096 最後のテリトリー2
ヨウキテリトリーの紫陽花園を、今は動いていないトロッコ列車の線路上から眺めていた白いフクロウは、テリトリーボスが返ってきたことにすぐに気がついた。
「ホウ、AI主のご帰還ですか。
リアル主で無いのは残念ですが、まあ、いいでしょう。」
遺跡のある森では、動物モンスターたちが放置されたまま暴れ回っている。
「ヨウキテリトリーのボスを元に戻したのはいいんだけど。
この動物たちってまだ残ってるんだよね。
破壊が止まらないようだけどどうしたらいいと思う?」
「そうだな、俺もこれは予想外だったな。
てっきり、AIヨウキさんと一緒に元のテリトリーに戻ると思ったんだけど。
このままだとAIヨウキさんの思惑通り、いずれは遺跡を粉砕されてしまうかも。」
「それって、俺が元の世界に帰れなくなるってことだよね。」
不安な様子のブランに、だからネタバレしたくなかったのにと、AIヨウキを恨めしく思うタクトだが、そう思っても仕方が無いとブランの肩から離れた。
「仕方ない、駆除していくか。」
羽根を2枚出して構えるタクトに、ブランが首を振った。
「駆除じゃなくて、元の牧場に戻すことはできないかな?」
ヨウキテリトリーの牧場まで、気性の荒いこの動物モンスターたちを移動させるのは難しい。
しかも、数頭だが巨大な像モドキまでいる。
「AIヨウキさんはどうやってこいつらをここに連れて、、、。
そういえば、あいつら今は羽が無いけど、ペガサスが見たときには羽があったんだよね?」
「プププ、そう言えば、ボクが見たときはあったけど、今は無いね。」
「AIヨウキがこの動物たちをどうやって運んだのかと思ったけど、きっと、羽を付けてここまで運んできたんだ。
動物たちの意思とは関係なく。」
「そういえば、以前ココアさんにもらったカードにそんな感じの属性カードがあった。
ほらこれ。」
ブランがポシェットから出したのは、エンジェルカードだった。
「なるほど、でもこれは1人に1枚しか使えない。
これだけ多くの動物モンスターを運ぶとなると。」
「だったら、これを使えばいいんじゃないかな?」
ブランが続いて出した増殖カードを見たタクトは直ぐに首を振った。
「却下、それは高貴な人の血、つまりブランが血流す必要がある。」
「別にいいんじゃないかな、少し指先を切ったりするくらい。
ほら、ペガサスが食べたキノコの入っていた籠があるから、これ一杯に増やせば動物たちの数くらいにはなると思うし。」
「だめだ、ブランが怪我をするくらいなら、ってでも、高貴な血がいるのか。
俺じゃ駄目だな。
高貴な血、高貴な血、高貴な、高、、、だめだ、この世界にそんな身分制度の設定は入れてなかった。
失敗した。」
「ほら、タクトの失敗なら、主人公の俺がそれを補うのは道理じゃないかな?
それに、痛みは無いんだし、ネッ!」
ブランが良い笑顔をタクトに向けると、タクトは首を下に向けた。
「そんな問題じゃない、俺の気持ちが、痛むんだ。」
「痛みの値は0だから、大丈夫。」
ブランは、タクトの羽毛に手を入れ素早く籠を取り出し、属性カードと増殖カードを籠に入れると、側に落ちていた尖った岩にこぶしを叩きつけた。
「うーん、岩が砕けただけで、これくらいじゃ、血を出すどころか、擦り傷もできないか。」
タクトの心配をよそに、ブランが何か手を傷つける方法が無いかと思案しているところに、ヒフミヨイとペガサスが、無傷のままのブランの手を覗き込んできた。
「ケッ、真ボスは丈夫だな。
俺が手伝ってやる、ほら指を出しやがれ。」
ヒフミヨイが爪の鋭い脚を前に出して見せていると、カーラがブランのポシェットから顔を出した。
「いえいえ、血と言えば、蝙蝠であるワタクシの専売特許でしょう。
私が痛くないように牙を立てて差し上げます。」
「プププ、これはさすがにボクは競えない。」
「そうか、そうだった、カーラがいた。
じゃ、頼むよ。」
「はぁ、仕方がない。
これ以上止めたらブランは、尖った岩を砕いたり、自分の剣で切ったりしそうだ。
カーラ、分かってるだろうな?」
「はいぃぃぃ、分かっております。
優しく、丁寧に、後が残らないように、すぐ傷が塞ぐようにいたします。」
タクトに圧をかけられたカーラはポシェットから出てくると、フラフラと飛びブランの手に縋り付いた。
「はあぁ、これがブラン様の手のひらですね、何て香しい。
成長されて一回り大きくなった手もなんとも美味しそうで。」
「カーラ?」
「はいいいい、更にヒヨコの圧がすごいです。
血は一滴も飲みません、ちょっと指すだけです。」
ブランの肩に乗って見降ろすタクトから更に圧をかけられたカーラは、震えながらもブランの人差し指に両手を添えて、カプッと牙を突き立てた。
小さな玉上の血が浮かび上がると、カーラはすぐにその血をすくって籠の中の増殖カードに落とす。
「はい、終わりました。
ほら、まったくもって、痕も残っていません!」
「ほんとだ、ポツンとした傷も残ってない、すごいね、カーラ。
それにたったこれっぽっちの血で、ほんとに籠の中の増殖カードがエンジェルカードを増殖させ始めた。」
タクトとカーラのやりとりを見ていたヒフミヨイは、ペガサスと目を合わせると胸を撫で下ろした。
「ケッ、俺がやってたら、傷痕が残ってた。
危うくヒヨコにこの世界からデータを消されるところだったぜ。」
「ボクも、競い合えなくてよかった、ププ。」
その頃、レンタル返却が完了したとたんに、強制的にヨウキテリトリーに戻されたAIヨウキは教会の女神のもとにいた。
「あら、お帰りなさい。
レンタル期間が完了したのは通知が来たので知ってるわよ。」
白い石膏像の女神がチャペルの最前列の椅子に座っている不服顔のAIヨウキに話しかけたが、返事は帰ってこず、それどころか大きなため息をつかれてしまった。
「ふー、返却完了か、あんな無理強いするとは思わなかった。
どちらかと言うと、人に合わせて動くような、そんな性格のメインプレイヤーだったはずだ。」
「メインプレイヤー?
その不服顔は、何かひと悶着あったのね?
あら、そう言えば、メインプレイヤーについては、キャラ変っていう情報が入ってるわよ?」
「メインプレイヤーのデータが更新されていたのか、キャラ変の詳細情報はあるのかな?」
「いえ、ただ、キャラ変という名詞だけね。」
「そうか、使えない情報だな。
他に何かあるかな?」
「メインプレイヤーの更新データは無いわ。」
「そうか、キャラ変か。
文字を分割して意味を考えると、メインの性格が変わるということだな。
二重人格、いや、数種類の変更かも知れない。」
教会の外に出ると、丸太小屋の上に白いフクロウが止まっていた。
「サポートキャラか、ただいま。」
AIヨウキが腕を前に出すと、白いフクロウは羽を広げて音もなく屋根から離れ、腕に捕まった。
「主人公たちは直ぐ来るだろう。
対策を講じないと。」
ーーーーー
「ヨウキさん、何でこっちに来てるんですか?
差し入れなら必要ないですよ?」
「タクトたち、AIヨウキとの攻防に入ってるぞ。」
システム室でログ、モニター、球状ディスプレイの監視を行っていたアオバとシキに冷たい視線を浴びせられているのは、ヨウキだった。
2人の冷たい視線に慣れているヨウキは、動じる様子もなくシキの隣の空いている椅子に座った。
「確認したいことがあるから、俺のことは気にせず続けてくれ。」
「確認したいことってなんだ?
設定関係なら、言ってくれたらすぐログ出るぞ?」
「いや、設定はもう済んでる。
ほら、この間、タクトと話をしたことを言っただろ?」
「ああ、サポートキャラに対しての追加設定のことだな。」
アオバが納得してモニターに視線を移した。
「だから、ヨウキさんはこっちにいるんですね。
それにしてもヨウキさんのAIって、地味に性格悪くないですか?
必ず相手の弱点だけをついていってる。」
「勝つことしか考えていない結果だな。」
「ははは、それはリアル俺の性格がいいってことで、褒められてるのかな?」
シキとアオバは無言を返したが、無言の肯定とは到底言えない空気だった。
ーーーーー
「あれは、俺が遺跡のある森に連れて行った、このテリトリーのモンスターたち!
羽根がついている、何故だ?
確かに羽のカードは回収して来たはずなのに。」
紫陽花園から離れた場所で対策を講じようとして、ヨウキテリトリーの牧場まで来たところで、AIヨウキは空を飛ぶ動物モンスターたちを発見した。
「このタイミングで獰猛な動物モンスターたちの帰ってくるなんて。
よく見ると、羽が付いているし、動物たちの様子がおかしい。
頭に天使の輪っか?がついている?」
「その通り!
天使カードを使って、いい子になった動物たちにここまで自分たちの意思で飛んできてもらったんだ。」
ペガサスに乗ったブランが動物モンスターたちに、自分たちの牧場に戻るように指示すると、あの獰猛なモンスターだとは思えぬ程に素直にそれぞれの牧場に降りて行く。
「天使カードの効果はすごいね。
皆優しくていい子になって、俺の言うことを素直に聞いてくれるようになった。」
「ブランが自分の身を犠牲にしたおかげだよ。」
フッと遠い目をしたタクトに、苦笑するブラン。
頭に天使のリングと羽を付けた、牛モドキに囲まれたAIヨウキは呆気に取られている。
そして腕に捕まっているフクロウを無防備な状態にしていることに気がついていない。
「よし、今なら。」
ペガサスから降りたブランは、紫陽花の葉を模した葉脈が透けて見える白い葉を、サポートキャラの目の前に差し出した。
「ほら、君が教えてくれた攻略アイテムの白い葉っぱだ。
これだよね?」
白い葉っぱを見たAIヨウキは一瞬顔を強張らせたがすぐに余裕の笑みを浮かべた。
「今の俺のサポートキャラにそんなものが通用すると思ってる?
対策済みだ。」
「?攻略アイテムだよ?」
AIヨウキの言葉どおり、フクロウは目を見開くも、その次には大きな羽をクロスさせて×を作った。
「どうして?これじゃなかった?」
サポートキャラの拒否を表す行動に、タクトは以前にこのテリトリーでリアルヨウキと話していたことを思い出した。
「そう言えば、以前にAIのときに攻略されるのはとか、そう言う話したっけ。
知らないうちにゲームが終わっていることになりかねないし、そこは制限すべきみたいなことも提案したような。
サブプレイヤーがAI状態のときには、サポートキャラが攻略アイテムを受け取れないようなロック設定を導入したんだ。」
「えっ?ロック?
じゃ、リアルを、MANUAL表示を待たないと無理なの?」
肩に乗ったタクトの呟きはもちろんブランに聞こえており、驚きを隠せない。
「うーん、サポートキャラの口の中に無理やりねじ込んだらどうなるだろう?
意志的なものはロックしたとしても、中に入れるとどうなるか。
今までなかった機能だし、これもテストしといたほうがいいかな?」
「無理やり?」
「そう、ブランはフクロウが可哀そうだと思うかも知れないけど、俺としては試して、、」
「わかった!やってみる。」
「って、即答。」
駆除はダメでも、無理やりねじ込むのはいいらしい。
「ダメで葉っぱが無駄になっても、また歌のお兄さんを探し出して、もらって見せるから。
大丈夫、まかせて!」




