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蒼き竜の継承者  作者: みなと劉


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第33話 新たなる潮流

 夜明け前の翠嶺の館は、静寂に包まれていた。星空がまだ漆黒の残り香を漂わせる中、アルト・ウィンドブレイカーは石造りの屋上で腕を組み、遠くの山並みを見つめていた。隣に佇むセレス・サファイアウィングは、細い羽根の縁を指先で優しくなぞりながら、低くつぶやく。

「アルト……もうすぐ朝ですね。夜の静けさも、そろそろ終わりを告げようとしているわ」

「ああ。でも、僕たちの旅路はまだ終わらない。アイテール様が言った“真の試練”が何か、確かめないといけない」

 セレスの瞳に、闇の果てにある何かを見据える光が宿る。

「私は感じているの。天空竜の加護は確かなものだけど、どこかに消え残った闇が、まだ蠢いているような……」

 アルトは深く頷いた。

「バルバロッサ帝国での和平は、大きな一歩だった。だけど、ダーククロウやヴォイドクロウたちの影響は、世界中に広がっている。大司教や皇帝陛下の元で、まずは帝国内の和解を果たしたけれど、次はもっと根の深い問題に挑まなければならない」

 遠く――城壁の影で、ゴールデンクロウが翼を休めていた。巨大な体をくねらせつつ、低く唸る。

『我が感覚でも同じだ。帝国内の不穏は消えたが、辺境の魔力渦動はむしろ強まっている』

 その言葉が、アルトの心に深い危機感をもたらす。

「境界魔紋の再生か……僕たちが旅してきた異国でも、古代の封印が次々と消えている。原因は分からないが、種族を超えた協力だけでは歯が立たないかもしれない」

 セレスは小さく息を吐き、そっとアルトの肩に手を置く。

「あなたなら、きっと道を示せる。私も、ゴールデンクロウも、エリザベス王女も――多くの仲間がいる。あとは一歩を踏み出すだけよ」

「ありがとう、セレス。じゃあ、まずはバルバロッサ帝国の辺境地帯へ向かおう。魔紋の発火点と目される“忘れられた峡谷”がある。古代竜の痕跡も確認された場所だ」

 アルトの決意に、セレスははっきりと頷いた。

 ――そして数時間後。三人は翠嶺の館を後にし、帝都を見下ろす峠を越えて南へ向かっていた。朝陽が二人の影を長く引き伸ばし、黄金と蒼の翼が大地に光を落とす。護衛に付いた帝国騎士団や、アリシア、リカルドも加わり、隊列は自然と心強いものとなっていた。

「アルト殿、御一行にもう一つ報告がございます」

 騎士団長のマルクスが口を開く。

「峡谷の手前にある古代遺跡に、未確認の魔力反応が出ています。おそらく、封印を維持していた“聖獣像”が崩壊しかけているのでしょう」

「聖獣像……」

 セレスの瞳が鋭く光る。

「それなら、私たちの出番ね。もし封印が完全に破られたら、未知の魔物が外部へ溢れ出してしまう」

「ああ。帝国全土に連動している可能性もある。今日は長旅になるが、必ずあの遺跡を守ろう」

 アルトの声に、隊の空気が引き締まった。騎士たちは剣の柄に手をかけ、アリシアは地図とにらめっこを始める。リカルドは軽く礼をしつつ、周囲の地形を注意深く観察していた。

 ――彼らがまだ知らないのは、その峡谷の奥底で、黒い紋章をまとった影が目を光らせていることだった。乾いた風を裂くような不気味な囁きが、岩壁のひび割れから漏れ聞こえてくる。

「――再び、深淵の門を開くのだ」

 その声は、人間でも竜族でもない、古の何者かの意志を伝えていた。

 旅の一行は、はるか彼方の闇の呼び声に気づくことなく、蒼き竜の継承者としての新たな使命へと歩みを進めていった。青空の向こうには、まだ見ぬ試練の暗い影が揺れている。次なる戦いは、想像を超える“深淵との対峙”となるだろう。

 ――新たな潮流は、すでに動き始めていた。

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