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相次いでの襲撃に、さしものリーンハルトも堪忍袋の緒が切れたようだ。
「痴れ者どもめが、己が王を選べる気でいるのか。少し灸を据えてやらねばなるまいな」
長い銀糸の髪の下で、切れ長の目がギラリと光り、心なしか部屋の温度が下がった気がした。
「大掃除は長くはかからない。少しの間大人しくしていてくれ」
早速あれこれと策を巡らせはじめるリーンハルトに、リュシアンは苦言を呈した。
「兄上がさっさと世継ぎを作ってくれればいい話じゃないか。新しい婚約の話はどうなってるの」
「今のところ、語れるような進展はないな」
何事にも手際のよい兄らしくないことだ。リーンハルトはその一言で話題を打ち切り、リュシアンの身柄の話に戻った。
「護衛を増やす。常に複数体制で警護させろ。暫くの間は王宮を出るな。花園との接触も控えろ。……それから、ローゼンステインには顔を晒すなと言っておいてくれ」
過保護にも程がある。しかし演目の調整も粗方終わり、しばらくは引きこもっていても問題はないだろう。リュシアンは素直に頷いた。
しかし。
「どうして、ローズに顔を隠させるの。目立つ傷があるからって」
それだけは、気に食わなかった。
「……傷? なんのことだ」
リーンハルトが珍しく虚を突かれたような顔をした。
「この情勢で王家が辺境伯家と懇意だと広まると、要らぬ軋轢を生むかもしれない。窮屈をさせているが、全て解決するまでのことだ」
全てにおいて完璧なリーンハルトらしく、傷などではなく政治的な判断によるものだったようだ。
それでも、兄だけが仮面の下の素顔を知っている事実に変わりはない。リュシアンの胸中に、もやもやと釈然としない何かが残った。
「……それが、どうかしたか?」
意味深な笑顔に変わった兄の執務室から、リュシアンは慌てて飛び出した。




