ!」
「なに? エロ本でも読んで自家発言でもしてたわけ? まぁ兄貴にそんなことする甲斐性ないだろうし別にいいよね」
「おいおい」
何勝手に決め付けてんだと言おうとして、止めた。実際そんなことやってる暇があったら一冊でもラノベを紐解いてる方がよっぽど有意義だ。彩葉の言うことも強ち間違ってない。
彩葉も彩葉で「でも兄貴の場合、エロ本じゃなくて官能小説か」とか言ってるし。突っ込むところはそこじゃねえ。
「そんなこと言って正当化してんじゃないよ。んで用件は? まさか本当に俺が変なことしてないか確認しにきたわけじゃないんだろ」
「そんな誰も得しないようなこと私がするわけないじゃん」さもどうでもいいと言わんばかりに鼻を鳴らし「露乃ちゃんとどこ行ってたの?」
「んん?」
訊くと俺が露乃と一緒に行くところを偶々目撃していたらしい。
「別にどこだっていいだろ」
「えー、はぐらかさないでよ。まぁでも私が指摘すぐ行動に踏み切ったのはえらいじゃん」
なぜか褒められた。そしてなぜか満足げな顔をしていた。
つうかアレ指摘だったのか……。あれだけ無尽蔵に主人公についての知識を増やしたってのに、これじゃラノベ主人公ばりに鈍感かもしれない。
「それじゃ本題はこれで終わり。はいこれ、封筒」
そう言って長4サイズの封筒を渡される。
おまけで封筒。封筒が本題じゃないのか。
「ポストに兄貴宛てに入ってたから」と彩葉は言う。
茶色い封筒。裏返してみても差出人の名前はない。
彩葉が部屋を出てから封を切る。中には三つに折り畳まれた手紙が入っていた。
歪みすらない。すごくきっちりしている。これまた随分と律儀な。
手紙を広げると、そこにはやけに達筆な字でこのように書かれていた。
『これ以上パンドラの箱所有者に干渉するのであればお前を殺す』と。
――脅迫状ッ!?
秒速理解し思わず仰け反る。
本物……だよな。パンドラの名前も書いてあるし。脅迫状を貰うのなんて人生で一度もないかと思った。いやーすごい貴重な経験だぞ、これ。なんて感慨に浸ってる場合じゃねえ。殺すって、そんな物騒な言葉そう簡単に使っていいもんじゃないと思うんだけど。受け取る側の気持ちも考えようぜ。まぁ元ラノベ主人公を目指していた俺であればこのくらいどうってこと……あるわ! やっぱりこええよ! 恐怖しか感じないわ!
……よし、見なかったことにしよう。
そう自分に言い聞かせ、封筒に紙を戻して押入れに放り込む。
寝入りばなじゃなくてよかった。危うく反芻して寝付けないところだった。風呂にでも入って綺麗さっぱり流してやることにしよう。
再度風呂場に行く準備を済ました俺は洗面所へと移動した。
昨日怪我したとこ染みなきゃいいけど。そう思い昨日斬り付けられた箇所に触れると、
「……あれ?」
ふとした違和感に気付き鏡を見る。
昨日日下部に斬られたはずの傷が跡形もなく消え去っていた。
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次回一週間以内に投稿予定。