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賞金稼ぎは子守唄を歌う act9

※今回はネクロ視点のお話となります。

食事を済ませた後、オレとジンそしてエスカリーテは宿屋の部屋へ戻ってきた。ジンは部屋につくなり「はーやれやれ」と面倒くさそうにあくびをし、その場で服を脱ぎだした。当然オレの隣にいたエスカリーテはキャーッという悲鳴を上げて後ろを向く。


「い、いきなり目の前で脱がないでっ!」

「あ? あぁ悪ィな。いい加減着替えたいもんで」


そういう間にも、ジンが服を脱ぎだす手はとまらない。確かに昨日から服は着たきりだったな。昨夜は疲労でそれどころではなかったし当然といえば当然か。とはいえ突如少女の前で服を脱ぎだしたこの男の変態性を否定する理由にはならないが。オレがため息をついていると、とうとう耐え切れなくなったのかエスカリーテが顔を真っ赤にさせながら部屋の扉に手をかける。


「わっ、わたし下で待ってるから終わったら声かけて!」


極力ジンのほうを見ずにそう告げたエスカリーテは、足音荒く階下へと姿を消していった。バタバタと小さな足音が消えていくのを聞いていると着替えを済ませたらしいジンが自分の寝ていたベッドに腰をかけた。


「―――で、話っつーのはなんだ? あの嬢ちゃんに聞かれたくない話なんだろう?」

「お前もう少しスマートに誘導できないのか?」


そういうことだろうと思っていたが、この男のやり方はいちいち雑だ。呆れつつも懐に手を入れたオレは、ジンに新聞記事を投げ渡した。


「おー今日の朝刊か。うへぇやっぱり昨日の事載ってらぁ」


顔を思い切り顰めたジンは、ぼさぼさの赤頭をガリガリ掻きながら記事を読み始める。そこに記載されている記事は、この宿屋の近くにある酒屋の裏で子供が惨殺されたというものだ。ここ最近、界隈を騒がせているあの連続猟奇殺人と同じ手口で犯人は一緒だと思っていいだろう。


「なるほどね。昨日のあのナタ野郎が賞金首ってことか」

「あぁ」


昨日あの男とやり合った時点でオレはほぼ確信していた。ジンのほうはどうか分からないがこの男も腐っても賞金稼ぎだ、あのナタ男がただものではないことくらい感じていただろう。

記事を一通り読み終えたジンは珍しく真面目な顔をさせて腕を組む。この男と組んでだいぶ経つが、こういう顔をする時は仕事の時だけだ。ジンは腰のホルスターに提げてあった自分の銃を取り出してそれを壁に向かって構えた。


「あの野郎、あん時実力の半分も出してやがらなかった。呆れちまうぜ、こっちがマジで向かってるっつーのに『遊んで』やがったんだぜ? <竜骸>憑きっつーのはあんなイカレた奴ばっかりなのか?」

「さぁな。なにせ今まで<竜骸>憑きの知り合いがしなかったもんでな、お前と違って」


冷めた口調でそう言ってやれば、ジンはうっと呻いて構えていた銃を取り落とす。この男の女癖の悪さは札付きだが、そのせいで昨夜のようなことがまたあるのかと思うとうんざりする。ナタ男の一件がなければそのことについてもっと言及したいところだが。やはり手をつけるのは死体が一番いい。


「と、とにかく、だ。あの女のことは俺のほうでなんとかするから心配すんな。ところでお前、面白いもの見つけたとか何とか言ってなかったか?」

「(嘘つけ)あぁ、そうだ。コレだ」


オレは上着のポケットから、それを取り出してジンの前にかざして見せた。


「これは……」

「娼館の帰りに、あのナタ男の手がかりはないかと廃小屋を漁ってみたら出てきた」


鈍い銀色の光を放つそれは、あのナタ男が首から提げていたロケット式のペンダントだ。手のひらの半分ほどの大きさのそれは、戦いのさなかどこかへ飛んでいってしまったようだが、偶然見つけることができた。賞金首の遺留品は大きな手がかりになることが多く有用だが、問題はこの中身にある。


「開けてみろ」

「はぁ?」

「いいから開けてみろ」


ペンダントは小さな留め金を外すと中が見れる仕組みになっている、ごくありふれたものだ。ジンは「んだよ……」と面倒くさそうに呟きつつも中身を見た。そして、今朝方オレがその中身を発見した時と同じような顔つきになる。


「これ……!」

「面白いだろう」

「面白い―――っつか、なんで嬢ちゃんの名前があんだ……?」


珍しく慌てたような顔をさせてオレに詰め寄るジン。そんなことオレに聞かれても分からないが、ペンダントの中身は写真がはめ込まれており、そこには髪の長い女と赤ん坊が写っていた。そして、写真の上には小さな文字で「エスカリーテ」という文字が刻まれている。


「どうしてあのナタ男がこんな写真を後生大事に持っていたかは知らんが、エスカリーテとあの男がどこかしらで繋がっている可能性は高い」

「名前だけで判断すんのは早くねぇか…………って言ってやりたいところだが、あのナタ男、嬢ちゃんを殺さずに逃げてったからなァ。なるほどね、だからお前嬢ちゃんの前で話しなかったわけか」

「殺人鬼と知り合いかもしれない、なんて知ったら面倒だろう」


あの少女が同じ年頃の娘と比べて大人びているとはいえ、わざわざこのような事態を知らせるまでもないだろう。知ったとしても、オレたちは変わらずにこの賞金首を捕らえるだけだ。だったら知らなくていいことは伏せておいたほうが都合がよい。


「うーむ……面倒だなんだ言ってたけどよ、やっぱり嬢ちゃんは村に帰してやるべきだな」


はぁ、と大きなため息をつきながらジンはオレにさきほどのペンダントを投げて寄越す。


「ナタ野郎が嬢ちゃんを狙うとは考えられねーけど、また昨日みたいに巻き込まれないとも限らないしな。面倒くせぇが仕事は嬢ちゃんを村に送った後にするわ」

「ふむ。ならば多少出費がかさむが馬車で移動しよう。といっても途中までしか走らないだろうから、その先は徒歩か。食料なんかも必要になるだろうな」


オレがそうやって必要なものと金額の計算をしだすと、ジンはきょとんとした顔をさせてオレの顔をまじまじと見つめた。


「なんだ、お前もついて来るのか? 俺はてっきり『じゃあオレはあの男の動向でも探っておいて、隙あらば捕獲する』みたいなこと言い出すんだとばかり思ってたが」


オレの真似をしているのか、ジンは眉間に皺を寄せ低い声でそう語る。オレはそんなに不細工な面をしていない、と思わず突っ込みそうになったがここで突っ込んだら更に不細工な顔をさせてキーキー怒鳴り散らすに違いない。あくまで無反応を装いつつ、オレは腰に手を当てた。


「貸し借りはしない主義だからな。彼女は命の恩人だ」

「ほぉ~~~~。お前からそんなセリフが出てくるとはねぇ。とても死体愛好家とは思えないお言葉だぜ」

「オレは元々常識人だ」

「どこがだよ! 非常識が服着て歩いてるクセに!」

「うるさい、黙れ。というか、そういうお前だって今までさんざん彼女を邪魔扱いしていたくせに、さきほどはとても仲良くしていたじゃないか。おかずまで交換しあって」

「うぉ、見てやがったのかアレを!!」


いつまでも意味のない応酬が続きそうだったので、とっさにジンが反応しそうな話題に切り替えるオレ。すると、ベッドから転がり落ちそうな勢いでずっこけたジンは、これまた珍しく顔を赤くして口を尖らせた。


「アレはー、そのー、そう、俺って故郷にたくさん弟と妹がいてよ! どうしても構いたくなるっつーか、な?」

「別に恥ずかしがることもあるまい。見ていて面白かったしな」

「てめっ……俺様をダシにからかおうなんざ、いい度胸じゃねーか!」


耳まで真っ赤にさせたジンがオレの胸倉を掴んでぴーぴー喚き散らす。この男、面倒くさがりの飽き性だが一度自分の懐に入れたものに対してはどうしても甘くなってしまう傾向にあるようだ。エスカリーテがあのナタ男に殺されそうになった際もわが身のことのように焦っていたしな。


さっきの話などすっかり忘れてギャーギャー騒ぎ立てるジンに流石に飽きてきた頃、部屋に戻ってきたエスカリーテが入ってきて冷めた目をさせながら「……何しているの?」と聞かれたことはまた別の話だ。

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