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ガシャン、ガシャン、ガシャン。
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
背後をぴたりと付き従う鎧の音が、リュシアンの神経を逆撫でした。
「……ねえ、どこまでついてくるつもり?」
「どこまででも」
鎧の返答には取り付く島もない。
「困るよ。こんな重装鎧を従えてたら女の子が怯えちゃうし。それに──」
「リュシアン、様」
囁くような震え声にリュシアンはハッとした。見れば、小柄な少女が回廊の隅に佇んでいた。
「お話中、申し訳ございません。でもわたくし、どうしても今日お伝えしたいことがございまして……。花を、つけてまいりましたの」
リュシアンは少女に駆け寄った。髪に挿された小さな花に、キスするように顔を近づけると、大きな瞳に涙が浮かんでいるのがわかる。
「そうなんだ、ごめんね。この鎧がうるさくて、気づかなくってさ。──リモネラちゃん。花をつけてきてくれて、ありがとう」
爽やかな花の香を胸に吸い込みながら、少女の肩を抱いて鎧から隠し、視線だけで強く牽制した。
そのまま少女──リモネラと少し話してから別れ、再び歩き始めてからも、リュシアンはイライラを止められなかった。
「……先ほどのご令嬢は、リュシアン様の恋人ですか」
「まさか! 婚約者とすれ違いがあってね。相談に乗っていただけだよ」
リュシアンはギリリと鎧を睨みつけた。
「お前のせいだよ。その鎧が、そんなにうるさい音を立てて、鉄の臭いで僕をいっぱいにするから。──彼女に気付いてあげられなかった。ちゃんと花をつけててくれたのに」
「しかし、この装備は王太子殿下が──」重装騎士は言いかけて、
「善処、します」とだけ言い直した。
そこでリュシアンはやっと語気を緩めた。
「君、名前なんだっけ」
「ハッ、ローゼンステインと申します」
「固い名前だなぁ。ローゼン…じゃあ、ローズね。君は今からローズ。僕の花園にまだ男は入れたことないけど」
リュシアンは自分の泣きぼくろに手をやると、悪戯っぽく微笑んだ。
なんてことのない仕草なのに、絞れば滴るほどの色気を湛えている。
「君は特別。ね」
第二王子の花園に、異色の鎧が加わった。




