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「……王立劇場?」
リュシアンに従い、たどり着いたのは王立劇場だった。慣れた様子で裏手へと向かい、通用口の扉に手をかける。
「僕は、リュート」
それだけぽつりと言い置くと、彼は扉を開けて中に入っていった。ローズも後に続く。
薄暗い通用路をずんずん進むと、楽屋口の前で長い髪を束ねた男が駆け寄ってきた。
「リュート! やっと来たか、もう駄目かと思った」
「……遅くなった。これ、第3幕。書き直した」
リュシアンが丸めた羊皮紙の束をぽんと渡すと、男は声を張り上げて皆を呼び集めた。
それから、人心地ついたように改めてリュシアンたちを見た。
「リュート、やっとあの妙ちきりんな帽子をやめたのか? 今日は随分とマシな恰好じゃないか。それから、そちらの彼は?」
「冒険者だ。護衛を雇った」
それだけ言うとリュシアンは舞台袖へ駆けて行った。男とローズも後へ続く。
ローズは邪魔にならぬよう、観客席の最前列でリュシアンの様子を見守ることにした。
リュシアンがここで何をしているのかは明らかだった。
演出家らしい先ほどの男と額を突き合わせて台詞回しの細部まで議論し。
役者たちに発声方法の指導をし。
特に、楽団とのやり取りには熱が入っていた。
──「ヒロインの音域が思ったより狭い。楽団、ここは半音下げて。……和音が気持ち悪い? いいんだよ、恋の始まりってそう言うもんだろ?」
──「フルート、今一拍遅れた? でもいいじゃん。それ、採用」
彼は劇作家なのだ。
壇上を飛び回り熱弁を交わす彼の顔は、ローズが今まで見た中で一番輝いていた。




