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第二王子襲撃事件について、リーンハルトはすぐに捜査の手を差し向けたが、蜥蜴の尻尾が切られただけで終わった。
その結果、リーンハルトの命により、ローズは益々リュシアンに貼りつくようになった。
「夜会で会ったグラナートという人物が怪しいのではないでしょうか。最近は政界にも進出したがっているようですし」
ローズの推理にリュシアンは首を横に振った。
「逆。あれはね、神輿は軽い方がいいって連中。有能な兄上に王位を継がれちゃ都合が悪いから、僕を煽てて乗せようとしてくるんだ。襲撃してきたのは、第一王子過激派かな」
「なるほど」
それを聞いてローズは頷いた。
「で、……そこまでわかっていてなぜ、お忍びで出かけようとするんです?」
粗末な服に身を包んだリュシアンは、重装鎧に首根っこを掴まれたまま、抜け出そうと藻掻いていた。
「離してよ! 女の子たちが僕を待ってるんだ」
「そんな理由で、継承権2位の方を危険に晒せる訳がないでしょう」
兜の中からくぐもった溜め息の音が聞こえる。
「──関係ない。王になるのは兄上だ」
駄々っ子のように暴れていたリュシアンが発した、あまりにも冷たい声音に、襟首を持つ手が一瞬緩んだ。
「王統を繋ぐのは、全てにおいて完璧な兄上の血であるべきだ。……僕じゃない」
「リュシアン様……」
ずるっ。
ローズが言葉を探して気を逸らした刹那。
掴まれていた上衣から身を抜いたリュシアンが、薄手のシャツ姿で窓枠に飛びついた。
「じゃあね、僕の薔薇の騎士!」
そのまま窓枠を強く蹴って2階の窓から飛び出し、軽やかに宙を舞った。
「……リュシアン様!」
「夜更けまでには帰るから、心配しな……おわっ」
庭木に飛びつき、更に枝に移ろうとしたところで……。目測を誤った。
指先が虚を掻いた。内臓が浮くような一瞬の後、真っ逆さまに落ちていく。叩きつけられる痛みに備えてリュシアンは強く目を瞑った。
──ガシャン!
衝撃は、来なかった。
窓からダイレクトに飛び降りた重装鎧が重い金属音と共に着地し、リュシアンを受け止めたからだ。
「ローズ……」
鋼鉄の腕の中にすっぽりと収まったまま、リュシアンはローズを見上げた。恐怖の残滓と冷たい鉄の感触に、心臓が飛び跳ねている。
「……焦ると声が"La"になるんだね」
身体をまるごとローズに委ねたまま、へらりと笑った。
「……仕方がありません。行きましょう、お忍び。その代わり自分もついて参ります。……ただし」
兜の中からまた、くぐもった溜め息が聞こえた。
「その赤い帽子はお脱ぎください。目立ってしようがない」
ローズは成人男性を危なげなく片手で抱きながら、頭から深紅の帽子を取り上げた。
「え、ダメ? お気に入りなんだけど」
「的になりたいようにしか見えません」
結局、目立たない身なりに着替えた主従は、賑わい始めた夕刻の王都へ繰り出した。




