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護衛はふたたびローズひとりに戻ったが、ぎこちない距離感は戻らないままだった。
リュシアンはローズを劇場に誘った。
「さすがにお忍びはまだ無理だから、王子としてだけど。千秋楽に間に合ってよかった」
最終日とあってか、王立劇場は超満員だった。
しかも王子のお出ましとあっては、開幕前から場内の熱気は高まるばかりだ。
リュシアンは舞台正面の一際豪華なボックス席に通され、ローズはその後ろに控えた。
「──なにしてんの。立ってないで座んなよ。迷惑だよ」
リュシアンに諭され、ローズはやっと、居心地悪げにペアシートの端に腰を下ろした。
客席が暗くなり、幕が上がる。リュシアンは舞台に目を向けたまま、ローズに聞いた。
「で。僕、なんで避けられてんの? こんなポンコツ王子、愛想が尽きた?」
舞台の上では、しっちゃかめっちゃかな不協和音と共に、両片思いの男女がいがみ合っている。
──恋の始まりって、そう言うもんだろ?──
あの時の歌だ。
「避けるなど、滅相もありません。……ですが」
拗ねたように頬杖をつくリュシアンが、視線だけで続きを促した。
「花園は、もう要らないと仰ったので。……自分も、用済みかと」
「はぁっ?!」
思わず漏れた声は、叩きつけるようなピアノの音にかき消された。そのまま暗転。暗がりの中でリュシアンがずいっと迫ってきた気配がする。
押し殺したような声は、しかし明らかに怒っている。
「あのシーンは、『君がいれば、他は要らない』の意味でしょ。どう考えても」
「……すみません、無調法者でして」
リュシアンはローズの手を取り、指を絡めた。しなやかで長い指は、陶器のように冷たくて硬い。男のようでも女のようでもない、ただ規格外の剣士の手だ。
「リュッ……シアン、様」
ローズの声が思わず裏返った。
「……ローズって、焦ると"La"の音で僕を呼ぶんだよね」
リュシアンがふっと笑った気配がした。
「僕は君の傷も、君の髪の色も、わかってあげられないけど。僕は君の"La"……好きだよ」
気付けば音楽はロマンティックに変わり、壇上では男女が愛の口づけを交わしていた。
割れるような拍手と歓声の中、リュシアンは仮面から覗く硬い唇にキスを落とした。




