5
「男性パート、譲ってあげるよ。君の方が背が高いし」
リュシアンに手を差し出されたローズは観念してその手を取り、他方の手でリュシアンの腰に手を添えた。
──戦神の彫像にでも抱かれたかのようだ。
奇妙な感触に肌が粟立った。
思わず一歩引いたリュシアンを、リードするかのようにローズはまた腕の中に閉じ込めた。
そのままふたりで、どこかぎこちなくフロアを揺蕩う。
屈強な騎士の腕に抱かれた優男の姿は、傍から見ればどこか物憂げで、退廃的だ。
リュシアンが自分の手を取る長い指への違和感を形にする前に、ローズが口を開いた。
「──リュシアン様は、もっと女性に優しい方なのかと。……花を変えただけで、あのように」
少し棘のある、責めるような言い方に、リュシアンは鼻を鳴らした。
「だから、何? 女の子の顔なんて、いちいち覚えちゃいられないよ」
ぴしゃりと返され、ローズが口を噤むと、リュシアンは話題を変えるように先ほどの違和感を口にした。
「ローズの指、細くて長い。身体も、もっとゴリマッチョかと思ったのに。でも、なんか……硬い?」
ローズは頷いた。
「勿論鍛えてはおりますが、自分の場合は魔力で力を高めているので、然程の筋肉を必要としません」
きゅ。と、重ねた手を握られる。ローズの手は、人とは思えないほどつるりと冷たい。
まるでティーカップだ。
「攻撃魔法が不得手なので、魔法騎士にはなれませんでした。ですが、魔力だけは有り余っておりますので、物理強化に全振りしております。触れると固く感じるのは」
ツンと鉄と殺気の臭いがしたかと思えば、ローズがターンに似た動きでリュシアンをくるりと回すと、腕の中に抱え込んだ。
──キィン。と、ナイフで皿を叩いたような音が響く。
「全身に身体強化を巡らせているからでしょう。ちょっと切ったぐらいでは、びくともしません」
気付くと、ローズが給仕の服を着た男を踏んづけていた。男のお仕着せは妙に新しく、傍らにはナイフが転がっている。
「リュシアン様、帰りましょう。このような事件が起きては、王族が座を辞しても非礼にはなりますまい」
リュシアンはまるでダンスの続きかのように、ローズにエスコートされながらその場を去った。




