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花園王子と薔薇の騎士  作者: さいべり屋


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9

「女の子が待っている、と言っていませんでしたか」


結局、とっぷりと日も暮れてしまい、ふたりは手近な酒場で向かい合っていた。


リュシアンは煮込みのようなもの、ローズは焼いた小麦の皮で肉を包んだものを注文した。


儀礼的に酒も頼んだが、警戒を解いていないからか、ローズが手を付ける気配はない。


「言ったよ。王都中の女の子が、僕の演目を待ってるからね」


とぼけたように躱す彼の頬は、久々に過ごしたリュートの余韻で紅潮している。


「リモネラ嬢の身の上話を思い出しました」


程なく料理が到着し、ローズは皮包みを手に取るとがぶりと噛みついた。大きなひとくちが齧り取られ、仮面の下へ消えていく。


「ああ、よく覚えてたね。婚約者とうまくいかなくて悩んでた。彼女たちから物語のヒントをもらって、僕はみんなのための戯曲を作る」


リュシアンは場違いなほど上品にスプーンで煮込みを掬い、高貴な口に合わなかったのか顔を顰めた。


「……花園のどなたかが、恋人なのかと」


「あはは。花園は見て楽しむものだよ。摘み取るのは野暮のすることさ」


口直しに安ワインを煽ったものの、追い打ちのような渋さに途方に暮れた顔をしているリュシアンに、ローズが珍しく言い募った。


「では、やはり学園時代にご執心だったというピンク髪の」


「君までそんなことを言うの? あれは弟のアスランが……。そういえば、君もピンク髪だって言ってたよね」


ローズはフードから覗く己の髪にちらりと目を遣る。


「ええ、まあ。この見た目で得なことなどありませんが。……可憐なご令嬢と違って、騎士にとっては舐められるばかりで」


ローズはそこで言葉を切った。店の外から、鋭い殺気が近づいてくるのを感じたからだ。


神経を研ぎ澄ませて気配を探る。裏手まで囲まれてはいないようだ。


「リュシアン様、そちらの赤い扉から逃げてください」


囁くように告げる。ローズの体が、わずかに沈み込んだ。


しかしリュシアンは動かない。ローズは押し入ってきた暴漢に駆け寄った。すかさず1人に足払いをかけ制圧する。


倒れた男が卓にぶつかり、弾みで杯が倒れ、酒が飛び散る。悲鳴と怒号と皿が飛び交い、酒場は大混乱だ。


「リュシアン様、早く!」


押し入ってきた暴漢はあと4人。主を守りながら戦うには、数が多すぎる。焦ったローズの声に険が混じる。


「リュシアン様!」


聞き分けのない主を振り返ると、そこには。


迷子の子供のように途方に暮れたリュシアンがいた。


「……っ。出て! 右の扉から!」


一瞬の虚を突いてがら空きの背中を切り付けられたが、構ってはいられない。頷いたリュシアンが扉の向こうに消えるのを見届けてから、ゆっくりと振り向いた。


仮面の下に垣間見える唇が、残忍な弧を描く。


(ほむら)立つような己の殺気が、聊か私情を含みすぎていることには、今は目を瞑ってもいいだろう。


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