3 幼馴染と部活と厨二と転校生。④
「あと一人、あと一人ねえ……」
帰って荷物を置きベッドに仰向けになってからもずっと俺は頭を悩ませたままだった。
人材に心当たりがないと言えば嘘になるけど、入ってくれるかどうかは全くの別物だ。当然部活にだって入ってるし、そこを無理矢理退部させてまで入れるほどの価値が朝霧の作ろうとするクラブにあるとは思えない。そしてそのクラブ作りのために微力を尽くしあまつさえメンバー集めに奮闘努力する俺はもっとどうかしてる。
なんでこんなことしてんだろ俺と頭を抱えるまではいかないが、よくよく考えてもみるとこの行動がラノベ主人公っぽくて悪くないなと思えてしまう辺り、俺も相当毒されてんだろうな。いや何にとは言わないけどさ。
「うーむ、本当にあいつに頼んでもいいものか……」
独りごちてからハッとする。この流れは……
「俺は幼馴染みに頼みゃいいと思うぜ」
……やっぱり。
仰向けのまま悪魔が浮遊する姿を見る。もう少しで薄い生地が見えそうな気もするが、ここは頬をつねって自粛する。
早いとこ天使も出てこいよと手ぐすねを引くも一向に現われやしない。
上体を起こしどういうことなのか悪魔に尋ねてみると、
「天使のやつならぐーすか寝てんぜ」
「寝てる!? 寝てるってなんだ!?」
「おいおいオーサー。寝てるの意味も分かんねーのか?」
「そういう意味で言ったんじゃない!」
責任者出せと叫びそうになるがそこは理性で抑える。
「そもそもこういう時って天使が出てくるもんだろ。どうして悪魔なんだ」
「あーあー、その発言は悪魔差別だぞオーサー」
「天使と悪魔に差別もあるかよ。そんなことより、いい加減お前らの秘密を――っていねえ!?」
少しでも目を離した瞬間これだよ。
「……」
悪魔のやつ、幼馴染みって言ってたよな。
白い遮光カーテンを引いて隣家の窓に目を遣る。
露乃とは家が隣の幼馴染みだ。
部屋すら二階の、それも隣同士にある。お互い手を伸ばせば物だって受け渡せるくらいの距離だ。
昔は彩葉も交えてよく三人で遊んだもんだ。今じゃ露乃どころか彩葉にも嫌われる始末だからな。俺にだけ本当に当たりがきつすぎる。何が原因でこうなったか未だに分からないから解決のしようもないし。王手飛車取りくらいの詰みっぷりだ。できることならあの頃に戻りたい。確か高校に上がる前までは普通に話してた覚えがある。話さなくなったのは同じクラスになれなくて俺がラノベ主人公的な行動を取り始めてからで……まさか、な。
そうさ、そうだよ。それこそ俺の思い違いに決まってる。そう結論付け、俺は自宅を出て幼馴染みの家の前。
悪魔に言われなくたって元々露乃を誘うつもりでいたんだ。
もっとも陸上で結果を残しそれなりの地位を確立してるみたいだから誘うだけ無駄かもしれないが、言うだけ無料なんだから誘わない手はない。それでもし断られてもそれはそれで仕方ないと納得もできる。
いつまでも家の前にいたんじゃストーカーに間違えられそうだし、いい加減呼び鈴を鳴らそうとインターホンに手を伸ばすも、右手首を逆の手で掴み思い止まった。
くそっ、久しぶりすぎて押すに押せねえ。完全に日和っちまってるな。あるいは朝霧のようなリアル中二病か。てことはあいつに感化されちまったってか。ははっ。
「――こんなとこで何してんの」
「ひょおおっ!」
背後から声を掛けられ盛大に驚いた。
猛烈に思考を働かせていたせいか、話し掛けられるまで全く気が付かなかった。
「代わり映えしないわね、あんたのそのオーバーな反応」
聞き覚えのありすぎる声。
振り返るまでもない。露乃だ。
「よ、よお。学校でも会ったな露乃」俺は露乃に背を向けたまま「そういえばお前に話があぐっ」
首根っこを掴まれ強引に振り向かされる。痛いです露乃さん。
「何格好つけてんのか知らないけど、人と話す時は相手の目を見て話すって教わらなかった?」
「す、すみません」
軽く溜め息を吐いてから、俺から半歩ほど距離と取る。
目だけは合わせてもらえたが、まともな会話をするのは一年振りくらいだろうな。
――俺の幼馴染みである姫宮露乃。
目鼻立ちの整った顔。少しつり目でツインテールなのがマッチして非常によろしい。俺個人としてはだけどね。
女子の中じゃ高身長で出るとこの出たモデル体型。特に胸が大きい。見た目だけで言えば茅ヶ崎以上だ。朝霧は……まぁ、うん。頑張れ。手遅れじゃないといいな。
容姿としては申し分なく美人の部類に入るだろう。俺の場合子供の頃からずっと一緒にいたからあまり実感はないけども。
さて、仕切り直しだ。
「話があるんだ」
「二回目ともなると締まらないわねえ……」
風でなびく髪を撫で付ける露乃は真顔で面と向かって言う俺の横を過ぎ去り、すたすたと家の中に入ろうとする。
……無視か。
大方こうなるだろうと予想してはいたけど、実際にやられると正直堪える。現実と二次元は表裏一体だと思っていたのは俺の妄想――
「着替えてくるから、ちょっとそこで待ってなさい」
「え……?」
「なに、また難聴?」
「あ、いや……違うけど」
「はぁ、待っててって言ったの。待つ。ウェイト。オーケー?」
「あ、ああ」
俺が頷くのを見て取ると、すいと家の中に入っていく露乃。
これは……予想外の展開だ。
話に付き合ってもらえるどころか下手すれば一蹴されると思ってたからな。そんな心持で訊くなよって話だが。
露乃に言われた通りおとなしく待つこと十分、露乃が私服姿で出てきた。
身体のラインがくっきりと出るような淡いブルーのワンピースだ。あまり目立たないようで目立つ。そんな感じ。
「場所を移しましょ」口を開くやいなや露乃がそう提案してきた。「まさかあたしの部屋に入れると思ったわけじゃないわよね?」
「いいや」と否定。
むしろ俺の部屋に踏み込まれなかっただけマシだと考えてるくらいだ。
それ以上会話を交えることもなく露乃の先導で俺達は近場のカフェにまで移動した。
内装もオシャレで雰囲気のいい店だが、いかんせん値が張るため俺自身あまり足を運んだことはない。
窓側の奥の席に通され向き合いながら座る。
席に着いてすぐ露乃はランチセットを頼んだ。そういえばこいつは昔からよく食うやつだった。俺は一番安いコーヒーを頼む。
割りとすぐに注文した品が運ばれてきた。若いウェイトレスが慣れた手付きで俺達の前へと並べていく。
「ごゆっくり」と店員が言い終える前に露乃が料理に手をつけ始める。
新歓期間中でも部活動は行われる。ひょっとしたら露乃は勧誘には参加せず少し前まで部活動に励んでいたのかもしれない。
苦いやつが好きなのでシュガースティックを脇に置き、カップに口を付ける。淹れたて且つこの苦味、やはり嗜好だ。
俺はカップを受け皿に置くと、
「露乃はこの一年間元気にしてたか?」
「至極どうでもいいこと訊いてくるのね」
間髪を容れず露乃が言葉に棘を纏わせ言う。
「今ここにいるあたしがピンピンしてんだから元気に決まってんでしょ」
ごもっともで。
露乃は注がれていたオレンジジュースを一口で飲み干すと、
「……もう去年みたいな真似はしてないの?」
「去年って?」
「去年は去年よ。陽色がラノベ主人公になるとか言い出した時」
あー……そのことか。
俺は考えようとし、しかしすぐさま考えるまでもないことに気付き口を開いた。
「とっくに止めたよ、そんなの。正確にはなれないと思って諦めた。これからは普通路線でいくさ」
「……そ」
俺の言葉に逡巡するような表情を見せる露乃。けぶるような睫毛に縁取られた瞼を閉ざしフッと息を吐くと、
「なら、許したげる。今までのこと。あんたは変なことせず素でいるのが一番よ」
許す、というとやはり怒っていたのはラノベ主人公の真似をしていたことか。つまり俺の思い違いじゃなかったわけだ。一瞬そのことを思案したのにそのまま流しちまったからな。
しかしこれで露乃との蟠りも解けた。この調子で彩葉とも仲直りできるといいけど。
俺は軽快に箸を動かす露乃を見ながら、
「露乃ってさ、美人になったよな」
「……いきなりなに?」
箸を止め、死んだ祖父が突然目の前に現れた時のような反応を示された。
「いや率直に思ったことを口にしたまでだよ。俺には不釣合いなほど美人だ。それに同性とも仲良くやってるようだし俺とは違って立派なリア充じゃないか」
「なに? 何企んでんの? 今更褒めたところで何も出やしないわよ?」
怪訝な顔。そこはいちいち突っ込まず純粋に受け取ってくれよ。
「それにその髪型、ツインテール。露乃にすげえ似合ってる」
「――っ!」
今までまともな反応の一つも見せなかった露乃に戸惑いの色が見える。俺からわざとらしく視線を外し「それはくるわね」と独りごつ。
くる、というのは頭にくるという意味だろうか。それともカチンとくるの方か。
俺がこれじゃ同じ意味かなどとどうでもいいことを考えていると、
「そろそろ本題に入ってもらってもいい?」
「ああ、ええと……俺が新しく作るクラブに入ってほしいんだ」
「新しく作るクラブ?」
露乃が素っ頓狂な声を上げる。
「なんでまた部活なんて作ろうと思ったのよ」
「それはほら、俺にも止むに止まれぬ事情があるんだ」
「まぁ別に入ってもいいけどね」
「自分でも無理なことを言ってるのは分かってる。だけどどうしてもお前の力を借りたいんだ。露乃が入ってくれるなら、ってええーっ!?」
「驚くのが三テンポほど遅いわよあんた」
「いやいやだってよ、露乃陸上部だろ? 本当に入ってくれるのか?」
「お願いしてきた本人がそれ訊くのおかしくない? ……まぁ、あそこに言うほど思い入れもないし、いい機会だからいっそ止めるわよ」
「いい機会って……」
正気かという言葉をグッと呑み込み、露乃の気が変わらないうちに食い下がるのを止めよう。そう思ったが――止めた。気が変わった。俺はここ最近の露乃の一挙手一投足を思い出しながら一つの結論に辿り着く。
「最近何かあったのか?」
「何よ藪から棒に」
「いや、露乃が気落ちしてるみたいだったから」
呆気にとられた顔。まさか俺の口からそんな言葉が聞けるとは思いもしなかったようだ。
とつおいつする露乃は少し間を置いてから、
「そんな大したことじゃないわよ。ただ少し走ることに限界を感じただけ。それだけのことよ……」
露乃の顔に哀愁の影が差す。
俺が何と声を掛けるべきか悩んでいたのも束の間、露乃はしんみりとした空気を吹き飛ばすように嫣然と笑う。
「まぁあたしのことなんてこの際脇にでも置いとけばいいわ。それよりもあんた、どんな部活を作るつもりなの?」
「漆黒ノ輔翼部」
「……なんて?」
珍しく露乃が難聴だ。
「いやだから漆黒ノ輔翼部」
「だからの意味が不明瞭なんだけど、それはあたしの理解力が乏しいからかしら」
「違うと思うぞ。多分十人中十人が似たような反応する。とりあえず何をするところなのか説明すると、この学校に仇なす悪を片っ端から根絶やしにするのを目的としたクラブ、平たく言えば悪人退治」
「つまり正義ごっこってこと?」
「強ち間違ってないな」
俺の言葉に露乃が難しい顔を浮かべる。そんなに難しいことじゃない。むしろ考えるまでもない。
「それって風紀委員や生徒会で事足りるんじゃないの?」
どうやら心理に辿り着いてしまったようだ。
「その風紀委員や生徒会の目の届かないところとか……ってのは苦しいか、流石に」
「百歩譲って悪を懲らしめるのは許容できるにしても、漆黒ノ輔翼部って名前はなんか変。成敗する側なんだからもっとこうピカピカした名前のがいいんじゃないの」
「いやまぁそうなんだろうけど」
ライトノベルに登場する部活とは口が裂けても言えないよなあ。
「大方、誰かに部活作りを頼まれてそれを引き受けたとかそんなところでしょ」
流石は俺の幼馴染みだ。平然と心を読んでくる。もちろん俺にそんな能力はない。
コンコン。と窓ガラスを叩く音。
その音につられ横を見ると、窓ガラスの向こう側には一人の女性が立っていた。綺麗な人。うちの制服を着ている。リボンの色は青。上級生か。
「桐生部長!」
露乃が驚いた声を上げる。
「私も同席しても構わないかしら」
「あ、はい。陽色も別にいいわよね?」
「ああ」
頷くと柔和な笑みをこちらに向ける先輩。店内に入り店員に断りを入れてから俺達の元へとやって来る。露乃が窓際にずれ空いたスペースにゆっくりと腰を下ろす。
「ごめんなさい。声を掛けようか悩んだのだけれど、どうしても話したいことがあったから声を掛けさせてもらったわ」
チラリ俺を見遣る先輩はすぐに露乃に視線を戻す。
「もしかしてお邪魔だったかしら?」
「お邪魔? ……あー」
何かに気が付いたのか露乃が肩を竦める仕草を取る。
「いいえ全然。こいつとは家が隣の幼馴染みってだけなので」
明確な否定。だがそれでいい。
昔からよくつるんでいたせいか、こういう勘繰りは小中から幾度となくあった。だからその手のあしらい方には慣れっこだ。俺も、露乃も。
「あらそうなの。なら少し無粋だったわね」
にこやかに笑う先輩は近くの店員を呼び止めるとエスプレッソを一つ注文する。
「さて、と。自己紹介がまだだったわね」
木製のカフェテーブルの上で手を組み、
「私は三年の桐生朱里。女子陸上部の部長を務めているわ」
「これはどうもご丁寧に。二年の藤咲陽色です。僭越ながら帰宅部の部長やってます」
「あんたねえ。その紹介の仕方はどーなの」
「え、駄目か? ……駄目か」
よくよく考えなくても受け取り方次第ではふざけてるように思われるかもしれない。
胡乱な視線を送る露乃を無視して桐生先輩を見ると、
「うふふっ。藤咲君って中々に面白い冗談を言うのね」
案の定笑われた。
実はそれ冗談じゃないんですよ。とはわざわざ口に出したりはしない。なんか掴みはいいみたいだしこれはこれでいいや。
「それで部長、あたしに話したいことというのは?」
いつの間にか料理を全て平らげていた露乃が切り出す。
その間エスプレッソを持ってきた店員が空いた皿を下げる。
「あー、俺帰りましょうか?」
気を利かせて提案するも、桐生先輩が首を横に振る。
「あなたもここにいて大丈夫よ。大した話じゃないというと語弊があるけれど、むしろお邪魔しているのは私の方だから」
それなら、と俺は上げかけていた腰を下ろす。
先輩達が喋りだす。
「露乃ちゃん……今日部活早退したって本当?」
「……はい、本当です」
「体調不良って聞いたけど、身体はもう大丈夫なの?」
「ええ、一応は。ご迷惑お掛けしてすみません」
「迷惑じゃなくて心配してるのよ。最近の露乃ちゃん目に見えて元気がなかったから。それが関係してるのかなって、言わばお節介みたいなもの。部員を心配するのも部長の務め。でもそれとは別にあなたには元気になってもらいたいの。私でよかったら何でも相談して」
「桐生部長……」
露乃がギュッと下唇を噛む。
先輩の言葉に思うところがあったようだ。
僅かな間が空き、露乃が意を決したように桜色の唇を開く。
「誠に勝手ながら今日をもって女子陸上部を辞めてさせてください」
突然の申し出に先輩が目を皿のようにする。
何か言おうと口を開き、すぐに閉じて考え込む。
「……本気で言っているの?」
「本気です」
間髪を容れず露乃が言葉を紡ぐ。
露乃の瞳は真剣そのものだった。真摯な訴え。それを見取りいつまでも遅疑逡巡では駄目だと悟った先輩の口が笑みに滲む。
「分かったわ。あなたがそこまで言うのだからよほどのことなのでしょうね」
傍目に緊張の糸が切れるのが分かった。俺は路傍の石以上に空気だけども。
「露乃ちゃんほどの有望な人材はあまりいないから本当は手放すのが惜しいんだけどね。前に話した通り時期部長の道を歩んでほしかったから」
「そんな器じゃないですよ、あたしは」
「……時期部長?」
最後まで口を挟まないつもりでいたが、思い掛けない一言に思わず横槍を入れる。
「露乃。お前、次の部長候補だったのか」
「そうだけど、あくまでも候補よ候補。あたしは部長になる気なんて初めからなかったし」
そこは嘘でもなるって言っとけよ。
「気にしなくても大丈夫よ。私は露乃ちゃんのそういうサバサバとしたところ好きだから」
本当に気にしていない様子の先輩。しかし不意に窓の外を眺めると、
「でも実力があるだけに残念かな、やっぱり」
実力……。
先ほど露乃は、俺に走ることに限界を感じたと言っていた。それに時期部長、ひょっとして露乃はまだ何か隠してることがあるんじゃないのか?
とそこで何かを思い出したのか先輩が上ずった声を上げる。
「そういえば来る途中にこんなものを拾ったのだけれど」
先輩が通学鞄から取り出した物、それは濃緑色の袋だった。既視感。凄く見覚えがある。
「少し見せてもらってもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
手渡された袋をマジマジと見つめ、おっかなびっくり袋を開けると出てきたのはブックカバーに丈夫そうな栞付き。
確信する。昨日俺がなくしたライトノベルだ。
しかし果たして口にしていいものか。これ俺が昨日なくしたラノベなんすよー返してもらっていいすかー? なんて言おうものなら、漏れなく露乃から侮蔑の眼差しを向けられることだろう。下手したらグーパンが飛んでくるかもしれない。極め付きは部活入るの辞めるわとか。露乃のことだから有り得そうだ。止めたと言った矢先にこれだからな。だからって言わない手はない。買い直すのも無駄な出費でしかないからな。
「一体どうすりゃいいんだ。やっぱり言った方、が……」
そこまで言って口を押さえる。しまった。うっかりしていた。
そう思った時にはもう遅かった。天使と悪魔が目の前にポンッと出現する。まるで魔法のように。そういや初めて見たな。出る瞬間なんて。
「お困りのご様子ですねオーサー。差し出がましいのは承知の上ですが私なら言わないです。本当のことを隠すのは心苦しいですが時にはついていい嘘というのもあるのです」
「ようオーサー。言って楽になるべきだぜ、こういう時はな。そいで正直に白状したってことで大概は許してもらえるはずだ。大体はそう相場が決まってる」
ご多分に漏れず正反対の助言をくれるこの世ならざる者達。
天使のはわりと筋が通ってるけど悪魔は曖昧すぎるだろ。
なんて思うのは正直二の次だ。俺はそーっと顔色を窺うが、露乃達は俺に目を向けたままだ。
「どうかしたの?」
先輩が首を傾げる。どうかしたといえばどうかしたんだろうけど。
「陽色、あんた急にぶつくさ言って気持ち悪いわよ」
「あ、ああ。ごめん」
……見えてない? 露乃や先輩には悪魔と天使は見えないのか?
つまり茅ヶ崎の持つパンドラの箱と同じか。力のある人間でなければ視認するのもままならない。俺の勝手な想像だけども。
それとは別にまずはこの問題をどうにかすべきだ。ついていい嘘。確かにこの世にはそういううまい立ち回り方もあるだろうがそれは俺の性分じゃない。別に悪魔に賛同するってわけじゃないが、言ってやる。今決めた。
「先輩、このラノベ実は俺のなんです。昨日商店街に行く通りの辺りでなくしてしまったようで。このまま俺が引き取っても大丈夫ですか?」
「あらそうだったの。実は私もその辺りで見つけたからあとで交番にでも届けようと思っていたの。これはすごい偶然ね。藤咲君が持ち主というのなら私は信じるわ」
「どうもありがとうございます」
「え、陽色。あんたまだラノベなんて読んでたの?」
思った通り露乃が反応してきた。まだ噛み付くには至ってないがいつ変貌するか分かったもんじゃない。
俺がどう説得するべきか言葉を組み立てていると露乃が、
「……ま、読むくらいなら大して気にしないけどね。でも絶対に変なことしないでよ。したらすぐ絶交するから。えんがちょよ、えんがちょ」
「わ、分かった」
俺に人差し指をむけ一息に述べる露乃に圧倒され、首振り人形のように首をぶんぶん振る俺をマザーテレサのような面持ちで見守る先輩。
……まぁ何にしても、問題は全て解決したってことでいいよな? いいよね。
雑談もそこそこに店から出ることにした俺達。
露乃と先輩はまだ話すことがあるらしく、先に帰るように言われた。多分部活の件だろう。露乃達に別れを告げやおら家路を目指す。少しして、何気なく空を見上げた。雲一つない綺麗な夕焼け空。
何だか今日は久しぶりに清々しかった。
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次回一週間以内の予定。