第22話:ダーククロウの陰謀
ダーククロウとの初遭遇から一週間が過ぎた。王都の調和事務局では、各地からの緊急報告が相次いでいた。
暗黒魔法による妨害工作は、予想以上に広範囲で組織的に行われていることが明らかになってきた。
「アルト様、状況が深刻です」
エミリーが青ざめた顔で次々と報告書を並べる。
「東部では水竜との治水事業が何者かの呪いで停止、南部では火竜協力の鍛冶場で原因不明の火災、西部では地竜との合同建築現場で謎の地盤沈下...全て一晩で起きました」
アルトは資料を見詰めながら、事態の深刻さを実感していた。
「組織的すぎます。ダーククロウには相当な手下がいるようですね」
『それに』
セレスが心配そうに羽を震わせる。
『各地の竜族から不安の声が届いているわ。人間との協力を恐れ始めている者も出てきている』
その時、マーカス院長が慌てた様子で事務局に駆け込んできた。
「アルト君、大変なことになった!」
「何が起こったんですか?」
「王宮で緊急会議が招集された。一部の貴族たちが、竜族との協力政策の見直しを求めているのだ」
アルトの表情が険しくなる。
「ダーククロウの狙いは、妨害工作で人々の不安を煽り、調和政策を内部から崩壊させることですね」
「その通りだ。実に巧妙な作戦だ」
王宮の大会議室では、既に多くの貴族や重臣が集まっていた。
アルバート王も重々しい表情で議長席に座っている。
「諸君、緊急事態について話し合いたい」
王の開会宣言と共に、議論が始まった。
「陛下、竜族との協力は危険すぎます」
東部領主のバロン・ハロルドが立ち上がる。
「各地で起きている事故は、明らかに竜族の力に関連しています」
「そうです!」
南部領主も同調する。
「火竜の炎で鍛冶場が燃え、地竜の力で建物が崩壊している。これは偶然ではありません」
ざわめく議場の中、アルトが静かに立ち上がった。
「皆様、それらの事故は暗黒魔法による妨害工作です」
「暗黒魔法?」
「はい。ダーククロウという組織が、意図的に調和を破綻させようとしています」
しかし、バロン・ハロルドは納得しない。
「それはあなたの憶測でしょう。証拠がありますか?」
「証拠なら...」
その時、会議室の扉が開いて、ゼノビア宮廷魔術師長が入ってきた。
「陛下、重要な報告があります」
「どうした、ゼノビア?」
「各地の事故現場を魔法で調査した結果、全てに暗黒魔法の痕跡が発見されました」
ゼノビアが魔法で証拠の映像を空中に映し出す。
事故現場に残る暗黒の魔法陣や、呪いの痕跡が鮮明に映し出された。
「これは...」
貴族たちがざわめく。
「間違いなく人為的な妨害工作です」
「では、犯人は誰だ?」
王が質問すると、アルトが答える。
「ダーククロウという名前の暗黒魔法使いが率いる組織です。彼らは人間と竜族の分離を目的としています」
「なぜそのような組織が?」
「古い価値観に固執し、変化を恐れているのでしょう」
この時、会議室に異変が起きた。
突然、室内の温度が下がり、不気味な暗闇が広がる。
「何事だ?」
窓の外に、黒いローブの人影が複数浮かんでいた。
ダーククロウの一団だった。
『ついに見つけたぞ、調和者よ』
ダーククロウの声が室内に響く。
『貴様の偽りの平和を、今ここで終わらせてやる』
「警備兵を!」
王が叫ぶが、暗黒魔法により兵士たちは動けない状態になっていた。
『無駄だ。今日こそ、真実を見せてやろう』
ダーククロウが呪文を唱えると、室内に巨大な魔法陣が出現した。
『「分離の儀式」を開始する。ここにいる全ての者に、竜族への恐怖を植え付けてやる』
魔法陣から黒い霧が立ち上り、それに触れた人々の目が恐怖で見開かれる。
彼らの心に、竜族への根深い恐怖と憎悪が植え付けられているのだ。
「やめろ!」
アルトが竜心石を握って光の魔法を放つが、暗黒魔法の力は予想以上に強かった。
『遅い!既に半数の者が我が魔法にかかった』
確かに、バロン・ハロルドをはじめとする多くの貴族の表情が変わっていた。
竜族への嫌悪と恐怖で歪んでいる。
『セレス!』
アルトがセレスに助けを求めようとしたその時、ダーククロウの部下が彼女に向かって暗黒の矢を放った。
「セレス!」
アルトが身を挺してセレスを守る。
暗黒の矢は彼の肩に当たり、激痛が走った。
『アルト!』
セレスが必死にアルトを支える。
『大丈夫?』
「平気です...でも、このままでは...」
暗黒魔法は着実に広がり、会議室の大部分の人々が恐怖に支配されつつあった。
『見よ、これが現実だ』
ダーククロウが勝ち誇る。
『人間と竜族は相容れない存在。恐怖こそが自然の摂理だ』
しかし、その時、会議室の扉が勢いよく開いた。
ガーディアン・マグナス、ゼファー、そしてレッドクローが駆けつけてきたのだ。
『主君!』
ガーディアンが聖なる剣で暗黒魔法を切り裂く。
『私たちも来たわよ』
ゼファーと共に、他の竜族たちも続々と現れた。サイラス、ルナ、オーラ、そしてロックハンマーまで。
『調和者を守る!』
竜族たちが一斉に魔法を放ち、暗黒の霧を押し返していく。
「みんな...」
アルトが感動で目を潤ませる。
「どうしてここに?」
『セレスから緊急連絡を受けたのよ』
ルナが説明する。
『私たちは家族。困った時は助け合うもの』
『それに』
レッドクローが誇らしげに胸を張る。
『我らの友である調和者を、暗闇の手先から守るのは当然だ』
竜族たちの力により、暗黒魔法は徐々に弱くなっていく。
魔法にかかった人々も正気を取り戻し始めた。
『くそ...こんなはずでは...』
ダーククロウが焦りを見せる。
『だが、まだ終わりではない』
彼が最後の手段として、禁断の呪文を唱え始めた。
『「絶望の召喚」...暗黒の王よ、この世に降臨せよ』
巨大な魔法陣が出現し、その中から恐ろしい影が立ち上がろうとする。
「暗黒の王?」
マーカス院長が青ざめる。
「そんな存在を呼び出すなど、正気の沙汰ではない」
しかし、アルトは立ち上がった。
肩の傷は痛むが、使命感が痛みに勝る。
「皆さん、力を貸してください」
『もちろんよ』
セレスが真っ先に応える。
『調和の力で、暗闇を払いましょう』
『我らも共に戦う』
竜族たちが一斉に同意する。
『人間の仲間よ』
サイラスが王と貴族たちに呼びかける。
『我らと共に、真の敵に立ち向かってくれ』
魔法にかかっていた恐怖が完全に消えた今、人々は竜族の真の姿を見ることができた。
敵ではなく、共に戦う仲間だということを。
「分かった」
アルバート王が立ち上がる。
「人間と竜族、力を合わせて戦おう」
バロン・ハロルドも剣を抜く。
「先ほどは失礼しました。共に戦わせていただきます」
人間と竜族が手を取り合って、暗黒の王の召喚を阻止しようとする。
アルトが中心となって、全員の力を一つにまとめていく。
「みんなの心を一つに!」
竜心石が眩しい光を放ち、それに応じて竜族たちの魔法が共鳴する。
人間たちも持てる力の全てを込めて、光の魔法を放った。
調和の光は暗黒魔法を圧倒し、召喚途中の暗黒の王を消し去った。
『ありえん...完全な調和の力だと...』
ダーククロウが信じられないという表情を見せる。
『人間と竜族がここまで結束するなど...』
「これが真の調和です」
アルトが言う。
「恐怖ではなく、信頼。分離ではなく、協力。それが僕たちの選んだ道です」
『まだ...まだ終わりではないぞ』
ダーククロウが捨て台詞を吐いて撤退しようとする。
しかし、その時、ゼノビア魔術師長が拘束魔法を発動した。
「逃がしません」
『何?』
「あなたたちの陰謀は全て暴かれました。観念しなさい」
ダーククロウとその部下たちは、王国軍によって捕縛された。
会議室に平和が戻ると、人々は改めて竜族たちを見つめた。恐怖ではなく、感謝と敬意の眼差しで。
「皆様」
王が厳粛に宣言する。
「今日の出来事で、真実が明らかになりました。竜族は我々の敵ではなく、最も頼れる同盟者です」
『光栄です、陛下』
サイラスが代表して応答する。
『これからも人間の皆様と協力し、平和な世界を築きたいと思います』
「調和政策を継続し、さらに強化しましょう」
バロン・ハロルドが提案する。
「私も全面的に支持いたします」
こうして、ダーククロウの陰謀は失敗に終わった。
しかし、この事件は人間と竜族の絆をさらに深める結果となった。
その夜、王宮の庭園でアルトは仲間たちと共に星空を見上げていた。
「今日は大変でしたね」
『でも、みんなが助けに来てくれて嬉しかった』
セレスが幸せそうに鳴く。
『本当の家族になれた気がする』
『そうじゃな』
レッドクローも満足そうだ。
『我らは今や、真の仲間だ』
「これからも、一緒に頑張りましょう」
アルトが皆を見回す。
「調和の道はまだ始まったばかりです」
星々が静かに瞬いて、彼らの未来を祝福しているようだった。
ダーククロウの脅威は去ったが、調和の使者としての使命は続いている。
新たな希望と共に、次なる冒険が待っていた。
第22話 完




