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ローズが裏口から店を出ると、通りはぞっとするほど静かだった。
「――リュシアン様?」
そっと囁くが、応えはない。人気のない路地の捨て溜めは荒らされ、蓋が傍らに転がっている。
ローズの肝がしんと冷えた。
「リュシアン様!」
思わず声が大きくなる。と、捨て溜めの蓋がごろりと転がり、陰から主が現れた。
「終わった? ――あはは、臭っ」
「……ご無事でしたか」
手を差し伸べると、リュシアンは素直に震える手を重ねて立ち上がった。
「……血の臭いがする」
切った張ったの大乱闘で、冒険者風のマントは血と酒と料理を被って異臭を放っていた。
「賊は簀巻にして転がしてきました。自分の血ではございません」
ローズが事もなげに言うと、リュシアンは今にも泣きそうに顔を歪めた。
「でも、刺されてたじゃないか。……僕が遅れたせいで」
ローズはおもむろに懐からナイフを取り出した。躊躇なく自分の掌に突き立てる。皿を引っ搔くような音がしたが、ローズの掌は滑らかなままだ。
「身体強化を纏っておりますので。あんな鈍らでは、傷もつきませんよ」
ローズはナイフを懐にしまうと、そのままリュシアンの手を引いて歩きだした。魔法の鎧を纏ったその手は陶器のようにつるりとして冷たく、硬い。
「さあ、新手が出る前に早く行きましょう」
ふたりは宵闇に紛れて城への道を急いだ。
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