第19話:知恵の解決策
三日目の夕方、グリーンヴァレー村の中央広場に村人全員が集まった。
レッドクローも約束通り姿を現し、その巨大な体を広場の端に横たえている。
夕日が赤い鱗を照らし、まるで生きた炎のような美しさを放っていた。
「それでは、調和者の提案を聞こう」
村長が緊張した面持ちで言う。
村人たちの表情にも不安が色濃く表れている。
もしアルトの提案が受け入れられなければ、長年住み慣れた土地を離れなければならないのだから。
『さあ、人間の子よ』
レッドクローが重々しい声で促す。
『我を納得させる知恵があるか見せてみろ』
アルトは深呼吸してから、村人たちとレッドクローの両方を見渡した。
「皆さん、そしてレッドクロー。この問題の本質は土地の争いではありません」
『何?』
「本当の問題は、お互いを理解していないことです。レッドクローは村人たちから無視され、尊敬されていないと感じている。村人たちは火竜族の力を恐れ、対話を避けてきた」
アルトが一歩前に出る。
「僕の提案は『共生契約』です」
「共生契約?」
村長が首をかしげる。
「はい。レッドクロー、あなたにはこの村の守護竜になってもらいます。災害から村を守り、農作物の病気を予防し、時には遠くの街まで緊急の荷物や人を運ぶ。火竜の炎の力と飛行能力を、村の発展のために使ってもらうのです」
『面白い...続けろ』
レッドクローの瞳に興味の光が宿る。
「その代わりに、村人たちはあなたを村の守護神として敬い、毎年感謝祭を開きます。そして、村の収穫の一部をあなたへの献上品とします」
「献上品?」
「火竜は肉食ですが、時々甘い果物も好むと聞きました。村で採れる最高の果物や、特別に調理した肉料理を定期的に提供します」
村人たちがざわめき始めた。
「でも、それだけの負担に見合うのでしょうか?」
年配の農夫が心配そうに尋ねる。
「十分に見合います」
アルトが自信を持って答える。
「レッドクローの炎の力があれば、害虫や病気を完全に防げます。飛行能力があれば、隣町との交易が格段に早くなる。嵐や洪水の時も、事前に警告してもらえるでしょう」
『それに』
セレスが補足する。
『火竜族の知恵と経験は数百年に及びます。農業の改良方法も知っているはず』
レッドクローが誇らしげに胸を張る。
『その通りだ。我ら火竜は土の性質を見抜く力がある。どこにどんな作物を植えれば最も良く育つか、一目で分かる』
村人たちの表情が変わり始めた。
恐怖から期待に変わっていく。
「本当にそんなことが...」
「試してみましょう」
アルトが提案する。
「まず一週間、この契約を試行してみませんか?お互いに納得できれば正式契約に、問題があれば修正を加える」
『悪くない提案だな』
レッドクローが考え込む。
『だが、一つ条件がある』
「どのような?」
『我を単なる使い魔のように扱うのではない。対等なパートナーとして接することだ』
「もちろんです」
アルトが即座に答える。
「それが真の調和というものです」
村長が前に出て、深々と頭を下げた。
「レッドクロー様、長い間あなたの存在に気づかず、申し訳ありませんでした。これからは村の大切なパートナーとして、共に歩ませていただきたいです」
村人たちも一斉に頭を下げる。
『うむ...』
レッドクローが満足そうに頷く。
『その心意気、気に入った。ではまず、明日から試してみようではないか』
こうして、史上初の人間と竜族の共生契約が成立した。
翌日から、レッドクローと村人たちの協力が始まった。
まず、レッドクローが村の畑を上空から調査し、土の質や水はけを詳しく分析した。
『この区画は水が溜まりやすい』
『あの辺りは日当たりが良すぎて、葉物野菜には向かない』
『川沿いの土地は肥沃だが、洪水の危険がある』
レッドクローの助言により、村人たちは作物の配置を大幅に見直した。
また、火竜の炎の力で害虫を一掃し、病気の原因となる菌も除去した。
「素晴らしい...こんなに効果的だとは」
村長が感動している。
「作物の成長速度が明らかに違います」
一週間後、試行期間の評価会議が開かれた。
「レッドクロー様のおかげで、今年の収穫は例年の二倍になりそうです」
農夫たちが報告する。
「害虫の被害もゼロ、病気も発生していません」
『人間どもの働きぶりも悪くないな』
レッドクローも満足そうだ。
『特にこの果物は美味い。我が気に入った』
村人たちが用意したリンゴのパイを、レッドクローが美味しそうに食べている。
「それでは、正式な契約を結びましょう」
アルトが提案すると、全員が賛成した。
契約書は羊皮紙に竜語と人間の言葉の両方で記され、レッドクローの炎の印章と村長の署名で封印された。
『これで我も、正式にグリーンヴァレー村の一員だな』
レッドクローが嬉しそうに言う。
契約成立を祝って、村では盛大な祭りが開かれた。
人間と火竜が一緒に食事をし、歌い、踊る。
まさに調和の象徴のような光景だった。
「アルト様、本当にありがとうございました」
村長が感謝を込めて握手を求める。
「どちらも諦めずに話し合えば、必ず解決策は見つかります」
『素晴らしい知恵でした』
レッドクローもアルトに敬意を表する。
『調和者の名に恥じない見事な解決だった』
第19話 完




