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蒼き竜の継承者  作者: みなと劉


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第18話:最初の試練

調和宣言から一週間が過ぎた。

 王都アルデンでは人間と竜族の協力体制が急速に整えられていく一方で、各地からは様々な問題の報告が寄せられていた。

 アルトは王宮内に設けられた「調和事務局」で、連日寄せられる案件の対応に追われていた。


「アルト様、東部のグリーンヴァレー村から緊急の要請が届いています」


 事務局の書記官エミリーが、慌てた様子で報告書を持参した。

 エミリーは二十代前半の真面目な女性で、調和事務局の設立と共にアルトの秘書役を務めている。


「どのような内容ですか?」


「村に現れた火竜が、畑を焼いてしまったとのことです。村人たちは恐怖に陥っており、一刻も早い対応を求めています」


 アルトは眉をひそめた。

 火竜が農作物を焼くなど、あってはならないことだ。


『それは大変ね』


 セレスがアルトの机の上で心配そうに羽を震わせる。


『火竜の仲間に心当たりがあるかもしれないわ』


「詳しい状況は分かりますか?」


「村長からの報告によると、三日前から赤い鱗の大きな竜が村の上空に現れるようになり、昨日ついに畑に火を放ったとのことです」


 アルトは立ち上がった。


「すぐに現地に向かいます。セレス、準備を」


『もちろん』


 その時、事務局の扉が開いて、マーカス院長が入ってきた。


「アルト君、グリーンヴァレーの件だが、私も同行しよう」


「院長も?」


「実は、その火竜について気になる情報がある」


 マーカス院長が古い書類を取り出す。


「数年前にも同じような事件があった。その時も赤い鱗の火竜で、農作物に被害を与えた」


「同じ竜の可能性があるということですか?」


「その可能性が高い。しかも、その火竜は『レッドクロー』という名前で、かなり気性が荒いことで知られていた」


『レッドクロー...』


 セレスが記憶を探るような表情を見せる。


『確か、火竜族の中でも特に誇り高い一族の出身よ。でも、どうして農作物を?』


 一行は魔法馬車でグリーンヴァレー村に向かった。

 同行するのはアルト、セレス、マーカス院長、そしてガーディアン・マグナス。

 ガルムは王都に残って、他の案件の対応にあたることになった。


「火竜との交渉は難しいかもしれない」


 道中、マーカス院長が注意を促す。


「火竜族は竜族の中でも特にプライドが高く、人間を見下す傾向がある」


『でも、話し合えば分かってくれるはず』


 セレスが希望的に言う。


『みんな根は悪い竜じゃないもの』


 グリーンヴァレー村に到着すると、村人たちが不安そうに集まっていた。

 村長のトーマス・グリーンフィールドが一行を出迎える。


「調和者様、よくお越しくださいました」


 村長は六十代の温厚そうな男性だが、その表情には深い心配が刻まれている。


「被害の状況を教えてください」


「はい、こちらをご覧ください」


 村長に案内された畑は、無残に焼け焦げていた。

 小麦畑の半分以上が炭になっており、収穫を間近に控えていただけに、損失は甚大だった。


「これでは今年の収穫が...」


 村人の一人が絶望的な声を上げる。


『ひどいわ』


 セレスが悲しそうに焼け跡を見つめる。


『どうしてこんなことを...』


 その時、空から低い唸り声が聞こえてきた。

 見上げると、赤い鱗の巨大な火竜が村の上空を旋回している。


「あれがレッドクローか」


 レッドクローは体長が十メートルほどある立派な成竜で、深紅の鱗が太陽の光を反射して炎のように輝いている。

 しかし、その飛び方は明らかに威嚇的だった。


『降りてくる気配がないわね』


「話しかけてみましょう」


 アルトが竜心石を握って、テレパシーでレッドクローに呼びかけた。


「レッドクロー、私は調和者のアルト・ウィンドブレイカーです。話し合いませんか?」


 しばらく沈黙があった後、レッドクローの声が響いた。


『調和者だと?笑わせるな、人間の子よ』


 その声は怒りと軽蔑に満ちていた。


『我ら火竜族に指図する気か?』


「指図ではありません。なぜ畑を焼いたのか、理由を聞かせてください」


『理由?』


 レッドクローが激しく鳴く。


『この村の人間どもが、我が縄張りに侵入したからだ!』


「縄張り?」


 村長が困惑した表情を見せる。


「この土地は代々我々が耕してきた土地です」


『嘘をつくな!』


 レッドクローが空中で炎を噴く。


『この一帯は古来より火竜族の狩場だった。人間風情が勝手に畑を作るなど許さん!』


 アルトは状況を理解し始めた。これは単なる破壊行為ではなく、縄張り争いだったのだ。


「マーカス院長、古い地図はありますか?」


「あるが...」


 マーカス院長が魔法で古代の地図を空中に映し出すと、確かにグリーンヴァレー一帯は火竜族の生息地として記録されていた。


「本当に火竜の縄張りだったんですね」


『だから言っただろう』


 レッドクローが勝ち誇ったように言う。

 しかし、村長も引き下がらない。


「それでも、我々は百年以上この土地で農業を営んできました。今更立ち退けというのは無茶です」


『知るか!我らが先だ!』


 話し合いは平行線をたどった。

 レッドクローは火竜族の古い権利を主張し、村人たちは長年の生活の権利を訴える。


『アルト、どうする?』


 セレスが困ったような表情を見せる。


『両方とも間違ってないみたい』


 アルトは深く考えた。

 これが調和者としての最初の本格的な試練なのかもしれない。


「レッドクロー、少し時間をもらえませんか?解決策を考えたいのです」


『時間の無駄だ。人間どもは立ち退くか、焼かれるかのどちらかだ』


「待ってください」


 アルトが強い意志を込めて言う。


「あなたは火竜族の誇りを大切にしていますね」


『当然だ』


「それなら、真の強者らしく、知恵比べをしませんか?」


 レッドクローの動きが止まる。


『知恵比べだと?』


「はい。もし僕が三日以内に、あなたと村人たちの両方が納得できる解決策を提示できたら、それに従ってもらえませんか?」


『面白い...』


 レッドクローがゆっくりと降下してくる。


『では、その知恵比べ、受けて立とう。だが、失敗したら村人どもは立ち退くことだ』


「分かりました」


 村人たちが不安そうにざわめくが、アルトは自信を持って頷いた。

 レッドクローが着陸すると、その巨大さがより際立った。

 近くで見ると、美しい竜だということが分かる。

 鱗の一つ一つが宝石のように輝き、炎の魔法の力が体全体から感じられる。


『三日後の日没までだ』


 レッドクローが条件を確認する。


『それまでに満足のいく答えを出せなければ、二度とこの土地に人間は住めなくなる』


 その夜、村の集会所でアルトたちは対策を練った。


「難しい問題ですね」


 マーカス院長が頭を抱える。


「法的には、古い権利が優先される可能性が高い」


「でも、村人たちの生活もある」


 アルトが資料を見直しながら呟く。


「何か両立できる方法があるはずです」


『アルト』


 セレスが思案顔で言う。


『火竜族が本当に欲しいのは何だと思う?』


「縄張り...でしょうか?」


『もっと根本的なことよ。尊敬と承認よ』


 セレスの言葉にアルトがハッとした。


「そうか...レッドクローは村人たちに無視されて、誇りを傷つけられたと感じているのかもしれない」


 翌日、アルトは村人たちと詳しく話し合った。


「レッドクローや火竜族と、何か交流はありましたか?」


「いえ...竜が現れると皆逃げてしまって...」


 村長が申し訳なさそうに答える。


「話しかけようとした人はいませんか?」


「竜と話すなんて、考えもしませんでした」


 アルトは解決策の糸口を見つけた気がした。

 二日目、アルトはレッドクローに再び会いに行った。


「レッドクロー、一つ質問があります」


『何だ』


「あなたは村人たちと友好的な関係を築きたいと思いませんか?」


『何を馬鹿な...』


「畑を守り、村を守る守護竜として、村人たちに感謝され、尊敬される立場になれば、あなたの誇りも満たされるのでは?」


 レッドクローが黙り込む。


『続けろ』


「村人たちも、火竜族の力と知恵を学べば、より豊かな生活ができるはずです」


 アルトの提案に、レッドクローの瞳に新しい光が宿り始めた。


 三日目の夕方、ついに最終的な提案の時が来た。


第18話 完



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