097 最後のテリトリー 霧の中
タクトとブランが話しているちょっとした間に、翼をパタつかせた牛モドキたちが波のように押し寄せ、あっという間にAIヨウキと白いフクロウを牧場の中央まで流してしまった。
「牛に押されてっていうのもどうかと思うが、タイミングよく距離を取れてよかった。
リアルヨウキが、サポートキャラに自分の攻略アイテムを主人公に教えさせたときは、即負け確定かと思ったけど。
その後、ロック機能が付加されたから、何の問題も無くなった。」
牛にギュウギュウに押されているAIヨウキの腕に止まっていられなくなった白いフクロウは、羽をばたつかせている。
「フクロウ、一旦上に逃げていてくれ。
大丈夫、すぐに俺もここから抜け出すから。」
フクロウは頷くと腕に捕まっていた足を離し、羽を羽ばたかせて上がると、AIヨウキの頭上でホバリングしだした。
声は出さないものの、ホバリングしながらAIヨウキを押す大きな牛モドキたちを鋭い目と嘴で威嚇し、追い払っている。
牛モドキたちにはあまり効果が無いようだが。
「AIヨウキさんとフクロウがいつの間にかあんなところまで移動してる。
牛モドキたちに押されるがまま流されたって感じかな?」
ブランの頭上まで飛ぶと、目の上に羽で影を作り、遥か遠くまで移動してしまったAIヨウキたちを眺めた。
「うん、この牧場無駄に広いから距離は空いたけど、でも、フクロウがヨウキテリトリーのボスから離れてる。
捕まえるのには好都合だ。
行ってくる。」
白い葉っぱを持ったまま、2,3歩助走をつけたブランは、地面を蹴って跳び上がった。
羽根をパタつかせた牛モドキの背に片足のつま先を付け、そのまま背を蹴る。
2頭先の牛モドキまで飛ぶと、またすぐにその背を蹴って、周りにいる牛モドキや馬モドキの背を次々と跳ねて移動し、牧場の中央まで来たブランは、AIヨウキの頭上を飛ぶフクロウに手を伸ばし脚を掴んだ。
バシッ!
「うわっ!」
「そう簡単に捕まえられると思った?」
ブランの姿を目の前に見たAIヨウキは、すぐに牛モドキの背に乗って立ち上がる勢いとともに、フクロウの足を掴むブランの手を弾いたのだ。
牛モドキの背に立つAIヨウキが腕を横に広げると、フクロウはホバリングしながら降りてきてその腕にとまった。
AIヨウキに手を弾かれた拍子に体制を崩されたたブランは、瞬間的に牛の羽に捕まって背中から落ちるのを堪えた。
「白い葉っぱをこのフクロウに見せても無駄だと言ったよね?」
ブランを見降ろし不敵な笑みを向けるAIヨウキ。
ブランの狙う白いフクロウは、すでにAIヨウキの腕に戻り簡単に捕まえられそうにない。
「よそ見をしている場合じゃないだろ?
俺が攻撃しないとでも思ってる?
攻撃手段は白い糸だけじゃないからね?」
AIヨウキはポケットから属性カードを取り出すとブランに向けた。
「この動物たちに天使カードを使ったようだけど、俺は悪魔を持っている。
このカードの特性から、使用されると対のカードが一番近い相手プレイヤーの手に渡る。
今回は俺しかテリトリーボスが残っていなかったから、もちろん俺のところに発生した。」
「それがどうかしたの?
悪魔カードと言っても、1枚だけじゃないか。」
ブランは天使カードを増殖カードで増やした為、動物たち全部に発動させることができたが、AIヨウキはそんなものは持っていないだろう。
ブランはAIヨウキに挑戦的な笑みを返すが、態度の変わらないAIヨウキには嫌な予感を感じる。
「もちろん、カードは1枚だけ、だから一人に使う。
悪魔カード発動、対象は主人公!
天使になった動物たちと戦ってくれ。」
「えっ?ちょっと待って!」
ブランが止める間もなく、AIヨウキの手の中のカードがひかり発動した。
「ブランに悪魔カード?」
雲行きが怪しくなってきたため、牧場の中央にやってきたタクトの前でブランは悪魔に変わっていく。
細い棒状に伸びた先に三角の角がつき、背中からは先のとがった悪魔の羽が、どちらもブランの髪と同じ銀色だ。
歯がとがり、爪が延び、瞳孔が縦に長く伸びている。
「ブラン鏡で自分の姿見てる?
ほら、悪魔?」
タクトは胸の羽毛に手を入れて手鏡を出すと、ブランの手に持たせた。
「プププ、ボス、に、似合ってる。」
「ケッ、悪魔と言うより堕天使か?」
ペガサスとヒフミヨイの声が聞こえ、ブランのポシェットに入っていたカーラも頭を出し「まぁ、ワタクシと対のようです。」とため息をついている。
ブランがタクトに渡された手鏡を覗き込むと、足元の牛モドキたちの天使リングが光り輝き始め、光が反射して何も見えなくなってしまった。
そして、羽を大きく羽ばたかせ始めた動物モンスターたちは、悪魔となったブランに殺気を飛ばし始めた。
「えー?
タクト、このカードどうやって解除するの?
このままだと戦わないといけなくなる。」
「その通り、この牧場中の天使リングを持つ動物たちと戦ってもらう。
それが嫌なら、そのヒヨコをこちらに渡してもらおうか。」
足元の動物たちの天使リングが眩しくて、AIヨウキの顔は見えないがきっととても得意気な顔をしているだろう。
「そして、油断しているよね?」
タクトは自分の羽を十数枚抜くと、AIヨウキに向かって飛ばした。
「うわっ!?」
鳥の羽は飛ばされた勢いを保ったままAIヨウキの服の様々な場所に突き刺ささり、牧場の端まで飛ばされ、勢い衰えず、鳥の羽は木の柵に突き刺さり、AIヨウキに至っては柵に張り付けにされてしまった。
AIヨウキが飛んで行ってしまった後、白いフクロウだけはその場に置き去りにされ、止まっていた腕の消滅とともに、牛の背に足から落下した。
「ブラン、その天使カードと悪魔カードだけど、発動するとどちらかが負けを認めるまでそのままなんだ。
このゲーム世界に、この属性カードいるかな?」
「ワタクシは必要だと思います!」
タクトがブランの顔を見て考え込むと、カーラはポシェットから体ごと出して訴えた。
「それより、このフクロウ落ちてたけど、どうする?」
牛の背中に落ちたショックで固まっているフクロウを、ペガサスが鼻で突いてみるとフクロウは我に返って首を180度左右に振った。
「いったい、何が?」
「そうだった!
今がチャンスだよね。
さっきはできなかったけど、もう一度やってみる。
無理やり押し込むってやつ。」
「はぁぁぁぁ?何のことですか?」
白いフクロウが驚きのあまり大きな口を開けたのを見たカーラが頭の後ろから嘴を抑えて固定させた。
「ナイスタイミング、カーラ、そのまま持ってて。」
「はい、マスター!」
牧場の端に張り付けにされたAIヨウキは、必死で柵に刺さった羽を抜きながら「やめろ、リアルも見てるからな!」と叫んでいる。
タクトは、周りの天使化している動物モンスターたちに、ブランが邪魔されないよう、順番にケリを入れている。
暴れないように少しだけ痛み情報を与えているため、動物モンスターたちは警戒してジリジリと後ろに下がりつつある。
「リアルも見てる、か。
まあ、テストだし、モニタリングはしてるよね。」
「あがっがががっ、ぐううう。」
無理やり大きく開かれた嘴に、白い葉っぱを持った手を腕ごと突っ込むと、白いフクロウは変な声を漏らし涙を流した。
「これくらい奥に突っ込んだら大丈夫かな?」
ブランが嘴から手を抜くと、カーラは直ぐに嘴が開かないようにするため後ろからギュウギュウに閉じらた。
フクロウが苦し気に悶えているが、その後ろからカーラのケケケケッという笑い声がしていた。
「なんてむごいことを。」
やっとタクトの羽を外して戻ってきたAIヨウキは、サポートキャラの無残な姿に目を背けつつも、せめてもと、白いフクロウを抑えつけていたカーラを摘まんで剥がした。
「ホッ、ホウッ」
口を抑えられて悶えていた白いフクロウが、自由になると一変して楽し気に声を上げ、両羽根を伸ばすとカーラに抑えられ乱れてしまった頭の羽を整え始めた。
奇麗に頭を整え終わると、牛の背に真っすぐたち、両羽を頬に当てた。
「なんて素晴らしい、爽やかな味わいでしょう。」
「あっ、成功したみたいだな。
やっぱり、ロックはサポートキャラの意志部分だけで、どんな方法であれ口の中に入れた後の状態は攻略可のままだったんだ。」
「うん、そうみたいだ。
ヨウキテリトリーのボスがAIのときは一言も発話しなかったのに、今はいろいろ喋りはじめた。
何より俺を見る目つきが変わったと思う。」
白いフクロウはクルクルと首を回すと、ブランの前に顔をピタッと止めて向け、上にあげた片羽根を胸元まで持ってきて丁寧にお辞儀をした。
「新しい主、どうぞよろしくお願いします。
すでにすべてのテリトリーを攻略されておりますので、短い間かとは思いますが。」
「こちらこそ、よろしくね。」
「ああ、何てことでしょう。
せっかくの悪魔の装いが消えてしまいました。」
白いフクロウを攻略したことで勝敗がつき、悪魔カードの機能が消え、ブランの姿も元に戻ってしまったことを残念がるカーラ。
「プププ、動物たちの天使の輪っかと羽も消えていくよ。
そして、ボスは霧の中に行っちゃうんだね。」
「ついて行きたい気持ちはありますが、ワタクシたちはついて行ってはいけないようです。
ワタクシ前回ポシェットから出られないと言う、とても残念な制限を受けてしまいました。」
「ケッ、当り前だ、俺たちが行っても全く意味がないからな。
ポシェットに入っていなくても、いないモノ扱いされるのがおちだ。」
ブランの周りに白い霧がかかり徐々に濃くなって、その姿を覆い隠してしまった。
ブランが霧の中を進むと、自分の名を呼ぶ声と大勢の人のざわめき声が聞こえた。
「そうか、これは、国葬をやってるんだ。」
突然の突風に大勢の声が掻き消され、霧がブランを置いて流れてしまうと、歩く足音の響きだけが聞こえるようになった。
暗く静かなその場所には厳かな雰囲気が漂っている。
「ここは、そうだ、大聖堂の地下。」
通路は暗いが、その先に一際豪華で大きな棺があるのを知っている。
「思い出した。
国葬を終えた後、俺は父さんの後始末をやり終えたんだ。
十年以上かかって、みんなとやり遂げたことを、父さんに報告に来てるところ。」
今両手いっぱいに抱えている茶色く枯れた薔薇、元の色は柔らかで淡いグレーだった。
「小さいころから、聞こえては忘れて、気づいても不思議とは思えない声。
父さんを倒してからは、全く聞こえなくなったけど。」
ブランは小さな笑いを漏らした。
「俺に父さんを討伐させて、勝利したタクトのゲームが終わったからだったんだな。」
両手に抱えている枯れた薔薇に視線を落とすと、目の前の豪華な棺の上にばら撒いた。
「それなら、今度は。」




