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蒼き竜の継承者  作者: みなと劉


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第39話 古の封印門とヴォルガリムの領域

 古の封印門をくぐった瞬間、世界は一変した。鋭い氷と灼熱の瘴気が渦巻く異界の峡谷へと四人は踏み込む。大理石の門が背後で轟音と共に閉じると、天は紫黒に染まり、遠く断崖を縫うように瘴気の雷光が走っていた。

「ここが――ヴォルガリムの領域か」

 アルトは剣を前に構え、胸の《調和の紋章》を確かめる。紋章は穏やかな青い光を放っているが、その背後には自らの鼓動すらかき消すほどの重圧が感じられた。

 セレスはそっとアルトの手に触れ、穏やかな声で囁く。

「恐れないで、アルト。あなたと私、そして仲間たちの絆があれば――」

 その言葉に応えるように、ゴールデンクロウが深い咆哮をあげ、周囲の岩壁から金色の龍気を解き放った。アイテールも翼を大きく広げ、冷たい風を峡谷へ吹き下ろす。その二頭の龍気が交錯すると、瘴気の雷光は一瞬だけ揺らぎ、通路の先端に遠く巨大な影が見えた。

「――あれが、ヴォルガリムか」

 グスタフ元帥が剣を引き抜き、硬い歯を食いしばる。竜の瞳のごとく赤い闇の波動が、彼ら全員を一路貫いている。

 一歩、また一歩と進むごとに、大地は震え、瘴気が渦巻く。岩盤に刻まれた邪紋が薄紫の光を放ち、刻一刻と封印が緩んでいくのが肌で分かった。

「急げ! 再封印の儀式を――」

 アリシアが魔導書を掲げ、ラテン語にも似た呪文を口早に詠唱し始める。彼女の声に呼応して、リカルドが魔導具から癒しと結界の光を放ち、周囲に小さな聖域を形成した。

 そのとき、谷の最奥から深い咆哮が轟いた。

 ――地を抉るような重低音。闇の裂け目が裂け、そこから黒銀の巨躯がゆっくりと姿を現す。全長数百メートル、尾は岩山を何本分も巻き込み、翼は空を覆い尽くすほど巨大だった。

ヴォルガリムは口をひらき、世界の終焉を告げるような声で唸る。

「――笑えるな、人間よ、竜よ。かつて我らが封じた者たちが、よもやこうも脆き鎖で縛られているとは」

 その声は直接、四人の心を震わせた。怯え、怒り、憎悪、悲哀――ありとあらゆる感情が同時に押し寄せる。アルトは口を噤み、恐怖に心を締めつけられそうになるが、セレスが背に回ってしっかりと抱き留めた。

「アルト、あなたを信じている」

 彼女の蒼い瞳が強く輝く。そこには恐怖を克服する“覚悟”が宿っていた。

 刹那、アルトの剣柄に同調の光が走る。胸の紋章が震え、まるで魂の奥底から湧き上がるように熱を帯び始めた。

「僕は――負けない!」

 叫びと共にアルトは前へ走り出す。その力に呼応して、ゴールデンクロウとアイテールが両翼を広げ、光の壁を作りながらヴォルガリムへと突進した。セレスもまた、剣を高く掲げて緩やかに舞い降りる。

 衝突。大地が悲鳴をあげ、巨竜の翼が瘴気を裂く。

 アルトとセレスの二人は背中合わせに陣を組み、交互に切り裂くように攻撃を繰り出す。炎と氷、聖光と龍気が混じり合い、ヴォルガリムの鱗を一閃するも、強大な闇の結界が刃を跳ね返す。

「これでは――」アリシアの詠唱が途切れ、魔導書の頁が震えた。

 リカルドが立ち上がり、両手を広げる。

「皆の絆が試されている! 今こそ、人と竜、全員の心を一つに!」

 その瞬間、皇帝マクシミリアンが声を震わせて叫んだ。

「調和者アルト! セレス! 我らも共に歌おう、共存の祈りを!」

 兵士たち、騎士たち、そしてゴールデンクロウ、アイテールまでもが、心を一つに真摯な願いを捧げる。深い闇の渦の中心で、赤黒い閃光が不気味に躍動していたが、次第にその色は薄れ、紫紺へ、そして淡い銀光へと移ろい始めた。

「今だ、アルト!」

 セレスが背中から囁く。

 アルトは剣を高く掲げ、全身の力を《継承者の祈り》へと昇華させる。刹那、剣先から放たれた光の矢がヴォルガリムの胸元を貫くと、巨竜は苦悶の咆哮をあげた。その力はまるで大地を揺るがす雷鳴のごとく響き渡り、瘴気の渦を粉砕していく。

 ――光が消え、谷底に静寂が戻った。ヴォルガリムの巨体はゆっくりと崩れ落ち、亀裂の中へと沈んでいく。人と竜の共鳴が成し遂げた勝利だった。

 アルトは両膝を地に落とし、剣を握り締めたまま静かに瞳を閉じる。セレスがそっと彼の肩に膝まずき、背を支えた。

「やったわね……アルト」

 彼の紋章は今、真白い光で満たされていた。

 背後から、皇帝の声が震え混じりに響いた。

「これぞ、我らの求めた『調和』の力よ。世界はまた救われた――だが、真の旅はこれからだ」

 黄昏の空に、蒼と金と銀の三色の龍気がゆらめいて漂う。それは人と竜が紡いできた絆の証。深淵の門は今、完全に閉じられ、新たな時代の幕開けを告げようとしていた。

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