アウトオブあーかい部! 〜部室棟 乙女の干物 集まりて 怠惰を極め 綴るは実績 電子の海へ あゝあーかい部〜 57話 意地悪
ここは県内でも有名な部活動強豪校、私立 池図女学院。
そんな学院の会議室、現場……いや、部室棟の片隅で日々事件は起こる。
あーかい部に所属するうら若き乙女の干物達は、今日も活動実績を作るべく、部室に集い小説投稿サイトという名の電子の海へ日常を垂れ流すのであった……。
『アウトオブあーかい部!』は、そんなあーかい部のみんなの活動記録外のお話……。
池図女学院部室棟、あーかい部部室。
「〜♪」
静かな部室に白ちゃんの鼻歌が響き渡っていた。
「……。」
あさぎは素知らぬ顔で読書を継続……。
「……いよ〜っし!お仕事終わりっ♪」
不意に白ちゃんが軽快にパソコンを閉じた。
「お疲れ様で〜す。」
「はぁ……。学生は良いわよね〜、土日が保証されてるんだもの……。」
「それ、昔大人の人に言われませんでした?」
「ええ。だからこうして悪しき伝統を紡いでるの。」
「紡がないでくださいよ……。」
「や・だ♪」
「……なんか、今日やけに機嫌良くないですか?」
「わかる?わかっちゃう??」
「お通じでも
「違うわッ!」
「違う……?妙だな……。」
あさぎは顎を抑えて眉間に皺を寄せた。
「あさぎちゃんの中の私ってミミズか何かなの……?」
「確かによく部室で死んでますよね。」
「おい。」
「それとも別の理……、
・・・・・・。
「すみませんやっぱ今の無しで
「もう遅いッ!私が機嫌いいのには別の理由があるんじゃないか?……あさぎちゃんはそう思ったのよねぇ?」
「最悪だ……。」
あさぎは頭を抱えて絶望した。
「ちょっとくらい付き合ってくれてもいいじゃない。」
「はぁ……。こうなるから口を噤んだのに……。」
「はいはい♪じゃあ、あさぎちゃんはなんで私の機嫌がいいんだと思う〜?」
「温暖で湿潤だからですか?」
「ミミズから離れろ。」
「えぇぇ……じゃあ……、
あさぎは腕を組んで唸った。
「……わかりました!」
「お?」
「明日粗大ゴミの日
「もっと他にあるだろい。」
「えぇぇ……。」
「ったく、しょうがないわねぇ……。」
「元凶に言われたくないです。」
「ヒントはよ・う・び・よ☆」
「あ〜……。」
「わかった?わかっちゃった??」
「カレンダーに『金』って書いてあるから
「おいこら。」
「じゃあもうさっさと言ってこの話題終わらせましょうよ……。」
「やーだ♪」
「このテンションの白ちゃん先生、見るに堪えないんですけど……、
「ほらほら、き・ん・よ・う……?」
「13日ですね。」
「不吉な方に持ってくな。」
「不吉なんで今日は早く帰った方がいいんじゃないですか?」
「え〜、やだやだ社会人マウントとらせてよ〜!?」
「あんまりわがまま言ってると、ホッケーマスク被って包丁持った人が『悪い子はいねーかー!』ってお家に来ますよ?」
「混ざってる混ざ……、
白ちゃんは後ろからトントンと肩を叩かれる感触おおぼえ振り向くと、
「わる
「ぎゃぁぁぁぁああああ!!??」
いつの間にか真後ろに立っていた教頭先生に特大の汚い悲鳴をあげ、一目散に部室から逃げ出した。
「……あら。」
「白ちゃん先生に何か用でもありました?」
「…………いいえ。」
教頭先生は後ろ手で部室のドアを施錠した。
「用があるのはあさぎちゃんよ♪」
「私……?」
「ま、立ち話もなんだし座って話しましょう。」
そう言うと教頭先生は机に収まっていたパイプ椅子を引っ張り出してあさぎの隣に腰を下ろした。
「自分から立ち話のくだり言う人、初めて見たんですけど……。」
「あらごめんなさい、また一つあさぎちゃんの初めてを奪っちゃったわね?」
「で。今日はどんなご用ですか?牡丹さん。」
「話が早くて助かるわ♪」
教頭先生は『教頭先生』ではなく一個人として接する時、あさぎに自分のことを『牡丹さん』と呼ばせている。
「単刀直入に言うわね?」
あさぎはごくりと喉を鳴らした。
「……何故、あなたが『藍ちゃん』の私物を持っているの?」
「私物……?」
『藍ちゃん』は高校生時代の教頭先生の親友であり、今はこの部室に幽霊として居着いている。
「書道セット……この前使ってたわよね?」
「あ〜……、あのときの。」
※54話参照
「最近、ちょ〜っとお仕事が立て込んでてこんなプライベートなこと詮索してる場合じゃないっていうのはわかってるのよ?でも、ど〜しても気になっちゃって。」
「なぜ持っているかと言われたら、お母さんの私物を持ち出したからなんですけど……、たぶんこれじゃあ満足しませんよね。」
「賢い子は大好きよ♪」
「と言っても私が話せるのはここまでなんですけど……。」
「頑張って♪」
「…………う〜ん、」
あさぎはすっかり困ってしまった。
別に隠そうというつもりはないのだが、前に教頭先生の親友である雪とお出かけしたときに聞いた失恋話が、飲み込み損ねた魚の小骨の様にあさぎの喉につっかえていた。
(高校生時代、雪さんは親友のことが好きだったけどその人には心に決めた人がいたから身を引いた……って言ってた。『親友』っていうのは牡丹さんと『藍』で間違いないだろうし……、でもそうだとしたら牡丹さんと『藍』のどっちかは片思い……下手したら両思いで死に別れなんて可能性もあるんだよなあ……)
あさぎは牡丹と雪と『藍』の全員に面識があるせいで余計に思考がぐるぐると渦巻き、『藍』についてどこまで詮索させていいものか決めあぐねていた。
「わかったわ。」
「へ?」
「今ここで話せないなら無理にとは言わないわ。」
「ど、どうも……。」
「でも……!」
「はいっ!?」
「いつか……。気が向いたらで良いから、あの子について知っていること、話してくれたら嬉しいわ♪」
「……。」
推測でしかないが、あさぎはこのとき、教頭先生が心の底から笑っている姿を初めてみた。
「牡丹さ
「さ〜て、仕事仕事!」
教頭先生はあさぎの言葉を強引に遮って席を立つと、あさぎに背を向け思いっきり伸びをした。
「突然お邪魔してごめんなさいね?」
「あ、いえそれは良いんですけど……。牡丹さんは、良いんですか……?」
「……ここから何年待ったって、もう誤差みたいなものよ。私はいつまででも待ってるから♪」
クリスマスプレゼントを心待ちにする子どもの様な無邪気な笑顔を見せて、教頭先生は部室を出て行った。
「……。」
取り残されたあさぎは、パイプ椅子に深く座り直し背もたれに思いっきりもたれかかって天井を仰いだ。
「……聞いてた?」
あさぎが誰もいない部室で呟くと、肩に乗っかっていた襟足の右だけがスルリと背もたれの後ろ側に解けて垂れた。
「……。」
あさぎは教頭先生を真似て立ち上がり思いっきり伸びをすると、部室の鍵を閉めて電気を消した。
「『藍』は…………、牡丹さんに色々言っても良い?」
あさぎはドアにもたれかかって俯くと、左右の襟足を扱いてまっすぐ垂れ下がらせた。
・・・・・・。
何分待ったか定かではないが、部室には隙間風一つ吹かず、あさぎの襟足はピクリとも揺れなかった。
「……いじわる。」
あさぎは部室の電気をつけるとパイプ椅子に乱暴に座り、トークアプリPINEを起動した。
あさぎ、るり(2)
あさぎ:急にごめん
あさぎ:お休み取れる日があったら教えて
るり:どうしたの?あさぎからおねだりなんて5年前の11月30日のクリスマスプレゼントの蚊取り線香以来かしら
あさぎ:忙しいのにわがまま言ってごめん……
あさぎ:あと怖いんだけど
るり:何言ってんの、娘なんてわがまま言ってなんぼでしょ!
るり:行きたいところでもあるの?
るり:大気圏内ならどんと来い!
あさぎ:家で、2人で過ごしたい
るり:我が生涯に一片の悔いなし
あさぎ:生きて
るり:来週の日曜日死んでも予定空けときなさい!
あさぎ:ありがと
るり:愛してるわ♪
「まったく、洋画じゃないんだから……♪」
あさぎが困り顔で笑っていると、PINEの通知音がもう一つ。
「牡丹さん……?」
牡丹、あさぎ(2)
牡丹:言い忘れてたけど今週の日曜、応接室まで来てね☆
あさぎ:土曜の夜じゃないんですか?
牡丹:ぐっすり眠って万全のコンディションで来てちょうだい♪
あさぎ:拒否権は
牡丹:胸に手を当てて考えてみて?
あさぎ:何時ですか?
牡丹:朝の8時30分♪
あさぎ:うへぇ……




