095 最後のテリトリー1
「わーい、いた!助けて、ボス!」
地響きを立てて走ってきたのセツキの元サポートキャラのペガサスだった。
ブランを見つけると、勢いづいたスピードを落とすべく前足を伸ばして踏ん張り、土埃を立てながら滑りだした。
キキッーーーッー。
急ブレーキの音と土埃を立ててブランの前で止まったペガサス。
その姿に羽は無かった。
「ゴホッ、ペガサス?どうしたの?セツキさんは?羽は?」
砂塵を浴びるのを避けるために立ち上がったが、沸き立つ土埃に皆が咳込み、涙ぐむ。
「ぐ、いきなり食事の邪魔を、げほっ、しやがって、ケッ、」
「ワタクシも、ゴホッゴホッ、そう、思います。」
ヒフミヨイやカーラの毒づきなどお構いなしに、ブランに鼻を擦り寄せるペガサス。
「いじめられたんだ、空飛ぶ牛や馬や羊に。
元ボスは今舟遊びにはまってて、ボクは暇だったからちょっと散歩してたら、森であいつらに会って。
羽根が無いのは、元々こっちがボクの本来の姿だから、羽があった方がいいならいつでも出すよ。」
「えっと?とりあえずセツキさんは関係なくて、散歩中にペガサスがひどい目にあったってことで。
空飛ぶ牛や馬や羊って?」
ヒン!と瞳を瞬きすると大粒の涙がこぼれ落ちた。
「そいつら、ここから近い森で好き勝手に暴れてるんだ。
俺が通りかかったら、う、羽が生えた牛たちが闘牛みたいに戦ってたから、気になってちょっと近づいてみただけなのに。
噛みついてきて、ほら。」
ペガサスが後ろを向くと、長かった白銀の尾は、毛先がバラバラで短くなっており、一目で噛み千切られたと分かるほど悲惨な姿に。
「これはひどい!
ケッ!サポートキャラの命より大切な尾を何だと思ってるんだ!」
ヒフミヨイが体を震わせて怒ると、タクトも「これはひどいな。」と頷く。
「新しいボスが近くにいるのが分かったから、急いでこっちに逃げてきたんだ。」
ヒンヒンと鳴くペガサス。
「何だかヤバそうだな。
足にも噛み傷があるじゃないか。
空飛ぶってところは違うけど、獰猛な牛や馬だったら心当たりがなくも無い。」
ヒヨコの羽毛で分かりにくいが、タクトは眉間にかなりの皺を寄せている。
ブランもタクトと同じことを考えているが。
「それって、これから行こうとしているヨウキテリトリーの牧場にいた動物のモンスターたちのことだよね?
動物たちに羽は無かったと思うけど。」
「実は、ここに来る前にマップで現状を確認しておいたんだ。
だから知ってるんだけど、ヨウキテリトリーの牧場は今空の状態で、以前見た獰猛なモンスターたちはいなかった。
そして、ペガサスは近くの森を荒らしていると言ったよね?」
「うん、ここからそう遠く離れてないよ。
俺の全力疾走で3分くらい。」
土埃の治まった地面に足を折って座り込んだペガサス。
「俺はヨウキさんの位置も確認したんだ。
ヨウキさんがいるのも、ここから近い森で、それはブランが最初に通ってきた遺跡のある森だった。」
ブランはタクトが何を言いたいのかに気がついた。
「それって。
ヨウキさんが遺跡のある森に動物モンスターたちを連れて行ったってことだね。」
「俺はその可能性が高いと思ってる。」
「わかった、じゃあ急いでいこう。
ペガサス、逃げてきたとこ悪いんだけど、案内してくれるかな?
「プププ、ボスの頼みじゃ断れないし。
でも、ボスがボクの尻尾の敵を取ってくれるよね。」
ウルウルとした瞳で大きく瞬きを繰り返してブランにすり寄るペガサスに、ブランのポシェットから顔を出したカーラが首を振った。
「ケケケッ、ネコを被ってますけど、分かってますよ?
尻尾くらい自分で治せるでしょう?
実質、ワタクシ、カーラが一番最初の攻略サポートキャラですからね、そこは踏まえていただかないと。」
「プププッ、何言ってるんだか分からないな。
蝙蝠より白馬の方が、いやペガサスの方がかっこいいし、攻略順番なんて関係ないよ。」
何故かバチバチと火花を散らし始めた白い蝙蝠とペガサス。
「ケッ、醜い争いだ。
俺なんか攻略アイテム無しで自分の意思で仲間になったんだ。
不可抗力とは言え、2度攻略された俺が実質一番なんだよ。」
優雅に羽を広げて舞うヒフミヨイは空高く飛ぶと、すぐにブランのもとに戻ってきた。
「真ボス、確かに、ここから4~5kmくらい先にある森が騒がしいようだぜ。」
「そうか、ヒフミヨイは高く飛んで森の様子を確認してくれたんだ。
わかった。」
カーラとペガサスに恨めしそうな視線を向けられ、ドヤ顔で迎え撃つヒフミヨイ、サポートキャラたちの争いが水面下で始まったようだ。
「ヒフミヨイは先を飛んで案内をしてくれる?
走ってついてくから、動物が見えたら教えて。」
「ケッ!OK真ボス!」
高度を上げて飛行するヒフミヨイの後を追って、肩にタクトを乗せたブランが走り出すとそこにペガサスも続いた。
街道をしばらく走って道をはずれて、森に近づくと、微かに動物たちの鳴き声が聞こえてきた。
森に近づくにつれ周りの木々が多くなり、空高く飛ぶヒフミヨイの姿が木々の間から見え隠れするようになった。
微かに聞こえていた動物たちの声がはっきりわかるようになった時、ヒフミヨイがブランの元に戻ってきた。
「真ボス、ここから先にある大きな木の裏側で、馬が低木を蹴散らしてる。
さらに先だと、ヒツジが馬鹿みたいに草を食い荒らして、地面を裸にしてるし、牛は岩に体当たりしてる。
何かを探しているみたいにみえるぜ。」
「人はいた?」
「ケッ、あそこで人は見なかったが、もっと先にいるかもだぜ。
何か分からないが、でかくて丸い足跡が森の奥に続いていたからな。ケッ
牛や馬よりでかい動物を連れてきてるんじゃないか?」
「でかい動物、そういえば、像モドキとかいなかったかな?」
タクトが目を細めて思い出すと、ブランも像がいたことを思い出した。
「いたよ、確かに。
牛モドキに噛まれそうになった時、避けて向かったところが像モドキのところだった。」
「像まで連れているのか。
何となく、ここに何しに来たのか想像がついてきたけど。
まさか、ヨウキさんがそこまでやるかな?」
「タクト、その目的は俺には分からないけど、ヨウキテリトリーのボスを見つけないといけないから、あの木の向こうを避けて、引きずられた後の先に進もう。」
奥に進むにつれ森が深くなり、空を飛ぶヒフミヨイは木に隠れて見えなくなっていく。
動物たちが暴れる範囲を迂回しながら先に進むと、確かに大きな動物の足跡があった。
「これって、やっぱり像だよね。」
「像だな。」
足跡を追っていくと、牛や馬とは異なる動物の鳴き声と人の声が聞こえてきた。
「さすがに、なかなか見つからないな。
サブプレイヤーに見えない仕様にはなっていなかったはずだから、必ず見つけられるはずだ。」
パオーーーンッ、パオッ。
「いた、最初と違う姿だけど、あれがヨウキテリトリーのボスだ。」
そこには、ヨウキのリアル自分アバターではなく、黒髪青年の姿があった。
「ブラン、あの人がAUTOかMANUALか、確かめることはできるか?」
木々の合間から見えるヨウキと像たちは、岩をどかし木を倒し、森を荒らしながら何かを探している。
「うーん、今は見えないけど、ちょっと待って集中してみる。」
その間にも岩が砕ける音、気が倒される音が辺りに響く。
「見えた、あの人の頭の上にAUTOの文字が見える。」
「あのヨウキさんはAIか、なるほど。
やっぱりこの地球の中心と繋がる遺跡を探してるんだな。」
「どうして?」
「ネタばれになるから、これ以上は、、、。」
タクトが申し訳なさそうに眉を下げると、18歳のブランが頬を膨らませた。
「いや、それはそれで、申し訳ないと言うか、可愛いと思うけど。
15歳のときにはしなかった幼い行動を、18歳になってするなんて、あざとさが増してないか?」
「何のことかわからないけど、そんな手がタクトに通じるなんて思ってないよ。
単純に怒ったことを表現しただけだ。」
「なるほど?」
マシロ似のグレーの瞳をしているブランには使えなくもない手だが、マシロの情報はこの世界には一切入っていないためブランはそれを知りようもない。
「そう言えば、俺はブランシュ母さん似だから、もしかしてタクトを動揺されられたのかな?」
「ぐっ、記憶が戻ってるから、そんなことも言えるようになっているのか。」
「はははは、父さんを討伐したところまでは思い出してるからね。
そこから先がまだだけど。」
「討伐と仰いましたか、ワタクシには分かり兼ねますが、ニューマスターは中々壮絶な記憶をお持ちのようで。」
「プププ、ほんとだ。
母さんなんてのもいるんだ、すごい、さすがボス、ボク尊敬するよ。」
「グッ!」
「タクト!?」
和やかに話している隙をつかれて、ブランの肩に乗るタクトは後ろから静かに素早く伸ばされた白い糸に捕まってしまった。
「こんなところまで追いかけてくるなんて、さすが主人公だな。」
ブランが振り向くと、白い石から噴出させた糸でがんじがらめにしたタクトを両手でしっかりと抑えたAIヨウキが立っていた。
「森を壊す音が大きく響いていても、俺はマップで主人公の位置を常に監視しているからね。
森に近づいて来た時点で分かっていたよ。」
「さすがAIヨウキさん、手強いな。
気づかないふりして、こちらの油断を誘ったか。」
目と嘴だけは自由の聞くタクトだが、AIヨウキの中で身動きが全く取れなくなってしまっている。
「さあ、タクト、俺に堕ちてもらおうかな、でないとこのまま森を破壊して遺跡を見つけてしまうよ?
そしたら、主人公が原点に戻れないように遺跡を粉砕するからね。」
「遺跡を粉砕って、原点に戻るって?」
「ネタばれになるけど、教えてあげよう。
原点に戻れなければ、テリトリーをすべて攻略しても、元の世界に戻ることはできなくなる。
だから、主人公がテリトリーを攻略する意味が無くなるってことだ。」
ブランは驚きの拳を固く握る。
「帰れなく、なる?」
「AIヨウキさんは、勝つためなら、本当に容赦ないな。
ただ、がんじがらめにしたくらいでで俺を捕まえた気になるのは、計算が甘いとしか言えないけど。」
「体全体を抑えられているのに、強がりはよして、もう俺に堕ちたら?」
タクトは大きく嘴を開けると、ピンク色の舌をカメレオンのようにどこまでも伸ばした。
「ん?なんだ?」
のばした舌に勢いをつけて折り返し、余裕を見せていたAIヨウキの目につきたてた。
「うわ、目が。」
AIヨウキの緩んだ手から脱出したタクトは更に、糸の間から足を抜け出させ爪を立て、AIヨウキのすねにケリを入れた。
「痛覚値100%キック!」
それはキックと言うより、縦にひっかくと言った方が正しい動作だった。
足の脛を上から斜め下に抉られてしまったAIヨウキは、足の力が抜けガクッと片膝をついた。
「う!なんだこれは、意図せず膝が落ちて、しかもズキズキと表現すべきだと思える、この感覚は。」
「それが痛みの情報だ。
AI状態のプレイヤーやAIキャラだけに使える、俺のチート設定だ。
値100の状態では両足で立つことは不可能だ。」
目の横に十字の長い光で勝ちを表したタクト。
「ブラン今のうちに、AIヨウキさんの両手をあげさせて、レンタルカードを持たせるんだ。」
「わかった。
カーラ、ヒフミヨイ、ペガサス、手伝って!」
カーラとヒフミヨイが両方から腕を握ると、AIヨウキはギョッとした顔をして叫ぶ。
「やめろ!」
2羽が挙げた腕の手首をペガサスが奇麗に元に戻した尻尾で縛り上げた。
「レンタルテリトリー、返却します!」
ブランがあげられた両手にカードを挟み、その両手を自分の手で包み込むとカードが光を放った。
「あ、テリトリーボスの姿が消えた。」
テリトリーレンタル返却完了とともに、サブプレイヤーの制限が発動したため、AIヨウキは強制的にヨウキテリトリーに戻された。




