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花園王子と薔薇の騎士  作者: さいべり屋


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「それで、兄上の新しい婚約者は決まったの?」


リーンハルトの執務室に押し掛けたリュシアンは、開口一番兄に迫った。


「なんだお前は。母上のように喧しいな。もう少し待て」


リーンハルトは嫌そうに眉を上げた。


「近いうちになんとかする。今策を講じているところだ。まあ、駄目だったらお前の子に継がせればいい」


リーンハルトは当たり前のように言うと、書類に目を落とした。


しかしそれは無理な話だ。悩みに悩んで決めた答えだ。


「僕は男が好きみたいだから、子は望めないよ。だからリーンハルト兄上には、早急に次の婚約者を見つけてもらわないと」


「えっ」


謁見中はいつも壁に徹しているローズが、驚いたような声を漏らした。


「ローズ? なんで驚くの。だって昨夜……」


問い詰めようとするリュシアンをリーンハルトが咳払いで止めた。


「お前はローゼンステイン辺境伯の御息女と恋仲だと聞いていたが、違うのか?」


「は?!」


今度はリュシアンが呆けたような声を出した。


「ローゼンステイン辺境伯の第一息女、ロゼッタ・ローゼンステイン嬢と恋仲なんだろう? 最初に言っておいたじゃないか、辺境伯の掌中の珠だと」


「ローズ……ロゼッタ?」


「はい」


初めて聞く名を声に乗せると、ローズが返事を返してきた。


「──ローズが女の子だったなんて、聞いてないよ! ……お陰で僕が、どれだけ悩んだか」


思わず責めるような口調になる。


「──自分も、鎧の時に間違えられたのは知っていましたが……まさか、まだ男と思われていたとは」


ローズも困ったように苦笑いをした。


「なにをやってたんだ、お前らは」


リーンハルトは呆れたように頬杖をついた。


「この茶番のあとに言うのもなんだが……王の素質は、確かに私にあるかもしれない。


しかし、アスランには商才がある。心の内を表に出せる健やかさがある。


リュシアン、お前には芸事の才がある。見えなくても、真実を見抜く賢しさがある。 どちらも、私にはないものだ。どれが優れているというものではない」


その言葉に背中を押されて、リュシアンはローズに歩み寄ると、そっと仮面を外した。


淡い薔薇色の髪がさらりと流れ、目元から頬にかけて引き攣れたような傷跡のある、しかし確かに女性の貌が現れた。


「……変なの。好きになった後に、初めて顔を知るなんて」


滑らかで硬い、陶器のような頬に触れる。


「自分は、リュシアン様のように美しくもなく、花たちのように可憐でもありません」


仮面を剥がれたひとりの女性が、気後れしたように目を逸らした。


「関係ないよ。僕の庭には、この薔薇が一輪あればいい。……ねえ、魔法越しじゃないローズに触れたい」


ふたりを隔てる魔力の膜がもどかしい。 リュシアンがねだると、薔薇色のまつげが震えた。触れていた陶器のような肌が、剣士らしく荒れた、しかし温かな人間のそれに変わる。


「はじめからこの手に触れてたら、間違えたりなんかしなかったのに。ねえ、ちょっとかがんでよ」



「──おい、いちゃつくなら余所でやってくれ。執務の邪魔だ」


背の高いローズの袖を引いて、ふたりの顔がまさに触れようとしたとき、長い銀髪を指先で遊ばせながら、不本意な観客が水を差した。


真っ赤な顔で執務室を追い出されたローズは結局、部屋まで待ちきれないリュシアンに柱の陰に引っ張り込まれた。


薔薇の騎士は初めて会った時から、この奔放な主には弱いのだ。




   <La fin de la pièce, et le début de l'amour...>

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