第17話:調和の宣言
王都の危機が去った翌日、王宮の大広間では緊急会議が開かれていた。
エルドラン王国の王、アルバート三世をはじめ、各地の領主、魔法学院の幹部、そして軍の指揮官たちが集まっている。
「皆の者、昨日の事件について報告がある」
アルバート王は五十代の威厳ある男性で、長年の統治で培われた風格を持っていた。
しかし、今回の魔法暴走事件は、王にとっても前例のない危機だった。
「魔法学院長のマーカス、詳しい説明を」
「はい、陛下」
マーカス院長が前に出て、昨日の出来事を詳細に報告した。忘却の霧の消失、古代魔法装置の暴走、そして竜語りアルトによる解決まで。
「竜語りが実在していたとは...」
王の表情に驚きが浮かぶ。
「そして、竜族も復活しているのか」
「はい。既に各地で竜族の目撃報告が相次いでいます」
報告を聞いていた貴族たちがざわめき始めた。
「竜族が戻ってきたとなると、我々はどう対処すべきでしょうか?」
「彼らは危険な存在なのでは?」
不安の声が上がる中、アルトが会議室に案内された。
セレスは彼の肩に止まり、ガルムとガーディアン・マグナスも同行している。
「陛下、竜語りのアルト・ウィンドブレイカーをお連れしました」
「おお...これが伝説の竜語りか」
王がアルトを見つめる。
その瞳には興味と、そして少しの警戒心が混じっていた。
「アルト・ウィンドブレイカー、昨日は王都を救ってくれてありがとう」
「恐れ入ります、陛下」
アルトが丁寧に礼をする。
「ただ、僕は一人で成し遂げたわけではありません。仲間たちの協力があってこそです」
王の視線がセレスに向けられる。
「これが蒼竜か...美しい存在だな」
『光栄です、陛下』
セレスがテレパシーで応答すると、会議室がさらにざわめいた。
「竜が...話しているのか?」
「テレパシーです」
アルトが説明する。
「竜族は高い知性を持っており、人間と同等以上の思考力があります」
王が興味深そうに身を乗り出す。
「では、竜族との外交も可能ということか?」
「もちろんです。実際、古代においては人間と竜族は協力関係にありました」
この時、会議室の扉が開いて、一人の老人が入ってきた。
宮廷魔術師長のゼノビア・ワイズマンだった。
「陛下、失礼いたします」
ゼノビアは七十歳を超える老女だが、その瞳には鋭い知性の光が宿っている。長年の研究で蓄積された知識は、王国でも随一だった。
「ゼノビア、どうした?」
「竜語りの件で、重要な情報があります」
ゼノビアがアルトを見つめる。
「あなたが持っている竜心石...それは古代の預言書に記されている『調和の石』ですね」
「調和の石?」
「そうです。『調和の石を持つ者現れし時、人と竜の絆再び結ばれん』という預言があります」
会議室が静寂に包まれた。
「つまり、アルト君は預言の子だということか?」
王が確認する。
「その可能性が高いと思われます」
ゼノビアが古い書物を開く。
「預言によれば、調和者は新しい時代の指導者となり、人間と竜族の平和を築くとされています」
貴族たちの間で議論が始まった。
「しかし、若すぎるのでは?」
「本当に信頼できるのか?」
「竜族を制御できるのか?」
様々な意見が飛び交う中、アルトが静かに立ち上がった。
「皆さん」
会議室が静まり返る。
「僕は確かに竜語りですが、竜族を制御するつもりはありません」
「何?」
「竜族は制御される存在ではなく、対等なパートナーです。僕たちが目指すのは、支配ではなく調和です」
アルトの言葉に、セレスが嬉しそうに鳴く。
『その通りよ、アルト』
「では、具体的にはどのような関係を?」
王が質問する。
「人間と竜族が協力し合い、それぞれの長所を活かして共に発展していく関係です」
アルトが熱意を込めて説明する。
「竜族は魔法と知恵に長けています。人間は技術と創造力に優れています。両者が力を合わせれば、今までにない素晴らしい世界を作れるはずです」
『私たちも同じ気持ちです』
その時、窓の外から美しい鳴き声が聞こえてきた。
ゼファーが他の竜族と共に王宮上空を飛行している。
「あれは...」
王と貴族たちが窓に駆け寄る。
空には十数頭の様々な竜族が飛んでいた。
火竜、水竜、風竜、地竜。
それぞれが美しい鱗を輝かせながら、優雅に舞っている。
『皆さんも話し合いに参加したがっています』
セレスが説明する。
「竜族と直接交渉を?」
王が驚く。
「可能です。僕が通訳いたします」
アルトが申し出ると、王は少し迷った後、頷いた。
「分かった。史上初の人竜外交を行おう」
大広間のテラスで、人間側と竜族側の代表者会議が開かれた。
人間側は王、マーカス院長、ゼノビア、そして数名の重臣。竜族側はゼファー、サイラス、ルナ、オーラ、そして他の竜族の長老たち。
アルトが両者の通訳を務めながら、歴史的な交渉が始まった。
『我々竜族は、人間との平和的な関係を望んでいます』
サイラスが代表して挨拶する。
「我々も同様です。しかし、お互いのことをよく知らないのが現状です」
王が率直に答える。
『それでは、まずお互いを理解することから始めましょう』
ルナが提案する。
『私たちは治癒の魔法で人々を助けることができます』
「我々は技術や知識を提供できます」
交渉は順調に進み、基本的な協力協定が結ばれることになった。
「では、正式な同盟条約を作成しましょう」
王が宣言する。
「アルト君、君にはその仲裁者として活動してもらいたい」
「僕でよろしいのでしょうか?」
「君以外にはできない役割だ」
その日の夕方、王都の中央広場で歴史的な宣言が行われた。
何千人もの市民が集まり、空には竜族たちが飛行している。
「国民よ!」
王が高台から声を上げる。
「今日、我がエルドラン王国は新しい時代を迎えた!人間と竜族の調和の時代である!」
民衆から大きな歓声が上がる。
「この新時代の調和者として、竜語りアルト・ウィンドブレイカーを任命する!」
アルトが王の隣に立つと、さらに大きな歓声が響いた。
「皆さん!」
アルトが群衆に向かって語りかける。
「僕たちは今、歴史の転換点に立っています。人間と竜族が手を取り合い、より良い未来を作る時代の始まりです!」
『一緒に頑張りましょう!』
セレスも美しい声で鳴く。
空を飛ぶ竜族たちも、それぞれの声で応答した。人間と竜族が一つになった瞬間だった。
その夜、アルトは王宮の庭園でセレスと共に星空を見上げていた。
「すごい一日だったね」
『本当に。まるで夢みたい』
「でも、これからが本当の始まりだ」
『そうね。調和者として、まだまだやることがたくさんある』
「君がいてくれるから頑張れる」
『私もよ。アルトがいるから勇気が出る』
北の空で青い星が特に明るく輝いていた。それは新しい時代の始まりを祝福しているようだった。
調和の使者としての新たな冒険が、今始まろうとしていた。
第17話 完




