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蒼き竜の継承者  作者: みなと劉


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第28話:公開討論会

フェルナンド王都の王宮大広間は、これまでにない熱気に包まれていた。

 「人竜調和公開討論会」の開催日がついに到来したのだ。

 大広間には数百の椅子が整然と並べられ、市民、貴族、商人、職人、学者たちが集まっている。

 正面には討論者用の長いテーブルが設置され、その後方には王座と来賓席が配置されていた。


「これほど多くの人が...」


 エリザベス王女が会場の様子を見渡しながら呟く。


「調和への関心の高さを表していますね」


 アルトも緊張と期待を胸に会場を見つめている。

 会場の天井近くには、ゴールデンクロウが翼を休めていた。その存在感は圧倒的だったが、人々は既に昨日の出来事で慣れ始めているようだった。


『緊張しているのは人間だけではないな』


 ゴールデンクロウがアルトにテレパシーで語りかける。


『我も久しぶりに多くの人間の前に出る』


『大丈夫よ、ゴールデンクロウ』


 セレスが励ます。


『私たちが一緒にいるもの』


 午前十時、ロバート王が王座に着席し、討論会の開始が宣言された。


「本日は歴史的な討論会にお集まりいただき、感謝いたします」


 王の声が大広間に響く。


「この討論会の目的は、勝ち負けを決めることではありません。お互いの考えを理解し、我が国の未来にとって最良の道を見つけることです」


 拍手が会場に響く中、司会を務めるマティアス大司教が立ち上がった。


「それでは、討論者の皆様をご紹介いたします」


 まず反竜派の代表者たちが紹介された。


「鍛冶師ギルドの代表、ハンス・アイアンハンマー氏」

「商人組合の代表、マリア・ゴールドコイン氏」

「そして元騎士団長、レオン・ブレードストーム氏」


 続いて調和派の代表者たち。


「学者ギルドの代表、フィリップ・ウィズダム氏」

「農民組合の代表、アンナ・グリーンフィールド氏」

「そして若き外交官、リカルド・ピースメーカー氏」


「さらに、特別参加者として調和者アルト・ウィンドブレイカー殿」


 アルトが席に着くと、会場からは期待と不安の入り混じったざわめきが起こった。


「それでは討論を始めます。最初のテーマは『竜族との協力の必要性』について」


 最初に発言したのは反竜派のレオン元騎士団長だった。


「皆さん、私は三十年間この国の守りに携わってきました」


 レオンの声には重みがある。


「その経験から言わせていただくと、異種族との関係は常に不安定なものです」


 会場が静まりかえる。


「力の差が大きすぎるのです。竜族一体で我が国の軍隊全てと対等以上の力を持つ。そのような存在との『対等な関係』など、果たして可能でしょうか?」


 的確な指摘に、調和派の席からも考え込むような表情が見える。

 調和派のフィリップ学者が反論した。


「しかし、レオン氏。力の差があるからといって、協力が不可能だというのは短絡的ではないでしょうか?」


「どういう意味ですか?」


「現実に、我々人間の社会でも様々な力の差があります。貴族と平民、富豪と貧民、学者と職人。しかし、それぞれが異なる能力を活かして社会を構築している」


 フィリップの論理的な説明に、会場から「なるほど」という声が漏れる。


「竜族の力と人間の知恵、技術を組み合わせれば、より豊かな社会が築けるはずです」


 しかし、商人組合のマリアが新たな懸念を提起した。


「経済的な観点から言わせていただくと、竜族との協力で我々の産業が打撃を受ける可能性があります」


「具体的にはどのような?」


「竜族の能力があまりにも高すぎて、人間の仕事が奪われるのではないかと」


 この指摘に、会場がどよめいた。

 雇用問題は多くの市民にとって切実な関心事だったからだ。

 農民代表のアンナが手を上げた。


「私たち農民の立場から申し上げますと、竜族との協力で得られる利益もあります」


「どのような利益でしょう?」


「天候制御の力です。古代契約書にも記載されていましたが、竜族の力で干ばつや洪水を防げれば、安定した収穫が期待できます」


『その通りです』


 ゴールデンクロウが会場に声をかける。


『我らの力は破壊だけでなく、創造や保護にも使えます』


 しかし、鍛冶師のハンスが疑問を呈した。


「そうは言っても、竜族の方々の真意が分かりません。なぜ今になって人間との協力を求めるのですか?」


 この質問に、会場の注目がゴールデンクロウに集まった。


『それは正当な疑問だ』


 金竜が慎重に言葉を選ぶ。


『実は、我ら竜族も危機に直面している』


「危機?」


『暗黒勢力の復活だ。ダーククロウのような存在が各地で活動を活発化させている』


 アルトが補足する。


「僕たちも各国を回る中で、その脅威を実感しています。一国、一種族だけでは対抗が困難なレベルの敵です」


 外交官のリカルドが発言する。


「国際情勢の観点から見ても、孤立は危険です。他国が竜族との同盟を結んだ場合、我が国だけが取り残される可能性があります」


 この指摘に、レオン元騎士団長の表情が変わった。


「それは...確かに軍事的には深刻な問題ですね」


「だからこそ、我々は先駆者となるべきなのです」


 フィリップ学者が熱を込めて語る。


「フェルナンド王国が人竜調和の模範となれば、国際的な地位も向上します」


 しかし、マリア商人が現実的な問題を提起した。


「理想は分かりますが、実際の協力体制はどう構築するのですか?法的枠組みは?責任の所在は?」


 この時、マティアス大司教が重要な情報を提供した。


「実は昨夜、教会の古文書をさらに調査したところ、古代の『調和法典』の一部が発見されました」


 会場がざわめく。


「その内容は?」


「人間と竜族の協力に関する詳細な取り決めです。権利と義務の明文化、紛争解決の手順、そして最も重要な『相互尊重の原則』が記されています」


 アルトが立ち上がった。


「皆さん、僕からも一つお話しさせてください」


 会場の注目が調和者に集まる。


「僕自身、最初は竜族を恐れていました。セレスと出会った時も、正直怖かったです」


『アルト...』


 セレスが温かな声をかける。


「でも、時間をかけて話し合い、一緒に困難を乗り越える中で、本当の信頼関係を築くことができました」


 アルトの言葉に、会場の人々が真剣に耳を傾けている。


「大切なのは、最初から完璧な関係を求めることではありません。小さな一歩から始めて、少しずつ理解を深めていくことです」


 農民のアンナが感動したように呟く。


「それは...私たちが家族や友人との関係を築くのと同じですね」


「その通りです。種族が違っても、心の通い合いは可能なんです」


 しかし、レオン元騎士団長はまだ懐疑的だった。


「感情論では分かりますが、もし竜族が約束を破ったらどうします?我々に対抗手段はあるのでしょうか?」


 この質問に、ゴールデンクロウが真剣に答えた。


『それは我らも同じ心配を抱いている。人間が約束を破る可能性もあるからな』


「どういうことですか?」


『だからこそ、相互の監視と制御の仕組みが必要なのだ』


 アルトが詳しく説明する。


「古代契約書には、『調和の証』という制度が記載されています。人間と竜族の代表が定期的に会合を持ち、問題があれば即座に対応する仕組みです」


 リカルド外交官が補足した。


「現代的に言えば、人竜合同委員会のような組織を設立するということですね」


「その委員会には拒否権も設けられます」


 エリザベス王女が資料を読み上げる。


「どちらの種族も、相手の提案に問題があると判断した場合、協力を一時停止できる権利があります」


 この説明に、反竜派の代表者たちの表情が少し和らいだ。

 商人のマリアが確認した。


「つまり、一方的に不利益を被ることはないということですか?」


「はい。あくまでも相互利益に基づく協力関係です」


 鍛冶師のハンスが新たな質問をした。


「具体的には、どのような分野での協力を想定していますか?」


 ゴールデンクロウが答える。


『まずは災害対策からだ。洪水や火災の際の救助活動、そして農業支援』


「軍事面での協力は?」


『それは段階的に検討する。まずは信頼関係を築いてからだ』


 フィリップ学者が興奮気味に発言した。


「学術研究での協力も可能ですね!竜族の知識と人間の研究方法を組み合わせれば、画期的な発見があるかもしれません」


『それは興味深い提案だ』


 セレスも賛同する。


『私たちの記憶には古代の技術や知識が残っています。それを現代の人間の技術と融合させれば...』


 会場の雰囲気が徐々に前向きになってきた。

 しかし、レオン元騎士団長が最後の懸念を表明した。


「一つだけ、どうしても気になることがあります」


「何でしょうか?」


「もし、この協力関係を悪用しようとする者が現れたらどうします?人間にも竜族にも、そのような者がいる可能性があります」


 この指摘は的確で、会場が再び緊張した。

 アルトが深く頷いた。


「それは非常に重要な指摘です。実際、僕たちも各国でそのような者たちと対峙してきました」


「どのように対処されたのですか?」


「『調和の力』です」


 アルトが立ち上がり、手を胸に当てる。


「心からの信頼と理解に基づく絆は、どんな悪意よりも強いものです。そして、その絆を守るためなら、人間も竜族も共に戦います」


『その通りだ』


 ゴールデンクロウが力強く宣言する。


『我らの絆を脅かす者があれば、種族を超えて立ち向かう』


 マティアス大司教が厳かに語った。


「これこそが、神が我々に与えた試練の真意かもしれません。異なる者同士が理解し合い、共に歩むことの尊さを学ぶための」


 会場に深い静寂が訪れた。

 そして、農民のアンナが静かに手を上げた。


「私は...調和に賛成します」


 続いて、フィリップ学者も。


「学術的観点からも、協力の利益は計り知れません」


 リカルド外交官も頷く。


「外交上も必要な選択です」


 そして、意外にも商人のマリアが発言した。


「経済的なリスクはありますが...新たな市場の可能性も大きいですね。調和派に転じます」


 鍛冶師のハンスも迷った末に頷いた。


「竜族の金属加工技術を学べるなら...私も賛成です」


 最後に残ったのは、レオン元騎士団長だった。


会場の全ての視線が彼に集まる。

 長い沈黙の後、レオンが口を開いた。


「私は軍人として、常に最悪の事態を考える習慣があります」


「はい」


「しかし、今日の議論を聞いて、一つのことを確信しました」


「どのようなことでしょう?」


「このまま孤立していては、より大きな危機に直面するということです」


 レオンが立ち上がる。


「そして、調和者殿とゴールデンクロウ殿の絆を見ていて、種族を超えた信頼が可能だということも理解しました」


 会場に期待の緊張が走る。


「よって、私も調和に賛成いたします。ただし、段階的かつ慎重な実施を条件として」


 会場が大きな拍手に包まれた。

 ロバート王が立ち上がる。


「本日の討論会により、我がフェルナンド王国は人竜調和の道を歩むことを決定いたします!」


『ありがとう、皆』


 ゴールデンクロウが感謝を込めて会場を見渡す。


『この決断を誇りに思う』


 討論会の成功により、フェルナンド王国では具体的な協力体制の構築が始まることとなった。

 その夜、アルトは王宮の庭園で星空を見上げていた。


『お疲れさま、アルト』


 セレスが優しく声をかける。


『今日は本当に素晴らしかった』


「皆が勇気を出して、心を開いてくれたからです」


『次はどこに向かうの?』


「南のバルバロッサ帝国です」


 アルトの表情に決意が浮かぶ。


「そこには大きな試練が待っているかもしれません。でも、今日の成功が僕たちに自信を与えてくれました」


『どんな困難も、一緒なら乗り越えられるわね』


 遠くで、ゴールデンクロウとエリザベス王女が今後の協力計画について話し合っている声が聞こえてくる。

 フェルナンド王国での調和活動は大きな成果を上げた。

 しかし、アルトの使命はまだ続く。

 より大きな試練が待つバルバロッサ帝国へ向けて、新たな旅立ちの準備が始まろうとしていた。


第28話 完

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