少年は、夕立で。
少年は、今すぐにでも逃げ出したかった。
少年は、歩いていた。ザーザーと降る雨に、全身うたれながら。
少年は、びちょぬれだった。せっかくの制服も、朝とかした髪も。
少年は、暗かった。いつもなら明るい空が、今日は暗いように。
少年は、下を向いていた。なにか無気力で、それでもなにか探しているようで。
少年は、悩んでいた。頭の中がぐちゃぐちゃで、考えようにも考えられなくて。
少年は、思い返していた。勇気を振り絞って言った、あの言葉を。
少年は、振られていた。返ってきた彼女の言葉が、そういう意味をしていて。
少年は、傷ついていた。ずっと好きだったのに、付き合いたかったのに。
少年は、泣いていた。現実がそうだということに、現実を受け入れられないことに。
少年は、座っていた。家には帰りたくなくて、公園のベンチに。
少年は、呆然としていた。まだ気持ちが落ち着かなくて、まだ受け入れられなくて。
少年は、雨にうたれてなかった。頭の上に、傘があったから。
少年は、前を向いた。幼い少女が、傘を差し出していて。
少年は、心が軽くなった。「お兄ちゃん、風引いちゃうよ」なんて、微笑む少女の言葉で。
少年も、微笑んだ。さっきまで悩んでたことがいっきにふっとんだようで、なにか励まされたようで。
少年は、言う。「ありがとう」と、お礼の言葉を。
少年は、気がついた。雨は止み、夕焼けが広がっていたことを。
少年は、手を振った。少女が手を振ったから、少女が帰ったから。
少年は、立ち上がった。
そして、帰った。
帰るべき家が待っているから、帰りたい家が待っているから。
もう、途中で座ったりはしない。
もう一度、一人で歩いていけるから。
少年は、公園に影を残して、消えた。