第13話:王都への道
翌朝の夜明けと共に、アルトたちは王都アルデンへの旅路についた。
マーカス院長が用意した馬車は、魔法で強化された特別製で、通常の三倍の速度で走ることができる。
御者台には院長の助手である若い魔法使いエリック・フレイムハートが座り、熟練した手綱さばきで馬を操っている。
「この馬車なら、三日で王都に到着できる」
マーカス院長が馬車の中で地図を広げながら説明した。
「通常なら一週間はかかる道のりだが、緊急事態だからな」
馬車の中には、アルト、ガルム、マーカス院長、そしてセレスがいた。
ゼファーは上空を飛行して護衛についている。
『アルト、下の景色がどんどん変わっていくわね』
セレスが窓から外を眺めながらテレパシーで話しかける。
確かに、風の谷の牧歌的な風景から、次第に大きな町や城砦が見えるようになってきた。街道沿いには商人の隊商が行き交い、活気に満ちている。
「これが外の世界なんですね」
「そうだ。エルドラン王国は広大で、多様な地域がある。君の村は辺境だが、それぞれに特色のある美しい場所だ」
マーカス院長が親切に説明してくれる。
「ところで、君の竜語りとしての能力はどの程度まで開花しているのかね?」
「正直、まだよく分からないんです」
アルトは正直に答えた。
「セレスとのテレパシーと、竜心石を使った魔法くらいで...」
「竜心石?見せてもらえるかな?」
アルトが胸元から竜心石を取り出すと、マーカス院長の目が驚きで大きく開かれた。
「これは...完全体の竜心石ではないか」
「完全体?」
「通常の竜心石は、もっと小さく、光も弱い。しかし、これは...まさに伝説級の石だ」
マーカス院長が興奮気味に石を調べる。
「君の父上は、本当に特別な竜語りだったのだな」
その時、馬車が急に揺れた。
エリックが何かに驚いて手綱を引いたのだ。
「院長!前方に魔法陣が出現しています!」
窓から外を見ると、街道の真ん中に巨大な光の円が浮かんでいた。
古代文字で構成された複雑な魔法陣で、不安定に明滅している。
「これも霧の消失の影響か...」
マーカス院長が眉をひそめる。
「エリック、迂回できるか?」
「無理です。魔法陣が道全体を覆っています」
『上空から見ても、とても大きな魔法陣よ』
ゼファーが降下してきて報告する。
『しかも、何かを召喚しようとしているみたい』
「召喚魔法?」
アルトが竜心石を握ると、石が反応して光り始めた。
「この魔法陣...何かが僕を呼んでいるような気がします」
「危険だ。古代の召喚魔法は予測不能な結果をもたらす」
しかし、魔法陣はますます強く光り、ついに何かが現れ始めた。
光の中から姿を現したのは...巨大な石の騎士だった。
「ストーンゴーレムか」
マーカス院長が身構える。
石の騎士は高さが三メートルほどあり、古い鎧を身に着けている。
しかし、敵意は感じられない。むしろ、困惑しているような様子だった。
『我は...我はどこにいるのだ?』
石の騎士がゆっくりと話し始めた。
「あなたは誰ですか?」
アルトが勇気を出して声をかける。
『我の名はガーディアン・マグナス。古代エルドラン王国の守護騎士なり』
「古代王国の?それなら、もう千年以上前の...」
『千年?』
ガーディアン・マグナスが驚いたような声を上げる。
『我が最後に記憶しているのは、忘却の霧との戦いじゃった。それがもう千年も...』
マーカス院長が興味深そうに前に出た。
「君は忘却の霧と戦っていたのか?」
『そうじゃ。我々守護騎士団は、霧から王国を守るために最後まで戦った。しかし...』
ガーディアンの声が悲しみに沈む。
『力及ばず、我も封印の眠りについてしまった』
「でも今、霧は消えました」
アルトが希望を込めて言う。
「僕たちが霧の源を断ったんです」
『本当か?』
ガーディアンの石の瞳が光る。
『ならば、我が長き務めもついに果たされたのだな』
しかし、その時、空が急に暗くなった。
黒い雲が空を覆い、不吉な雷鳴が響く。
『これは...』
ゼファーが警戒の声を上げる。
『魔力の嵐よ。とても危険な現象』
「魔力の嵐?」
マーカス院長が慌てて魔法の本を開く。
「古代魔法の暴走によって起きる現象だ。この辺り一帯が危険に晒される」
『我に任せよ』
ガーディアン・マグナスが立ち上がる。
『守護騎士として、人々を守るのが我が使命』
ガーディアンが剣を抜くと、剣身に古代の守護魔法が宿った。
空に向かって剣を掲げると、美しい光の障壁が展開される。
魔力の嵐の雷がガーディアンの障壁に当たり、安全に分散されていく。
『素晴らしい魔法だ』
セレスが感嘆の声を上げる。
『あれが古代の守護魔法なのね』
しかし、嵐は想像以上に激しく、ガーディアン一人では支えきれそうにない。
「僕も手伝います」
アルトが竜心石を握りしめる。
「セレス、一緒に!」
『もちろん!』
竜語りと蒼竜の力が合わさり、ガーディアンの守護魔法を強化する。
三つの力が共鳴して、より強固な防壁を作り上げた。
『これは...竜語りの力か』
ガーディアンが驚く。
『千年前にも、このような力を持つ者がいた』
「もしかして、僕の先祖かもしれません」
『そうかもしれんな。血は争えぬものじゃ』
協力のおかげで、魔力の嵐は無事に防がれた。
空が再び青く晴れ渡ると、ガーディアンは深々と頭を下げた。
『ありがとう、若き竜語りよ。そして蒼竜よ』
『お疲れさまでした、ガーディアン・マグナス』
「これからどうされるんですか?」
『我が守るべき古代王国はもうない。しかし...』
ガーディアンがアルトを見つめる。
『もし許されるなら、新しい時代の守護者として仕えさせてもらえないだろうか』
「僕に仕える?」
『竜語りこそ、この時代の真の王者じゃ。我はその盾となって、人々を守りたい』
マーカス院長が感慨深げに頷く。
「素晴らしい申し出だ。アルト君、古代の守護騎士が仲間になってくれるなど、滅多にないことだぞ」
アルトは迷った。
自分にそんな大それた役割が務まるだろうか。
『アルト』
セレスが励ますように言う。
『あなたなら大丈夫。私たちがついているもの』
「分かりました。ガーディアン・マグナス、よろしくお願いします」
『こちらこそ。主君よ』
ガーディアンが騎士の礼で応える。
こうして、アルトの仲間にまた一人、強力な味方が加わった。
しかし、魔力の嵐の発生は、王都の状況がさらに悪化していることを意味していた。
「急がねばならんな」
マーカス院長が馬車への乗車を促す。
ガーディアンは大きすぎて馬車に乗れないため、徒歩で併走することになった。
しかし、石の騎士の脚力は馬にも負けず、楽々とついてくる。
『主君、前方に大きな町が見えます』
「あれがミドルタウンですね」
マーカス院長が地図を確認する。
「王都まであと二日の距離だ。ここで一泊して、情報を収集しよう」
夕方、一行はミドルタウンに到着した。
しかし、町の様子がおかしい。人々が慌ただしく荷物をまとめ、避難の準備をしている。
「何があったんでしょう?」
宿屋の主人に尋ねると、深刻な表情で答えが返ってきた。
「王都から避難命令が出ているんです。古代の魔法装置が暴走して、都市機能が麻痺しているとか...」
アルトたちの表情が険しくなった。
事態は予想以上に深刻だったのだ。
第13話 完




