098 エンディングに向けて
「これはバグだと思うか?と俺に聞かれましても?」
システム室からモニターを通してブランやタクトの行動を見ていたヨウキは、同じモニターを見ていたアオバとシキにサポートキャラのロック設定についてどう思うかを聞き、そしてアオバから帰ってきた答えがこれだった。
アオバは、ヨウキに答えながらメガネのブリッジを中指で押し上げた。
「サポートキャラに対して攻略アイテムが有効であることについては、別設定になります。」
シキを挟んで隣に座るアオバを覗き込んだヨウキの視線は、メガネにあてているアオバの手にとまった。
「んっ、そうなのか?
受け付けないと言うロック設定をオンにしたからと言って、すべてが無効になる訳では無いのか。」
「タクトさんは、ロック設定の先の動作、それをわかっていたから試してみたいと思ったんですよ。
試した結果、問題が発見された、と言うことですね。」
ロックがオン設定である為、サポートキャラは攻略アイテムを拒否した。
ということはロック設定は正常に機能しているということになり、これは不具合ではない。
問題は、攻略アイテムを拒否したにもかかわらず受け付けざるを得なくなった時、サポートキャラが態度を急変させることだ。
「そうだな、俺もタクトは分かってやったと思う。
この問題対処には、サポートキャラの攻略アイテムに対する設定、効果に対する設定を追加する必要がある。
ロック設定が1で有効な時、アイテム効果設定は0として無効にすれば問題のサポートキャラの急変はなくなる。
だからそのアイテム効果設定を追加すればいい。」
「現在は、ロック設定が0つまりオフで、サポートキャラにアイテムが入った状態、つまり値が1となった時、次は好感度パーセント上昇率の計算をし、アイテムを与えた相手への好感度としてその値を返しています。
シキさんが言われているのは、ロック設定が1のとき、この好感度の計算を無効とする設定を実装するということです。」
「なるほど?」
「仕様不具合とするなら追加実装となりますが、無理やり、または偶然にでも攻略アイテムがサポートキャラ内に入った結果、現状維持でいいとするなら仕様ということになりますね。」
腕を組んで背もたれに背中を預けたヨウキは、2人がどう判断するのかと思い念のために聞いてみることにした。
「実装する、か、しない、か、どちらがいいと思う?」
「「どちらでも?」」
2人の答えはヨウキが予想した通りのものだった。
「まあ、そう言うよね。
でも、安全のためにロック設定を有効にしてAI任せにしているのだから、それが無駄になる方法があるのなら、安心はできないということで、ユーザーからしたらそれは不具合だよね。」
シキとアオバはヨウキの説明が腑に落ちたようで、頷き合っている。
「と、いうことで、タクトも俺と同じ意見だと思うから、戻ってきたら聞いてみるよ。」
そのタクトは、サポートキャラやAIヨウキたちと、獰猛さを取り戻た動物モンスターたちを躱して牧場から抜け出し、元ヨウキテリトリーの起点の城近くの紫陽花園に来ていた。
ブランは霧の中に消えて、まだ帰ってきていない。
「これ、どう思う?」
円状に植えられた花壇の間を歩くAIヨウキに聞かれ、並走して飛んでいるタクトがAIヨウキの視線を追うと、1つの株から延びる茎に異なる色の花を咲かせている紫陽花があった。
「この紫陽花ですか?
青、赤、紫、それを囲む緑の葉、とても奇麗だと思いますよ?
リアルでは同じ株に違う色の花が咲くことは無いですけど、これもいいと思います。」
ふとシキのことを思い出したタクトが笑みを浮かべると、AIヨウキは眉の下がった笑みを浮かべた。
「うん、昔、雨のあたる紫陽花を見ていた小さいシキが、奇麗だって笑ってたんだ。
小さいころからあまり笑わない子だったから。
ただ、それだけのことだったんだけど、何かあると、今でもあの笑顔を思い出す。
そこには紫の紫陽花は無かったんだよね、残念ながら。」
「・・・・・」
「ケケケケッ、ワタクシも見てみたいです。
シキ様の小さい頃の笑顔。」
うっとりとするカーラだが、恐らく思い浮かべているのは、ミニサソリの笑顔だろう。
「ボクは、ほとんどあったことが無いのに、ずるいよね。」
「そうですね、私など一番最後に攻略されましたからね。
ここに来られていることさえ知りませんでした。」
「ケッ、どうせ、別のゲームで呼ばれることもあるだろ。
俺はどうもそうだったらしいしな。」
ドヤ顔のヒフミヨイを他のサポートキャラがジト目で見つめると、AIヨウキが白いフクロウを見て呟いた。
「ん?そう言えばフクロウもそうじゃないかな?」
「えっ?そうなのですか?」
AIヨウキがフクロウを見て目を細めると、?を頭に浮かべた。
「たぶん?向こうはもっと小さい体だったと思うし、種類も違うようだけど、既存ゲームのテスト中に白いフクロウを使ってたな。」
「あー、元主と私は、もしかしたら一部のデータは再会した間柄だったのかも知れないですね。」
満足そうに羽で胸を撫でるフクロウに、カーラとペガサスが羨望の眼差しを向けているように見える。
「いや、ほら、ココアが前回選んだのは俺とキャラ被りしたヒヨコだったし、セツキさんは初参加だったし?
どちらにしろ、これからたくさんのユーザーに選択されていくから。」
「タクト様、心配されているのですね。
ケケケケッ、有難うございます。
心配していただけて、それだけで満足ですよ。」
カーラがさらにケケケケッと笑っていると、地面の上に冷たい風が流れ込んできた。
「お、やっと真ボスが戻ってきたようだ、ケッ。
エンディングにすぐ行くのか?」
薄っすらと霧が立ち込めてきたのに気づいたヒフミヨイが辺りを見回し1点に目を止めると、他のサポートキャラたちもその視線の先で目を止めた。
「そうだな、エンディングに行かないとな。」
霧はすぐに足元が見えなくなるほど濃くなり紫陽花園を包みこんだが、まただんだんと薄くなる。
霧が晴れゲームスタート時の15歳くらいの姿で現れたブランは、グレーの瞳でタクトを見つけるといたずらな笑みを浮かべた。
ブランの笑みに魅了され言葉を無くしたタクトとサポートキャラたち。
「戻ってきたよ。」
走ってきたブランに抱きしめられて、タクトはやっと言葉を返した。
「う、ん、おかえり。」
続いて我に返ったサポートキャラたちもブランの周りに集まり、各々が我先にと声をかけ始めた。
「お待ちしておりました、主。」
「真ボス、早かったな、ケッ。」
「ワタクシ、マスターのお戻りを心からお喜びいたします。」
「ボス、どうだった?プププッ。
全部記憶戻って嬉しい?」
「うん、嬉しい。
これでやっと、俺の世界に戻れるんだ。」
「やはり、主とはかなり短いご縁でしたか。
残念ですが、私はこのエンディングに満足しております。」
AIヨウキに向かってフクロウが羽ばたきを送ると、AIヨウキも手を振って返していた。
「ケッ、それじゃ、さっさと行っちまおうぜ。」
「この世界の原点ですね。
ワタクシたちは場所を存じませんが、しっかりついて行かせていただきます。」
「プププ、ボクたちもそこで最後の役割を果たさなくっちゃね。」
サポートキャラたちはお互いに目配せをして頷くと、一斉に空中に舞い上がった。
自慢の奇麗な尻尾を揺らし優雅に舞うヒフミヨイ、小さな羽と手足をパタパタと忙しく動かしつつも丁寧な軌道を飛ぶカーラ、白い羽で静かに飛ぶ姿に神秘的さ醸し出すフクロウ、天を駆け荘厳な雰囲気を感じさせるペガサス。
サポートキャラたちそれぞれの4つの水鏡が出来上がると、その中に各テリトリーにいる女神たちの姿が映った。
「すべてのテリトリーの攻略おめでとう。
こんなに早く攻略するなんて、思いもしなかったわ。」
「まあ、ハズレボスを引いた私はほとんど何もすることが無かったので暇だったんだけど。」
「私も似たようなものね、ルールブックがテリトリーボスになったようなものだから。」
「私のテリトリーボスはこの世界に来たのはほんのちょっとの時間だったわ。」
「「「「その分女神ネットワークでお茶会三昧でたのしかったから、良しとしましょう。」」」」
女神たちは色々と不満はあるようだが、納得はしているようだ。
水鏡の向こうで女神たちが説明書を片手で持ち上げるとそれが錫杖に変わり、一斉に錫杖を振って音を鳴らした。
音の鳴った錫杖は光を発し、そのまま城の外に長く伸びていく。
「あ、あれ見てください。
空の上、飛行機雲?違う白い光?」
「本当だ。
どこに向かって伸びて?」
各テリトリーの起点の城から、一斉に白い光が弧を描いて延びていく様が、モブのログインポイントにいたIDプレイヤーたちに目撃された。
それらはもちろん、女神の錫杖から延びた光だ。
女神たちは水鏡の反対側にいるブランに向かってウィンクを飛ばすと、光の延びる錫杖を足元に突き立てた。
「それじゃ、先に行ってるわね。」
「原点で待ってるわ。」
「この世界でやり残したことがあったら、全部済ませてきてね。」
「何もなくても、帰りたくなるまで遊んできていいから。」
錫杖から延びる光に手を添えた女神たちが光の中に消えていくと、水鏡は揺らぎ徐々にその姿を薄くしていった。
女神がいなくなり消えていく鏡を見つめるブランに、最後に女神が言ったことをタクトは確認してみる。
「女神たちが言ってたように、何かやり残したこと、、、はないか。
でも、行ってみたいところがあれば、行こう?
すべての攻略が終わって、女神たちも移動したからエンディングに入りかけている。
今はもう、サポートキャラたちが奪われる心配もない。
誰にも、邪魔はされないよ?」
タクトはブランの腕をすり抜けて肩にとまり直すと、目の前にマップをオープンさせたが、ブランは首を振った。
「まだ、行っていないところは沢山あると思うけど、俺が一番行きたいのは母さんや友だち、仲間がいるところだ。
だから、帰るよ。
帰る前にやるとしたら挨拶くらいだけど、今はチャナやココアさんたちAIだし。
マップ上でもAUTOって文字が見えるのは、これもチート設定ってやつなのかな?」
「ハハハッ、たぶんね。
セツキさんは、時間超過のペナルティ中でログインは無理だけど?
何故かAIもいないみたいだな?」
タクトがAIヨウキの方を向くと、肩をすくめている。
理由は知らないらしい。
「じゃあ、遺跡の森に行こうか。
遺跡からこの世界の原点に向かって、元いた場所で女神たちがブランの帰路を準備してくれてるよ。」
「原点、あの山小屋?
タクトが卵から孵った場所だ。」
その時のことを思い出したのか、ブランはくすくすと笑いだし、瞳を閉じると肩にとまっているタクトに頬を寄せた。
「あったかい。」
肩に乗るヒヨコのフワフワの羽は視界が近すぎて視界をぼやけさせる。
そんなあやふやさにを視線を逸らしたブランは、言い難そうに口を開いた。
「もし、もしも出来るなら、俺、リアルタクトの姿を見てみたい。」




