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花園王子と薔薇の騎士  作者: さいべり屋


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6/15

6

第二王子襲撃事件について、リーンハルトはすぐに捜査の手を差し向けたが、蜥蜴の尻尾が切られただけで終わった。


その結果、リーンハルトの命により、ローズは益々リュシアンに貼りつくようになった。


「夜会で会ったグラナートという人物が怪しいのではないでしょうか。最近は政界にも進出したがっているようですし」


ローズの推理にリュシアンは首を横に振った。


「逆。あれはね、神輿は軽い方がいいって連中。有能な兄上に王位を継がれちゃ都合が悪いから、僕を煽てて乗せようとしてくるんだ。襲撃してきたのは、第一王子過激派かな」


「なるほど」


それを聞いてローズは頷いた。


「で、……そこまでわかっていてなぜ、お忍びで出かけようとするんです?」


粗末な服に身を包んだリュシアンは、重装鎧に首根っこを掴まれたまま、抜け出そうと藻掻いていた。



「離してよ! 女の子たちが僕を待ってるんだ」


「そんな理由で、継承権2位の方を危険に晒せる訳がないでしょう」


兜の中からくぐもった溜め息の音が聞こえる。


「──関係ない。王になるのは兄上だ」


駄々っ子のように暴れていたリュシアンが発した、あまりにも冷たい声音に、襟首を持つ手が一瞬緩んだ。


「王統を繋ぐのは、全てにおいて完璧な兄上の血であるべきだ。……僕じゃない」


「リュシアン様……」



ずるっ。



ローズが言葉を探して気を逸らした刹那。


掴まれていた上衣から身を抜いたリュシアンが、薄手のシャツ姿で窓枠に飛びついた。


「じゃあね、僕の薔薇の騎士!」


そのまま窓枠を強く蹴って2階の窓から飛び出し、軽やかに宙を舞った。


「……リュシアン様!」


「夜更けまでには帰るから、心配しな……おわっ」


庭木に飛びつき、更に枝に移ろうとしたところで……。目測を誤った。


指先が虚を掻いた。内臓が浮くような一瞬の後、真っ逆さまに落ちていく。叩きつけられる痛みに備えてリュシアンは強く目を瞑った。



──ガシャン!



衝撃は、来なかった。


窓からダイレクトに飛び降りた重装鎧が重い金属音と共に着地し、リュシアンを受け止めたからだ。


「ローズ……」


鋼鉄の腕の中にすっぽりと収まったまま、リュシアンはローズを見上げた。恐怖の残滓と冷たい鉄の感触に、心臓が飛び跳ねている。


「……焦ると声が"La"になるんだね」


身体をまるごとローズに委ねたまま、へらりと笑った。


「……仕方がありません。行きましょう、お忍び。その代わり自分もついて参ります。……ただし」


兜の中からまた、くぐもった溜め息が聞こえた。


「その赤い帽子はお脱ぎください。目立ってしようがない」


ローズは成人男性を危なげなく片手で抱きながら、頭から深紅の帽子を取り上げた。


「え、ダメ? お気に入りなんだけど」


「的になりたいようにしか見えません」


結局、目立たない身なりに着替えた主従は、賑わい始めた夕刻の王都へ繰り出した。

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