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賞金稼ぎは子守唄を歌う act14

「え―――」


突然、鼓膜が破れちゃうんじゃないかってくらいの轟音が響いた。

それと同時に、お腹のあたりにぬるりとした感触が。わけが分からず手をお腹に当てると、そこにはドロリとした赤いものがついていたわ。そして、わたしが必死になって抱きしめていたパパの体が急に傾く。


「パパ……!?」

「何時まで安い三文芝居を続ける気だ、このバカ親子め!!」


苛立った声がわたしの背後から響き渡る。そこには煙の上がる銃を構えたおじさんが、ものすごい形相で立っていたわ。


「お前を食わせれば少しは大人しくなると思えば……! もうよい、バケモノにもヒトにもなりきれぬお前などに、もう用は無い!!」


カチッと銃を鳴らして次の弾を撃とうとするおじさん。わたしは無意識にパパを庇うように前に出るけれど、それよりも先に槍を構えたネクロがおじさんめがけて襲い掛かったわ。


「外道め……!」

「口が過ぎるぞ、賞金稼ぎ風情めがぁああ!」


完全に目が据わっているおじさんは、ネクロめがけて何発も銃を発砲したわ。さすがのネクロも至近距離で何度も撃たれてしまっては避けきれないみたいで、そのうちの一発が彼の肩を掠めていったわ。


「ネクロ―――!」

「クソ……ッ!」

「殺せ! 殺せぇえええ! この場にいる者、すべて血祭りにあげろォオオ!!」


狂ったようにそう叫ぶおじさんの声に反応したのか、ネクロが倒したハズの兵士たちがビクンと震えながら立ち上がる。傷ついているはずなのに、兵士たちは物凄いスピードでネクロに、そして、パパが撃たれたお腹めがけてその武器を振り下ろしはじめた!


「やめて!!」


パパを庇おうと必死になって兵士にすがりつくも、一瞬のうちに弾き飛ばされてしまった。そして、目を覆いたくなるような光景がそこに広がっていく。無抵抗なパパを串刺しにする鎧たちの姿が映っていたから。


「パパ……! パパ……!!」

「ッハハハハ! いくらバケモノでもそこまで傷を負えばもう死ぬしかあるまい!! いい気味だ、この私を愚弄した罪、身をもって知るがいい!!」


血走った目をさせながら、次々と銃弾をところかまわず撃ちまくるおじさん。その姿はもう街を治めるえらい貴族には到底見えなかった。ただの凶悪な殺人鬼。狂った人間の成れの果てよ。


「よくも……よくもパパをこんな目に遭わせたわね! 絶対に許さないわ…………!」


そう叫んだわたしは、鎧兵士たちの間を縫っておじさんの足にしがみついた。おじさんは鬱陶しそうにわたしを払いのけようとしたけれど、絶対に離れてやらなかった。するとおじさんは、わたしの額に銃口を当ててニヤリとゆがんだ笑みを浮かべてみせたわ。


「どう許さないと言うんだね、お譲ちゃん!! まぁいい、お前から先にママに遭わせてやろう…………!」

「エスカリーテ!」

「私は、完全なバケモノを使って国を強くする……! もう誰にも奪わせぬぞ―――私は、私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は」


悲鳴にも似たネクロの声が聞こえてきたけれど、彼のほうを向いている余裕は無かった。おじさんは狂ったように何かを呟き、ゆっくりとその引き金を――――――


「死ね、このブタ野郎!」


聞きなれた声が聞こえたかと思えば、いびつな笑みを浮かべたままのおじさんがグラリと傾く。額のど真ん中を打ち抜かれたみたいで、彼はそのままドサリと地面を転がった。あんなにもバケモノを作り出すことに執着していたはずなのに、彼はあっけなく、死んでしまった。見開かれたままの目は何かをわたしに訴えかけてきたけれど……それが何なのかは、わたしには分からなかった。


「遅すぎるぞ、ジン!」


怒ったネクロの声が響き渡るけれど、彼―――ジンはヘヘッと悪びれのない笑みを浮かべて頭を掻いたわ。


「悪ィ! 借りは返すから勘弁してやってくれ!!」

「ジン……! パパを、パパを助けて!!」

「パパ? …………あぁ、なるほどやっぱりそういうことか。任せろ!」


わたしがそう訴えると、何も事情を知らないハズのジンが大きく頷いてパパのもとに向かっていった。でもジン、ケガをしているのよね……? ふと彼の走った場所を見れば、どす黒い液体が点々とこびりついていた。ここまで来るのも大変だったでしょうに、ジンは何でもない顔をさせていた。


「オラッ、てめぇらのご主人はくたばったんだから、大人しくしてろ!! ネクロも、遊んでねぇでさっさと片付けろってんだ!!」

「抜かせ。遅れたヤツにそこまで言われる筋合いはない」


チッと舌打ちをしたネクロは、手に持った槍を振り下ろして勢いそのままに鎧兵士の喉元を貫いた! 血は流れなかったけれど、それでようやく動きが止まる鎧兵士のひとり。


「どうやら弱点は喉らしいな」

「だな。そうと分かりゃあさっさとやっちまうぞ!」


そう叫んだ二人は、次々に鎧兵士たちの喉元めがけて銃や槍を繰り出した。二人ともケガをしてるっていうのがウソみたいな動きだわ。すごい、と思わず感心しちゃうけれど、今はパパを助けるのが先決だわ! 

わたし足にケガをしているのも忘れてパパのもとへ走っていった。まわりにいた鎧兵士たちは、ジン達の手により今度こそ動かなくなって、ジュウウと音を立てて地面に溶けるように消えていってしまった。


「パパ……!」

「ア、……」


剣や槍の刺さった大きな体からはとめどなく血が溢れていて、わたしがそっとその体に触れると、パパは小さな声を漏らしながらわたしを見上げたわ。


「そうか……やっぱあのペンダントの写真の赤ん坊はエスカだったのか」

「そうみたいだな。哀れな男だ。このような姿に変えられ、もはや人の身にも戻れまい」


パパを必死に抱きしめるわたしの横に立ったネクロは、愛用している槍を構えてパパを見下ろした。


「ネクロ、何をするつもり!?」

「この男が理性を保っている今のうちにとどめを刺す」

「お、おいネクロ!」

「ならばお前はこの男を元に戻す方法を知っているのか。見ろ」

「ウ、ウゥ…………」


冷たいアイスブルーの瞳が見つめる先には、うなり声を上げて頭を抱えだしたパパの姿があった。心配になったわたしがもう一度その体を抱きしめようとすれば、パパはわたしを押しのけてうなり声を上げ始める。苦しいのかしら……ナタの生えた腕をかばうように震えているわ。


「ここで殺さねば、この男はまた人間を襲い続けるぞ」

「まぁな……だがよ、それを決めるのは俺らじゃねぇだろう」


ネクロの槍を持った腕を掴んだジンは、そのままの体勢のままわたしに振り返った。


「エスカ。お前はどうしたい」

「わた……し?」

「そうだ。ここでコイツを殺して楽にしてやるか。それとも見逃すか」

「おい、子供にそんなことを決めさせるのか」

「……………………」


とがめるようなネクロの声が聞こえたけれど、わたしは真っ直ぐにパパのほうへと視線を向けた。たくさんの武器に貫かれてもまだ生きているのだから、ここでとどめを刺さなかったらきっと元通りになるはずだとわたしは思った。

そうだとしたら……わたしはどうすればいいのかしら。あるかも分からないパパを元に戻す方法を探す? そんな方法あるはずないのに、わたしのちっぽけな頭はまだそんな奇跡にすがりたがる。


「パパは…………どうしたい?」


雨に打たれた子犬のように体を丸めるパパに、わたしはそう問いかけた。わたしの問いかけに、びくりと体を震わせたパパはゆっくりとわたしに顔を向けてくれた。


「(あぁ…………)」


なんてことだろう! わたしは最初からパパからその言葉を訴えかけられていたのに!


またジワリと目の奥が濡れるのを感じたわたしは、できるだけ最高の笑顔を浮かべてパパに抱きついた。


「パパ…………、…………」


その言葉を、しっかりとゆっくりと呟いて。

わたしは決断を下したのだった。

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