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気が乗らない夜会も、王族の義務のひとつである。
華やかな雰囲気や楽団の演奏は嫌いではないが、有象無象が親切ごかしに近寄ってきては、自分をチェス盤に乗せようと蟻みたいに集ってくるのだ。
──ああ、うんざりする。
ヴァレットが用意した衣装の中から無難なものを適当に見繕って、リュシアンはふらりと部屋を出る。そのまま用意された馬車まで行こうとすると、部屋の前で待機していた近衛がすっと近づいてきて、
「──リュシアン様」
"Ut"の音色で声をかけてきた。
「えっ。──ああ、ローズか。鎧じゃないからわからなかった」
ローズは昨日の重装鎧ではなく、近衛の礼服に身を包んでいた。
リュシアンより拳ひとつ分ほど背の高いその身体は、鎧姿で想像していたほど筋骨隆々ではなく、意外なほどすらりとしていた。それでも伸びた背筋や身のこなしから、充分に鍛え上げられた肉体であることが伝わってくる。
幽かに鉄の香りが漂ってくる。……見えないところにも剣を帯びているのだろうか。
「流石に、正式な夜会に鎧は不自然ですので」
兜で反響していないローズの声は、掠れたような低い声音だが、しっとりとした艶があって、リュシアンの耳に心地よく響いた。
「その仮面のせいかな? まだ少し、籠ってるような感じがする」
ローズは兜の代わりに仮面をつけていた。仮面舞踏会に用いられるような装飾多めの華やかなものではあるが、顔面の7割ほどが覆われているため容貌を窺い知ることはできない。
「よくお分かりになりましたね。鎧がない代わりに、全身に身体強化魔法を展開しております。その影響で声が籠って聞こえるのかと」
ローズは些細な音の違いを聞き分けられて驚いたようだ。
「……それにしても、リュシアン様。今宵は随分と攻めたお召し物ですね」
「そう? 地味じゃないかな?」
赤みの強いワインレッドの上衣から覗くシャツはほのかに黄味を帯び、胸元のブローチが赤金の輝きを放っていた。細身のズボンは茶に近く、全体の色調をさらに温めていた。
肩に下げたマントは紺色だったが、歩くたびに裏地の朱がちらりと覗き、意図せず視線を引き寄せる。金糸の縁取りも朱に映えて、夜会の照明の下で輝くだろう。
「地味……ですか」
ローズの声が引き攣った。
「ローズはどうしよう。近衛の礼装は格好いいけど、みんな同じだからつまらないよね。
そう言ってリュシアンは廊下に飾られていた花瓶から、おもむろに薔薇を1本引き抜くと、ローズの胸に挿した。
「はい、できた。僕の騎士だもの、薔薇の香りがしなくちゃね」
恥ずかしげもなく気障な台詞を吐く伊達男は、その服装も相まって──まるで、太陽神のようだった。




